矢本悠馬、俳優として意識しているスタンス「自分が輝くためには、相手役を輝かせろ」

映画『ちはやふる』シリーズ(小泉徳宏監督)の“肉まんくん”、マッシュルームのようなおかっぱ頭にメガネ、しゃくれという個性的な姿で人力飛行サークルの設計責任者・古沢役を演じた映画『トリガール!』(英勉監督)をはじめ、さまざまな役柄を演じてきた矢本悠馬さん。

シリアスな役柄からコメディーセンスを発揮したユニークなキャラまで幅広く演じ分け、『今日から俺は!!』シリーズ(日本テレビ系)、連続テレビ小説『花子とアン』(NHK)、『べしゃり暮らし』(テレビ朝日系)、主演映画『ノーマーク爆牌党』(富澤昭文監督)など多くのドラマ、映画に出演。

現在公開中の映画『破戒』(前田和男監督)では親友・間宮祥太朗さんとの共演も話題に。

 

◆ボケたい、おもしろいことをやりたいという衝動を抑えて

2018年には映画『ノーマーク爆牌党』(富澤昭文監督)でお笑いコンビ・NON STYLEの石田明さんとW主演をつとめた。この映画で矢本さんは、アマチュア麻雀の世界で全国2連覇の偉業を成し遂げ、プロ入りが期待されている大学生の鉄壁保を演じた。

−矢本さんは、麻雀は?−

「やらないです。だからよくわからないです。意味不明で難しすぎました(笑)。聞いたことがない言葉がいっぱい出てきてよくわからなかったです。だから暗記から入らないといけなかったんですよね」

−この作品ではちょっとまた違う感じの役柄で新鮮でした−

「そうですね。あれは“青春スポ根系麻雀映画”で、勝つために努力して心理戦を繰り広げていくんですが、僕が演じた鉄壁は、夢を見ない。自分のプレッシャーになることを言わないし、聞かない。夢が叶わないと傷付くので、自分の本音から逃げ続けるようなタイプでした」

−あの映画に主演されたことで麻雀にハマッたりは?−

「それはなかったです。一応やってみたんですけど、僕は、ハマりはしなかったですね」

『ノーマーク爆牌党』と同じ2018年には『今日から俺は!!』(日本テレビ系)に出演。仲野太賀さん演じる紅羽(べにばね)高校の番長・今井勝俊を尊敬し、どこまでも一緒に突き進む健気な不良・谷川安夫を演じた。

−同年代の俳優さんがたくさん出演されていますが、現場はどんな感じでした?−

「めちゃくちゃ仲良かったですよ。もし僕が若かったらギスギスしていたのかもしれないですけど、ある程度年齢もいっていたので。

福田(雄一)監督の作品なので、本当ならボケたいという衝動が大きいですけど、ある程度年齢も重ねていたので、そのボケたいとかおもしろいことをやりたいという衝動、悔しさを押し殺してツッコミ役に回っていました(笑)。

僕の撮影初日だった日に、ムロ(ツヨシ)さんと(佐藤)二朗さんと3人で飲みに行ったんですけど、その日の撮影で僕のツッコミを見ていた2人が結構褒めてくれたんです。それでちょっと吹っ切れて、完全にツッコミ役に回るという自信にもつながりました」

−仲野太賀さんとのコンビもとても良い雰囲気でした−

「太賀とは作品も結構一緒にやっていて、仲が良い役が多いので安心感がありましたし、自然に今井と谷川になれたと思います。役者としても友だちとしても太賀のことがすごい好きなので、今井さんを好きな谷川を演じるのは楽でした」

−『今日から俺は!!』は、2020年に映画にもなりました−

「ドラマの撮影のときから反響がすごく良かったですし、あの雰囲気が大好きだったので、劇場版の話を聞いたときは純粋にうれしかったです。『今日俺』の現場は仕事なんですけど、ピクニックに行くようなワクワク感があるんですよね(笑)」

−矢本さんは、賀来賢人さん、仲野太賀さんと一緒に福田さんのウェブコマーシャルにも出演されていましたね−

「はい。あれは福田さんが『おもしろい作品にしなきゃいけないと考えたときに、賀来賢人、太賀、矢本悠馬の3人は絶対に必要だ』って言ってくれたので、すごいうれしかったです」

−福田さんの信頼の厚さを感じますね−

「そうですね。本当にうれしかったです。結構ツッコミで来ますから、緊張するんですよ(笑)。僕は福田さんの作品が一番緊張します。

最後、ツッコんで決めなきゃいけない、笑いどころを作らなきゃいけないというので、一番緊張しますね。“間”とか、“言い方”とか…あらかじめ決められないんですよ。みんな台本に書いてないおもしろいことをむちゃくちゃやるので(笑)。こっちは受けるしかないですから、修業にはなりましたね」

−吹き出してしまうこともあるのでは?−

「僕はゲラなので我慢できなくて、大体全部笑っていますよ。編集でうまいこと切ってくれていますけど(笑)」

−メイキング映像でも賀来さんが踊っているときに矢本さん笑っていましたものね−

「基本笑っています。笑わないでいるのは無理ですね(笑)。ツッコミをするときって、だいたい自然体でリラックスしていないとツッコめないんですよね。

だから来たものを笑っちゃうくらいリアルに芝居を受けないとツッコめないので、無理ですよね、構えちゃうと。ツッコミにも影響が出ますもん(笑)」

 

◆相手役を輝かすことができたら自分も輝く

2019年にはドラマ『べしゃり暮らし』(テレビ朝日系)に出演。このドラマは、人を笑わせることが大好きで、笑わせるためなら命がけで何でもやる“学園の爆笑王”上妻圭右(間宮祥太朗)が、高校生にしてプロの漫才コンビを組んでいた元芸人の辻本潤(渡辺大知)と漫才コンビを結成し、厳しい漫才の道へと踏み出していく姿を描いたもの。

矢本さんは、圭右とは大親友で、彼のお笑い芸人への夢を一番に応援している子安蒼太を演じた。

−『べしゃり暮らし』の矢本さんは、セリフで表現するのではなく、表情や仕草だけで場面転換や心情表現をするシーンが多くて、重責を担(にな)っている感じがしました。すごく難しい役どころでしたね−

「大体台本を開くと『…』って書いてありますからね(笑)。あれは、こういう表情をしてやろうというわけでもなく、福田組じゃないですけど、そこで培(つちか)った“受け”の力というか、相手役の芝居に対して純粋なリアクションをするしかないという感じでした。

個人プレーに見えてチームプレーみたいな感じでしたね。『…』が多いんですよ。漫画原作だと、結構心の声みたいなのが原作にもあるんですけど、ドラマで起こすとちょっと気持ち悪いんですよね。

『いま〇〇が〇〇になって、〇〇』というのをやるときに気持ち悪いので、『…』にするしかないんだと思いますけど」

−俳優さんの中には自分が目立ちたくて受けの芝居ではなく、主役芝居をしてしまうというケースもありますが、矢本さんはどの作品でも、メインの方を立たせつつ、自分もちゃんと立っていますね−

「そうなっていたならよかったです。俳優の仕事をはじめた頃は、とにかく自分の爪痕を残そうと思って必死だったんですけど、そんなときに先輩から言われた言葉があって。

『自分が目立つことも大事だけど、相手を目立たせたら自分も勝手に目立っている。自分が輝くためには、相手役を輝かせろ』って言われたんですよね。そのときからそのことを意識するようになりました」

©全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

※映画『破戒』
丸の内TOEIほかにて全国公開中
配給:東映ビデオ
監督:前田和男
出演:間宮祥太朗 石井杏奈 矢本悠馬 高橋和也 小林綾子 七瀬公 ウーイェイよしたか(スマイル) 大東駿介 竹中直人/本田博太郎/田中要次 石橋蓮司 眞島秀和

◆60年ぶりに映画化された島崎藤村の『破戒』で“親友”間宮祥太朗さんと共演

現在公開中の映画『破戒』の主人公は、亡き父の強い戒めを守り、地元を離れ、自分の出自を隠して小学校の教員として奉職する丑松(間宮祥太朗)。出自を隠していることに悩み、また、差別の現状を体験することで心苦しさを抱えていたが、衝撃的な事件が勃発。その事件がきっかけとなり、丑松はある決意を胸に、教え子たちが待つ最後の教壇へ立つことに。

矢本さんは、丑松の同僚であり、親友でもある土屋銀之助を演じている。

「僕は島崎藤村の『破戒』を知らなかったので、間宮祥太朗が主演ということと、『破戒』という作品に興味があるかということで台本をもらって読みました。

題材が題材なだけに、赤の他人が友だち役を演じるというよりは、もともと友だちである俳優がその役を担うほうが作品としていいのではないか、見やすくなるのではないかということだと思います。

作品自体をさらに上のステージに持ち上げることができる可能性があるのだったら、それは参加したいと思いました」

−実際に撮影していかがでした?−

「友だちが撮影現場にいるというのは、居心地悪かったです(笑)。ふざけるような作品だったら、そういう恥ずかしい部分をうまく隠せるんですけど、今回は心と心で演じなければいけないシーンもあったので。シリアスなシーンのほうが多い芝居場なので、芝居をしているところを見られたくないなって思いました(笑)」

−丑松が銀之助に自分の出自を明かしたときの二人のシーンが絶妙でした−

「自分にはああいう経験がないですからね。実際、当日になって祥太朗がどういう芝居をしてくるかで僕の出方も変わってくるので、できるだけ何も考えずに、何も知らない状態にして、祥太朗のセリフを聞くという、その一点でした。

あとはもう自分が今までいろんな現場でやってきた芝居の力、カンに任せるしかないと思って、ノープランでやりました」

©全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

−とくに印象に残っていることは?−

「丑松が生徒と向き合う重要なシーンですね。そのとき僕は現場には入らず、外のベンチにいて、彼らだけの撮影が終わって、銀之助サイドにカメラが向けられるときにスタジオ入りしたんですけど、生徒たちと祥太朗が、僕がリアクションをしやすいようにもう一度そのお芝居をしてくれて。その空気感がすごく良くて、思わず泣いてしまいました」

−この映画を通して伝えたいことは?−

「現在も差別というのはあります。身近なところでは、学校や会社などで、人と違うということでいじめを受けている、それも差別だと思うから、結構広い範囲で日常の中にあります。

親友である丑松の告白を受け入れた銀之助みたいに急に柔軟にはなれないかもしれませんが、この作品を通して、当事者や見て見ぬふりをしている人も相手を思いやる想像力というか、心が豊かになるきっかけになればいいなと思います」

私生活では2019年に結婚、第一子となる長女も誕生。家庭を持ったことで意識も大きく変わったという。

「今までは俳優としてパフォーマンスがよかったら良い俳優で、プライベートは別に捨てていたわけじゃないですけど、そこまで重要視していなかったんです。

パフォーマンスさえよかったらいいのかなと思っていたんですけど、家族を背負ってからは、現場にいる共演者とかスタッフさんと心地良く一緒に仕事をしたいと思うようになりました。別に今まで不快にしていたわけじゃないですけど(笑)。

自分が大人として、人の親になったというので、自分の精神的に若い部分とか、所作の若い部分とかというのは、家族を背負っている身としては家族の恥になるかもしれないじゃないですか。『こんなやつがオヤジなのか』とか、『こんなやつと結婚した女がいるんだな』とか思われたくないし(笑)。

人間としてパーソナル部分やプライベートな部分でも魅力的な人間になれればいいなということで、パフォーマンスだけじゃないな、俳優はって。裏も表も良い状態にしなきゃいけないんだなという感じにはなりました」

左手薬指の結婚指輪が輝きを放っていた。確かな演技力と才能に加え、家族に対する責任感も抱え、今後のさらなる活躍に期待が高まる。(津島令子)

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