香港版『おっさんずラブ』、その本家愛がすごい!違いも含めて楽しむリメイクの醍醐味

<『大叔的愛』(香港版『おっさんずラブ』)レビュー・文/横川良明>

香港で、『おっさんずラブ』がリメイクされる。そのニュースにふれたときから、僕の脳内は「めっちゃ見たい」と「見たくない」が関ヶ原の戦いを起こしていた。

だって、あの『おっさんずラブ』である。ピュアすぎる恋にときめき指数がファイザーの株価くらい爆上がりし、地獄の6話から最終話までの1週間、春田の「は」の字を見るだけで涙し、「牧」の「ま」の字を聞くだけで胸が苦しくて道端でうずくまっていた、あの『おっさんずラブ』である。

それが、海をこえて、リメイクされる。もうめちゃくちゃめでたい。日本の選手がオリンピックで金メダルを獲ったくらい誇らしい。世界よ、これが日本だ。

しかし、それと同時に不安もあった。だって、僕の中では春田はイコール田中圭だし、牧はイコール林遣都。別の人が演じている春田と牧なんて…と、初恋を忘れられない生娘みたいな反発心が農民一揆を起こしていた。

見るべきか見ざるべきか。花びらを1枚1枚ちぎってみたところで答えの出ない究極の選択。それでも見ようと決意したのは、金木犀の香りがしはじめたからかもしれない。

君に会いたいなぁ。小さくつぶやくようにして再生した香港版『おっさんずラブ』。それは、結論から言うと、めちゃくちゃ本家へのリスペクトが溢れる、もうひとつの『おっさんずラブ』だった。

◆香港版『おっさんずラブ』の本家愛がすごい

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香港版の春田創一は田一雄(ティン・ヤッホン/阿田<アティン>)、牧凌太は凌少牧(リン・シュウモウ/阿牧<アモウ>)と、それぞれ名前からすでに本家愛を感じさせるもの。

そして、ストーリーも本家をほぼ踏襲。屋上でのキャットファイトや伝説のおでこキスなど人気エピソードをそのまま再現。

さらに、ハート形のイルミネーションなど細かい演出も完全移植。なんなら部長が登場するときのタンゴっぽい曲調など、劇伴も本家を意識したものになっていて、その本家愛にめちゃくちゃテンションが上がってくる。

何より最も強い本家愛を感じさせるのが、イードン・ルイ演じる田一雄だ。これが完全に田中圭演じる春田に「寄せて」くれているのである。

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酔っ払った春田(阿田)が床に寝転がってネクタイを外しながら爆睡するところや、田中圭がよく見せた顔を小刻みに振るリアクションなどをがっつり模写。次々繰り出される顔芸の数々に、あのときどうしようもなくみんなが愛して、今もまだ心の中で生き続けている田中圭の春田創一に再会したような気持ちになる。

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香港版・黒澤武蔵となるのは、“KK”こと?国強(ジャ・ゴッキョン)。演じるのは、香港の人気俳優ケニー・ウォン。こちらも吉田鋼太郎の持つダンディズムを受け継ぎながら、あれから年月が経ち、より大衆のLGBTQに対する考え方が深まったところを感じさせるキャラクターに進化している。

個人的に最も笑ったのが、本家でも登場した、夫に愛人がいると疑う妻の蝶子(※日本版では演:大塚寧々)が春田と一緒に浮気現場を張り込みする場面。

こちらも大筋は香港版もまったく同じ。部長に見つかりそうになった春田がソファにジャンピングダイブする場面もそのまま再現されていて、懐かしさと面白さで笑いたいのか泣きたいのかわからない気持ちになってしまった。

◆大切なのは、違いを楽しむ気持ちを持つこと

その上で、香港版ならではのポイントを挙げるとすると、全15話ということで、本家にはないエピソードが随所に盛り込まれているところだろう。

9月16日現在、6話まで配信中だが、最も顕著な違いは、阿牧と、本家では武川さん(眞島秀和)の役どころとなるダレンの設定だ。ぜひここは本編をご覧になっていただきたいので詳細は伏せるが、ダレンにはある設定が付加されている。

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そのことによって、阿牧とダレンの関係性がより複雑なものに。なぜ阿牧がダレンとの別れを選んだかも明確なものになっていて、いわゆる「武牧」が好きだった人にとっては興味深いものになっている。(ただし、武川さんが潔癖キャラなのに対し、ダレンはわりと“パワハラみ”が強めになっているので、そのあたりのキャラ改変は要注意)

また、本家のマロ(金子大地)の役どころにあたるルイスもややマイナーチェンジ感が。生意気だけどおバカさ加減が可愛かったマロだが、ルイスに関しては今のところおバカさはほとんどなく、どちらかと言うとプレイボーイ設定が強めになっている。

まだ6話の段階では蝶子さんのポジションとなるフランチェスカとのやりとりがほとんどないため、自信家で要領の良いルイスがここからどう確変していくかは大きな見どころのひとつとなりそう。

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お国柄の違いなのか、春田が実家住まいだったのに対し、阿田は独立はしている。また、本家では春田母が登場したのに対し、香港版ではその役割を姉が担っている。

香港版では5話の時点に阿牧は姉と遭遇しており、本家の6話で描かれた春田母と牧のやりとりも盛り込み済み。ただし、母と姉では同じ肉親とはいえ、牧(阿牧)が感じる後ろめたさは違うだろうし、このあたりは母から姉に変化したことで、プラスになるのかマイナスになるのかは、今後の展開次第といえそう。

そうした違いも含めて楽しんでいくのが、リメイクの醍醐味。

ルイス、ダレン、フランチェスカなど、洋名が目立つので気になって調べてみたら、長らく英国領であった香港では本名とは別にイングリッシュネームをつける文化があるのだとか。

そうした知らなかった文化を楽しめるのは海外ドラマを見る楽しみのひとつだし、気軽に旅行ができないこの時代だからこそ、画面に広がる香港の風景を眺めながら観光気分を味わうのも一興かもしれない。

◆春田と牧のやりとりをもっと見たい!!

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ちなみに阿田と阿牧を演じるイードン・ルイとアンソン・ローは、香港の人気ダンスグループ・MIRRORのメンバー。検索してみると、バッキバキに踊るイードン・ルイとアンソン・ローの雄姿もすぐに見つかるはず。

本編では三枚目キャラクターに徹しているイードン・ルイが有名ブランドのプロモーションムービーで悩ましげにピアノを演奏する姿はギャップが激しすぎて三半規管が狂いそう。ちなみにピアノを弾く横で、アンソン・ローがゴリゴリに踊りまくっているので、香港版『おっさんずラブ』を見た人はぜひセットでこれも見てください。

ただ、6話の時点では、『おっさんずラブ』最大の魅力である春田(阿田)と牧(阿牧)の恋愛要素はかなり少なめ。どちらかと言うと、ここまでは部長(KK)と蝶子さん(フランチェスカ)の離婚問題が重点を置いて描かれていて、今のところ2人の大きな見せ場は本編2話で登場したおでこキスの場面くらい。

春田(阿田)を好きになってしまった牧(阿牧)の苦悩や、恋愛感情はもっていないと思いながら、だけど牧(阿牧)といると幸せだと感じる春田(阿田)の“恋心”は、ここからさらに深掘りされていくはず。

つまり、僕たちの大好きな『おっさんずラブ』はまだまだここから。あの胸キュン爆弾に日本が焦土と化した“原宿デート”や、「恥ずかしくないから。牧といることは、俺にとって全然恥ずかしいことじゃないから」も、きっと素敵に再現してくれるはずだと期待したい。

もちろん、本家『おっさんずラブ』がもたらしてくれたあのときめきは、何よりも大切なものだ。僕自身、天空不動産は唯一無二だと思っている。それは何に代用されるものでも上書きされるものでもない。でもその上で、いい意味でパラレルワールド的な感覚で楽しむ余裕があるなら、一度、香港版を見てみるのもいいかもしれない。

本家とはまた違う面白さに出会えるだろうし、香港版を見た上で、また天空不動産のあの人たちに会いたいな、という気持ちがきっと湧いてくるはずだから。

好きという気持ちに終わりはなくて、どんなに時間が流れても、ふれれば一瞬であのときの狂おしいほどの昂りを解凍してくれるのが、恋。『おっさんずラブ』はそれだけ本気で恋をした作品なんだと、この香港版が思い出させてくれた。

※配信情報:香港版おっさんずラブ『大叔的愛』
動画プラットフォーム「TELASA(テラサ)」にて隔週土曜日に3話ずつ配信中

【第1〜3話】2021年8月21日〜 配信中 ※第1話無料
【第4〜6話】2021年9月4日〜 配信中
【第7〜9話】2021年9月18日0時〜 配信スタート
【第10〜12話】2021年10月2日0時〜 配信スタート
【第13〜最終話】2021年10月16日0時〜 配信スタート

※「TELASA(テラサ)」公式サイトはこちら

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