筒井真理子、役作りのため2週間で体重13kg増量「ちゃんとしないと映画もダメになる」

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「第三舞台」を経て、ドラマ、映画、舞台、CMに数多く出演してきた筒井真理子さん。楚々(そそ)とした女性から妖艶(ようえん)な悪女までリアルに演じ分け、「カメレオン女優」と称されるほど、役の幅が広い。

2016年、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した映画『淵に立つ』(深田晃司監督)と園子温監督の映画『アンチポルノ』に出演。『淵に立つ』では劇中で13kg体重を増減して驚きの変貌を遂げ、『アンチポルノ』では体当たりの演技を披露。衝撃的な2本の映画で注目を集めることに。

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◆園子温監督の熱烈オファーで『アンチポルノ』に出演

2017年、日活ロマンポルノ45周年を記念した企画「ロマンポルノ・リブート」の第1作として制作された映画『アンチポルノ』。これは、極彩色の部屋で暮らす小説家兼アーティストのヒロインが抱える秘密を虚構と現実が入り混じった実験的な演出で描いた作品。筒井さんはヒロインの理不尽な要求や辱めに従順に従っていたが、ある事を境に立場が逆転していく秘書役で出演。体当たりの演技が話題に。

−衝撃的な2本の映画が続きましたが、『アンチポルノ』を撮り終わってから『淵に立つ』の撮影だったんですか−

「実は『淵に立つ』の前半と後半の撮影の間に『アンチポルノ』の撮影があったんです。

『淵に立つ』はずっと前から決まっていたんですけど、園(子温)さんから『アンチポルノ』のお話をいただいた時には、撮影がその間だし無理かなぁと思いました。事務所とも話し合いながら、しかも『この年で?大丈夫ですか、園さん』って思いながら肌をさらしても…って思って(笑)」

−それが出演することにされたのは?−

「最後のセリフが素晴らしかったので、このセリフが言いたいなぁと思ったんです。『あなたは自分をちゃんと生きているのか。この国の女は自由を手にしているフリをしているだけだ〜』など衝撃的なセリフはすべての物事へのアンチテーゼなんですよね。『世の中これで良いのか』という魂の叫び。『このセリフを言うために覚悟を決めよう』と思って出演することにしました」

−あのシーンはカッコ良かったですね。迫力がありました−

「ありがとうございます。あのセリフが言いたくて出ることにしたのに、リハーサルに行ったら園さんが『このセリフはヒロインが何度も言っていて飽きるからカット』っておっしゃったんですよ。もうビックリして頭が真っ白になっちゃって…。

降ろされてもいいから直談判しようと思って、『園さん、私がこの作品に出る覚悟を決めたのは、最後のセリフが言いたいからなんです』って言いに行ったんです。『監督は俺だ』とか、『じゃあ、もういいや』って言われるかなと思ったんですけど、『あっ、そう。いいよ、戻して』って簡単に(笑)」

−最初は従順に見えて途中からガラッと変わり、サディスティックなシーンもありますが、肌をさらすことに躊躇(ちゅうちょ)することはなかったですか?−

「それは、もちろんあります。でも、台本を読んで、園さんのものすごい本気度を感じましたし、とにかくあのセリフを言いたかったので、覚悟を決めてやりました」

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◆わずか2週間で13kg増量、別人の姿に…

『アンチポルノ』の撮影を挟んで撮られた映画『淵に立つ』ではわずか2週間で13kg体重を増加して別人のような姿に変貌を遂げ、“カメレオン女優”と称される。『淵に立つ』はカンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞。筒井さんは、毎日映画コンクール女優主演賞をはじめ、数々の賞を受賞した。

※映画『淵に立つ』
下町で金属加工業を営む夫婦(古舘寛治・筒井真理子)のもとに風変わりな一人の男(浅野忠信)が現れ、共同生活を送ることになったことがきっかけで、夫婦の秘密が徐々に暴かれていく。そして悲劇が…。

−『淵に立つ』では前半と後半で、13kg太って別人のような姿になっていますが、その間に『アンチポルノ』というのはすごいですね−

「『アンチポルノ』の撮影が終わってから、2週間ぐらいあったんですけどね。だから前半で少し痩せておいて、『アンチポルノ』の時に普通に戻す形にして、そのあとはとにかく食べ続けて太りました。よく病気にならなかったと思いますよ(笑)。

シメには夜中の担担麺でしたし、絶え間なく食べているという感じでしたからね。サンドイッチなら、カツサンド、ポテトサンド、タマゴサンドなどありとあらゆる種類を全部買ってきて食べ続けていたので、ずっと朦朧(もうろう)としていました」

−監督は当初、あそこまで体型を変えてということは考えてなかったそうですね−

「そうなんです。私が演じる章江は、娘が意識障害になってしまうんですけど、そうなる前と、なってから8年後という2つの時の違いを表現しなければと思いました。実際に意識障害のお子さんを持つお母さんにお会いした時に、これはちゃんとしないと映画もダメになるし、その方たちにも申し訳ないと思ったんです。そのつらさはちょっと表現できない、手に負えないなと思って…。

娘が意識障害になってからの8年間の苦労というのはからだも変えないと、ちょっと無理だなぁと思ったんです」

そこまで決意するに至ったきっかけとなったのは、2015年に出演した映画『かぐらめ』。この映画で死んで行く人と元気な人の1人2役を演じた筒井さんは、同じ日に両方を演じることになったが、メイクや照明だけではどうにもならない限界を感じていたという。

「『かぐらめ』でモントリオール映画祭に行った時、海外の人たちと一緒に見る機会があったんですけど、言葉が伝わらないから、その見た目の姿がないとリアルじゃないし、信じられるというところにはいかないなと思いました。

そういう思いも残っていたので、やっぱりそこまでやらないと絶対にダメだと思って、深田監督は、『そんなにしなくても大丈夫だよ』っておっしゃったんですけど、『でも、太ります』って言って太りました」

−娘が意識障害になってからの月日の流れを感じさせる姿になっていて、まるで別人でした。それがすぐにまた短期間でスマートに。変貌自在で驚かされました−

「短い期間でつけたお肉はすぐにやれば取れるみたいですよ。それを維持しちゃうと、もう厄介な脂肪に変わっちゃうみたいなんですけれども、つけたばかりだと落とせるんですよ。太るためにとにかく食べ続けていたので、それが結構きつかったんですよね。

だから撮影が終わって、食べないことがうれしくて、断食しても全然平気でした。『ああ、スッキリ。胃が楽だな』っていう感じで、2週間ぐらい食べないでいたら戻りました」

−約1カ月の間に13kg太って、また痩せたということですか−

「そうです。逆にのんびりやっちゃうと戻らなくなっちゃうみたいなので」

−数々の主演女優賞も受賞されましたが、撮影時に手ごたえはありましたか−

「なんとなく後半、太っていった時にみんなびっくりしてくれたので、『そんなに?』って思って、太れたことにちょっと手ごたえを感じました。これで乗り切れるというような安心感はありましたね。体重が増えていってからだが重たくなると動きも変わるし、話し方も変わるので、太って良かったなあって思いました」

念願だったカンヌ国際映画祭にも初めて参加。上映終了後には5分間もスタンディングオベーションが続き、筒井さんの美しい着物姿も注目を集めた。

「一度はカンヌに行ってみたいと思っていたので本当にうれしかったです。着物を着たんですけども、あれは全部自分で持っていって自分一人で着ました。行く前に着物の先生のところに行って、映像を撮って持って行って、ホテルでそれを見ながら格闘していました(笑)。

その時の『違う、違う』って言う先生の手が伸びてくる映像がまだ残っているんですよ(笑)。髪は美容師さんに教わって、ウィッグで一つにまとめちゃってね。全部自分ひとりで必死になってやりました」

−「ある視点」部門審査員賞も受賞されました−

「本当にありがたかったです。あとで聞いたら、審査員長が女性で、審査員は男性3人女性3人だったんですけれども、意見が真っ二つに別れて4時間にわたる大論議だったそうです。

カンヌには深田監督も大好きな映画『フレンチアルプスで起きたこと』のリューベン・オストルンド監督もいらして、みんなで一緒に写真を撮ったりしていたので、それから2年後に彼が『ザ・スクエア』という作品でパルムドールを受賞したと聞いた時は、我が事のようにうれしくなりました。とにかくカンヌではいろんな監督の作品を見て、いっぱい顔を覚えようと思って(笑)。ほんの何日間かでしたけど、いっぱい刺激をもらいました」

カンヌでは毎晩、朝4時くらいまで飲むことが多く、着物姿の筒井さんは人気の的。ワインを片手にタバコをくゆらしながら「あなたすてきなお着物ね」と声をかけてきた女性が、ファッションデザイナーのアニエス・ベーだったということもあったという。

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◆黄金コンビの再タッグが実現!そのきっかけは…

『淵に立つ』の深田晃司監督と筒井さんが再タッグを組んだ映画『よこがお』が26日(金)に公開。この作品は、ある事件で″無実の加害者″にされてしまい、人生を崩壊させられた訪問看護師・市子(筒井真理子)が、ささやかな復讐(ふくしゅう)を企てるヒューマン・サスペンス。筒井さんは、人生に復讐するほど絶望し、それでも逆境を受け入れて生きていく主人公を繊細にかつ大胆に体現している。

深田監督は、前作『淵に立つ』のインタビュー記事に掲載されていた筒井さんの横顔の写真の美しさに魅了され、″よこがお″を撮りたいと思ったという。8月にスイス・ロカルノで開催される「第72回ロカルノ国際映画祭」国際コンペティション部門に正式出品されることも決定している。

−前作が数々の賞を受賞して話題になったことでプレッシャーも大きかったのでは?−

「そうですね。それはありました。前作ではドラスティックに肉体改造とかあったんですけど、今回は繊細だからある意味難しいと思って。過去、現在、未来という3つの時間軸全部を時系列では撮れないので、健やかな時から堕ちていくまでをお花がどれぐらいかれているのかで、やつれ具合をイメージして、それを全部メモして演じていました。急に違うシーンの撮影になっても、やつれ具合だけはちゃんと出せるように」

−皮膚の下の鼓動が伝わるような繊細な演技が印象的でした−

「ありがとうございます。そう言ってもらえるとうれしいです。市川実日子ちゃんが言ってくれたんですけど、事件のことを問われるシーンの時に、私の腕にずっと鳥肌がたっていたんですって。自分ではまったく気がつかなかったんですけど、そのシーンで自分がそういう状態だったというのは、まさに市子だったということなので、すごくうれしかったです」

−池松壮亮さんとはラブシーンもありますが、初共演だったそうですね−

「そうなんです。年齢もずっと離れているので、きれいに『はじめまして』って言いたかったのに、私が本当に追い込まれていて吐くシーンを撮った時に『はじめまして』で(笑)。『ほんとにごめんなさい』という感じでしたけど、池松さんは大人で優しくしてくれました(笑)」

−市子は何も悪いことをしていないのに、すべてが奪われてしまう。相手を信用して話したことが、まったく違うものにとらえられてしまう怖さも描かれています−

「そうですね。何か言ったことの一部を切り取られると、全然違う意味になる。犯罪者にも見えるしね。今の時代は本当に怖い。何かあると一人の人を徹底的に攻撃しちゃうみたいなね」

−人生の不条理さが胸に突き刺さりますが、かすかな救いも感じられます−

「そうですね。人生はなかなか思い通りにはいかないじゃないですか。不平等なこともいっぱいある。でも、私が演じる市子が体験するのは、絶望だけではなくて、そこにはうっすらとした光というか、希望もあると思うんですよね。

それをたくさんのお客さんに劇場で体感してほしい。いつか不条理なことが起こった時、救いになればいいなと思います。一度リセットして、何もかも捨ててシンプルに生きていくというか。昔からそういうのに結構憧れているんですよね。そんな生きる達人のようになれたら良いなって思います(笑)」

ずっと立ち止まらずに進化し続けたいと話す筒井さん。2016年には松本明子さんとコンビ「つつまつ」を結成して漫才を披露したこともあり、またやれたらと目を輝かせる。コメディードラマをはじめ、やってみたい役柄もまだまだいっぱい。快進撃が止まらない。(津島令子)

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※映画『よこがお』
7月26日(金)より角川シネマ有楽町、テアトル新宿ほか全国ロードショー。
配給:KADOKAWA
監督:深田晃司  出演:筒井真理子 市川実日子 池松壮亮 吹越満 須藤蓮 小川未祐

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