藤竜也、北野武監督は「ものすごい映画を撮る人」主演オファーは「詐欺だと思った」

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大島渚監督の映画『愛のコリーダ』(1976年)に主演した影響は大きく、約2年間仕事のオファーがなく休業状態になってしまう。それでも、良い仕事をしたのだからキャリアが終わるとは思わなかったという。

そして1978年、大島渚監督が再び海外資本で男と女の愛を大胆に描いた映画『愛の亡霊』に出演。大島監督はこの作品でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞する。

※映画『愛の亡霊』
26歳も年下の復員兵の青年(藤竜也)と関係を持った人力車夫(田村高廣)の妻(吉行和子)。二人は共謀して夫を殺害し、遺体を井戸に投げ捨てる。しかし、夫の亡霊が夜な夜な現れ、二人を苦しめ始める…。

30代

◆1980年代には“ダンディーな男性”の代名詞に

−約2年休業されることになったわけですか−

「仕事はないですよね。印象が強すぎるし、使いにくいでしょう。似たような作品はくるかもしれないけれども、同じことはやりたくないですからね。『愛のコリーダ』のあと1年半から2年仕事がなくて、それで『愛の亡霊』をやって…。

『愛のコリーダ』は裁判があったり、色々あったんだけど、毀誉褒貶(きよほうへん=ほめたりけなしたりする世間の評判)の大きい写真(映画)になったわけですよ。でも、40年以上経った今でも話題に出るということは、『とんでもなくイヤな映画だ』と言う人と『いいじゃん』と言う人がせめぎ合っているから。だから消えてなくならないんですよね」

1976年の日本公開時には、性描写などに多くの修正と一部シーンのカットが行われたが、2000年には初公開時にカットされた部分をほぼ復元した『愛のコリーダ2000』が公開されて話題になった。

−『愛の亡霊』で俳優業を再開されて−

「ちょっとエロチックな映画なんだけど、一種文芸ものみたいな感じでね。でも、『文芸派俳優にはなりたくないな』って思った。『俺はアクションの俳優だぜ』みたいな思いがまだあったからね(笑)。

そのあとテレビの出演のオファーがあって、テレビからオファーが来るということは、復帰ができたのかなあと思いましたね。それで、なるべく荒唐無稽な役を選んで、ピストルを持って街中を走りまわる『大追跡』(日本テレビ系)とか『プロハンター』(日本テレビ系)などに喜んで出ました」

1980年代には「ダンディーな男優ナンバーワン」「最もタバコが似合う男」と称され、女性ファンだけでなく、男も憧れる存在に。テレビ、CMにも引っ張りだこになる。

−どこに行っても注目される不自由さもあったでしょうね−

「疲れますね(笑)。でも、それは40代半ばぐらいまで続いたのかな、その状態が。そのあとはテレビより映画が多くなりましたからね。今はもう気楽なものですよ」

−ずっと主演作も続いているところがすごいですね−

「ラッキーですね(笑)。50年以上この仕事をやっているわけですから、やっぱり合っていたということでしょう」

−「同じような役柄はやりたくない」とおっしゃっていましたが、演じる役柄の幅が広いのは意識されてのことですか−

「それは本能的にそうかもしれないですね。やっぱり同じようなものはイヤですね。映画はそのシーンが終わったら、その瞬間にセリフを忘れても良いんですよ。舞台だったら1カ月なり半年なり深めて昇華していくんだけど、映画だと一発パフォーマンスしたら、その翌日から全部セリフを忘れてもいい。それが映画の面白いところ。テレビもそうですけどね。だから同じようなことはあまりやりたくないですね。つまらない。飽きちゃうからね。飽きないようにしないと(笑)」

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◆北野武監督はすべてがカリスマ

カッコいい役から認知症のおじいちゃんまでさまざまな役柄を演じてきた藤さん。テレビではできないことができるのが映画の醍醐味(だいごみ)だと話す。2015年には北野武監督作『龍三と七人の子分たち』に主演。その昔“鬼の龍三”と恐れられた元ヤクザの組長を貫禄タップリに、かつこれまでに見せたことのないコミカルな一面も発揮して演じている。

※映画『龍三と七人の子分たち』
かつては泣く子も黙るヤクザの組長だったが、金も居場所もなくなり、昔の仲間たちとくすぶった生活を送っていた龍三(藤竜也)。ある日、うかつにもオレオレ詐欺に引っかかってしまった龍三は、昔の仲間たちとともに、詐欺で人々をだます若者たちを成敗しようと立ち上がる。

−最初に聞いたときはいかがでした−

「あの方(北野武監督)の映画はよくわからないのもあるんですけれども、良いものは『この人すげえ。ああいう切り口のアクション、あの虚無感、カメラの回し方も、まったく意味がないように見えるカットも切なくてしょうがなくなってくる。ものすごい映画を撮る人だなぁ』って内心思っていたんですよ。

その人からオファーがあったって言うからね。『本当に北野監督の事務所からの連絡なのか? 誰か騙(かた)っているんじゃないか?』って思ったんですよ。詐欺じゃないかって(笑)。だからマネジャーに『もう1回、ちゃんと確かめてくれ』って言ったんですよ」

−それが実際に北野監督からのオファーだったって聞いたときには?−

「本を読んだら僕がイメージしたこれまでの北野監督の映画とは違って、漫才じゃないですか。こういうのを撮るのかと思ってさ。でもその瞬間、僕はもう本能的に、これはきちんと正統的な気合を入れたヤクザをやろうと思ったんですよ。それがおかしくなるだろうというのはわかっていたのでね」

−現場はいかがでした?−

「あの方も1回リハーサルするくらいで、すぐに本番ですからね、長回しで。あとはいつもの仕事場と同じですけど、やっぱり北野さんの特異性、現場でのあの人のスーパーテレビガイぶりというか、テレビではもうスーパーな存在じゃないですか。それと映画作家の北野さんとが混然一体となっているので面白いと思いましたね。

現場に一番遅く、非常に尊大な感じで入って来るんですよ。(笑)。本人はそんなつもりは全くないんだけどね」

−ご本人は普通に入ってらっしゃるんですけれども空気が変わるそうですね−

「そうなの。北野映画の新作をやるんだっていうスタッフの思い、どんなものができるのかっていうその期待感、そこに参加できる興奮、そういうものを感じましたよ。だからやっぱりすごい監督だなぁと思った。そういった意味ではやっぱりカリスマなんだよね。だからやっぱりカリスマ的に入ってきますよ。そう思っちゃうからね(笑)。面白かったですよ」

−作品も面白かったです。冒頭からオレオレ詐欺が出てきたり、社会問題を織り交ぜながらも重苦しくなっていなくて−

「そうなんですよ。あの映画も面白かったなぁ。いい経験でしたよ。客も入ったしね。僕は客が入った映画って初めてじゃないかなあ。あっ、『愛のコリーダ』も入ったか(笑)。

僕は本を読んだとき、絶対に客は入らないと思ったけどね。びっくりしました。やっぱりカリスマだと思いましたよ。『70歳過ぎのジジイがいっぱい出てきて、面白いけど誰が見るんだろう』って思ったんだけど、それが見事に外れてうれしかったですね」

−撮影で印象に残っていることはありますか−

「撮影がすごく速くてありがたかったですね。北野さんは夜の撮影をイヤがって、早く寝たいらしいからね。僕も早く寝たいし、助かりました。とにかく仕事は速いですよ。撮影のスピードがすごく速い。だから勢いとか出るんでしょうね。やっぱりチームがものすごく北野映画ということで結束してエキサイトしているから現場の回転は速いですよ」

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◆1年間の長丁場『やすらぎの刻〜道』…男も女も惚れるハマリ役

一昨年放送されたドラマ『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)には男も女も惚れる寡黙な元任侠スター、高井秀次役で出演。どんな権威も恐れず、しかし下積みの目下の人間には真摯(しんし)に礼儀正しいモテ男を演じて話題に。4月8日(月)にスタート、1年間に渡って放送される『やすらぎの刻〜道』にも同役で出演している。

「しばらく映画の方が不思議と多かっただけで、テレビがいやって言ってるわけじゃないんですけどね(笑)。お呼びがかからないとやりようがないですから。今は『やすらぎの刻〜道』という倉本聰さんがお書きになったドラマに入っていて、来年の1月か2月ごろまでやります」

−前作の『やすらぎの郷』の藤さんもとても印象的でした−

「あれはミスキャストだろうけどね。ミスキャストにならないようにがんばりますよ(笑)」

−藤さんが演じる秀さんは、かつて様々な女優と関係を持ったモテ男で、『やすらぎの郷』に入居してくると往年の名女優たちが色めき立つというのはとても説得力がありました−

「そうですか(笑)。僕は、『倉本さんは何を考えて僕にこういう役をやらせたんだろう』と思ったんだけど、あの役は倉本さんが考えるスターの滑稽さと思い込み、思い違い…そういうコメディックなカリカチュアライズ(戯画化)した役っていうのかな。だからやっていて面白いですよ(笑)。笑いながらやっていますけどね(笑)」

−藤さんはセリフの変更を提案された際のセンスの良さに定評がありますが、倉本さんのドラマでは?−

「変えません。不思議なことにね、倉本さんの本だと、その通りにやった方が、面白さが出るんですよ。やっぱり本に書かれている通りに言った方が、逆に面白いんです(笑)」

−「私の本は完成されていますから一言一句変えないでください」と言われるそうですが−

「僕も以前NHKの『勝海舟』で土方歳三をやったときにはそんな風に言われましたけど、今は違いますよ。『やすらぎの郷』や『やすらぎの刻〜道』に関しては、倉本さんが『皆さん自由にやってください』とおっしゃっているみたいですよ。

僕の役はきちんとやった方が面白いと思うから、セリフも本に書かれている通りにやっていますけどね。『そんなに昔うるさかったかな、僕は』って、倉本さんがご自分でとぼけていますよ(笑)」

−ドラマが長丁場になると映画のオファーが来たとき大変ですね−

「スケジュール? ダブっていませんもん。映画の撮影も終わっていますしね。これから出演オファーが来たときは大変でしょうけど、そんなに無理にやらなくても、『やすらぎの刻〜道』があるから何とか食べていけますしね(笑)」

ひとつの役をやり遂げるために、必要なことは事前に徹底的に調べ、疑問に思ったことはすべてクリアにして仕事に臨むという藤さん。時間をかけてじっくりと取り組み、やり遂げていくことが最も充実して楽しい時間だと話す。

次回後編では、ユニークな私生活、倍賞千恵子さんと28年ぶりに夫婦役を演じた映画『初恋〜お父さん、チビがいなくなりました』の撮影秘話を紹介。(津島令子)

(C) 2019西炯子・小学館/「お父さん、チビがいなくなりました」製作委員会

※映画『初恋〜お父さん、チビがいなくなりました』
5月10日(金)より全国ロードショー。
監督:小林聖太郎 出演:倍賞千恵子 藤竜也 市川実日子 星由里子 佐藤流司ほか
50年一緒に過ごしてきた夫婦が初めてお互いの気持ちに向き合ったとき、猫がくれた優しい奇跡が…。

やすらぎの刻〜道

※『やすらぎの刻〜道』(テレビ朝日系)
毎週月〜金 昼12時30分〜12時50分
脚本:倉本聰 主題歌:中島みゆき

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