内村航平、新王者・橋本大輝と直接対決へ。内村超え狙う後輩に「そこを目指してほしくない」

10月18日(月)から福岡・北九州で開催されている「世界体操」。今回は10年ぶりの日本開催、かつ史上はじめて「世界新体操」との同時開催となる。

そんな記念すべき大会で一番の注目は、男子種目別鉄棒に出場する内村航平と橋本大輝の戦いだ。

写真:PICSPORT

体操界に君臨してきたキングと、東京五輪で金メダルを勝ち取った新王者。日本が誇る2人の直接対決は、体操史に残る名勝負になりそうだ。

◆急成長する新王者

初出場した今年の東京五輪では、ゆか・あん馬など6種目を争う個人総合で同種目史上最年少となる金メダルを獲得。続く種目別の鉄棒でも決勝進出者唯一の15点台をマークし、2つの金メダルを獲得した橋本大輝。

大会当時19歳ながら団体でもチームを引っ張り、日本の銀メダル獲得にも大きく貢献した。

そんな後輩の急成長に対し、内村は驚きを隠せない。

すさまじいですね。自分が同じぐらいの年齢のときはそこまで出来ていなかった。僕が初めて出た五輪は銀メダル2つで、大輝は金メダル2つ獲っていますからね。末恐ろしいです」(内村)

疑いようのない実力で世界を制した新王者だが、じつはエリートとは程遠い道のりだった。

6歳の頃に通いはじめたのは、廃校の体育館を利用した体操クラブ。十分な設備が整っているとはいえない場所で体操人生をスタートさせた。

当時は特別な才能があるとは誰にも思われず、まるで無名の選手。中学3年の全国大会では、怪我の影響もあったが最下位になったこともあった。

転機が訪れたのは、高校入学後だ。

2年生でインターハイに出場すると、個人総合でいきなり2位の好成績。その年、日本代表に初招集され、初の国際試合となった2019年の「世界体操」では、男子団体予選で出場4種目すべてにおいて日本勢トップの得点をマーク。

しかし、2日後に行われた団体決勝では、最終種目・ゆかで着地に失敗して尻もちを着き、得点を伸ばすことができなかった。目標としていた団体金メダルには届かず、結果は銅メダル。

泣き崩れた橋本は、試合後のインタビューで悔しさをにじませていた。

この悔し涙は東京五輪の嬉し涙に変えたいと思っているので、“自分がエースになる”それくらいの覚悟で、東京五輪に向けて練習をしていきたいと思います

悔しさをバネに五輪金メダリストまで上り詰めた橋本。そんな彼が“超えたい相手”と語る選手こそ、内村航平だ。

◆キングの凋落「僕はもう主役じゃない」

個人総合でロンドン・リオと五輪連覇、世界体操でも前人未到の大会6連覇を果たし、日本のエースとして不動の地位を築いてきた内村。しかし、ここ数年は想像を絶する苦難の道のりだった。

2連覇を果たしたリオ五輪の翌年、2017年の世界体操で着地の際に左足を負傷し途中棄権。さらにその2年後の全日本選手権では、肩の痛みに耐え切れず演技を中断。12年ぶりに日本代表から外れてしまう。

度重なるケガに悩まされた内村は、東京五輪に出場するために大きな決断を下した。

苦しいなかで(個人総合を)やっていくよりは、世界でも評価されている鉄棒でいったほうが気持ちよく五輪に行けるんじゃないか」(内村)

「6種目やってこそ体操選手」――そう言い続けていた内村だが、個人総合から鉄棒一本に絞ることを決意した。

それと同時に、かねてより取り組んでいた大技・ブレットシュナイダーの習得に乗り出す。

ブレットシュナイダーとは、空中で2回宙返りしながら2回ひねりを加える超大技で、成功すればかなりの得点が見込める。

事実、内村は2020年の体操国際競技会でこの大技を初成功させると、15.200という高得点を獲得。この得点は、前年の世界体操金メダルの得点を大きく上回るものだった。

この結果に内村自身も手ごたえを感じ、誰もが「強い内村が戻ってきた」と感じた。

しかし、死に物狂いで掴んだ4度目の五輪は、まさかの予選落ちに終わる。

「五輪は今まで2連覇していますけど、やっぱり過去のことだし、僕はたぶんもう主役じゃないんで」(内村)

試合に負けた内村は、そんな言葉を残していた。だが、橋本はまだ内村を超えられたとは考えていない。

「僕自身、鉄棒で金メダルをとることはできたんですけど。その裏には航平さんの助言があった。もし航平さんが五輪の種目別鉄棒(決勝)にいたら、おそらく勝てていなかったと思います」(橋本)

そう思うのには、理由があった。

じつは東京五輪の直前に行われた全日本種目別選手権、内村は完璧な演技で15.766点をマーク。この得点は、東京五輪で橋本が金メダルを獲ったときの15.066点より遥かに高い“世界最高得点”(※現行ルールでの世界最高得点)だった。

若き新王者・橋本が望むのは、尊敬するキング・内村との真剣勝負。

◆予想できない勝負の行方「たぶん太刀打ちできない」

では、実際に2人が対決したら、何が勝負の分かれ目となるのだろうか。

そもそも体操の演技は、難度を示すDスコアと、出来栄えを示すEスコアの合計点で評価される。東京五輪の時点で両者のDスコアはほぼ互角。つまり、技の出来栄えEスコアが、今回の勝負の行方を大きく左右するといえそうだ。

Eスコアを上げるために重要な要素は“着地”。着地でバランスを崩すと、0.1〜0.3点も減点されてしまう。

かつて着地で高い評価を受けていた2004年アテネ五輪代表の冨田洋之氏は、2人の着地を次のように分析する。

「(内村の着地は)技術的に言うと、ひねり終わりのところで余裕をもって体を開いていますし、真っすぐに修正して素晴らしい着地になっています。(橋本の着地は)しっかりと上のほうに体を持ち上げる動きが出来ているので、ピタリと止まるところまでコントロール出来ています」(冨田)

どちらも目立ったスキは見当たらない。だが、この対決で唯一誰も予想できないものがある。

内村のベストパフォーマンスに対抗するとなると、たぶん太刀打ちできないところがある。(橋本は)多少リスクは犯してでも、演技構成を難しくせざるを得ない状態になる」(冨田氏)

日本代表の水鳥寿思監督も、次のように語る。

「内村選手が五輪に向けて積み上げてきた完成度まで持ち込めるかどうかが、大きなひとつのポイント。それができたら、おそらく橋本選手が(東京五輪で)金メダルを獲った演技をしても、内村選手には勝てないんじゃないか」(水鳥監督)

◆「勝ち続ける大変さは本当に地獄」

世界体操、男子種目別鉄棒頂上決戦。新王者・橋本は、内村を超えられるのか?

「航平さんと金メダル争いをできたら光栄だなと思います。すごく負けたくないという気持ちがあります」(橋本)

内村に勝って、超える。橋本はその先に大きな“夢”を見据えている。

「この歳で五輪の金メダルを1個獲ると、次のパリで2個目、ロサンゼルスで3個目と、五輪3連覇ができるんですよ。内村さんはロンドンとリオで2連覇していて、それを越せる可能性があるので、そのチャンスをつかみ取りたいです」(橋本)

一方、内村は背中を追う後輩・橋本について、衝撃の一言を放った。

僕を超えたいとか、僕の記録を全部塗り替えたいとか言っているじゃないですか。そこを目指してほしくないんですよ。結果にとらわれると、自分らしい演技って出来なくなってくるので。僕は五輪2連覇したいとか、世界選手権で6連覇したいと思ったことは今まで一回もなくて、自分の体操を追求して、それが形として金メダルになっただけ。果てしなく勝ってしまったので言えることなんですけど。勝ち続ける大変さは、本当にもう地獄ですよ」(内村)

そのうえで、こんな期待も抱いている。

越えてほしい気持ちはもちろんありますね。見てみたいです」(内村)

王者の歴史に名を残すのは、はたしてどちらか? 歴史的一戦から目が離せない。

※放送情報:『ジャパネット presents 世界体操2021
◆地上波
10月21日(木)よる6:30〜「女子個人総合決勝」※一部地域を除く
10月22日(金)よる6:30〜「男子個人総合決勝」※一部地域を除く
10月23日(土)よる6:56〜「種目別決勝第1日」
10月24日(日)よる7:04〜「種目別決勝第2日」

◆ABEMA
10月21日(木)よる6:30〜「女子個人総合決勝」
10月22日(金)よる6:30〜「男子個人総合決勝」
10月23日(土)よる6:56〜「種目別決勝第1日」
10月24日(日)よる7:04〜「種目別決勝第2日」

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