榎木孝明、30日間食事を取らない“不食”を実践した理由。「人にはすすめませんよ」

©テレビ朝日

インドやチベットを中心としたアジア地域を20代の頃から、数十回旅しているという榎木さん。人気俳優となってからも変わらず、まとまったお休みができるとフラッと旅に出る。

綿密なスケジュールを立てて行くのかと思いきや、行く場所の下調べはほとんどせずに、「行けば何とかなる」というのが榎木さんの旅のスタイル。そのため宿は何とか見つけることができても、食事にありつけないということも多々あり、10kg近く痩せて帰国したこともあるという。

役作りでも、映画『アダン』では2週間で15kg減量したこともある榎木さんだが、それまでも食事を取らないことで神経が研ぎ澄まされ体調も良くなったことが度々あり、数日間の「不食」を試みていたという。

そこで、2015年、30日間食事を取らない「不食」を実践することに。

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◆不食を公開するか、黙って行うか、考えた結果選んだ方法は…

―30日間も食べることをやめていたということは驚きでした−

「あんなに話題になるとは思ってなかったですからね。海外に行くときは行きあたりバッタリの旅行が多かったし、寝袋や食料も持って行かないので、食べるものにありつけず、10kgぐらい痩せて帰ってくることも珍しくなかったんです。

それでも体力は落ちなかったですし、帰国してからだをチェックしてもらうと、どこも悪くないと言われるし、腰痛などもおさまっていて体調が良くなっていて。それで、食べないことが健康体につながっているのではないかと思うようになったんです」

−スポーツ新聞やワイドショーなどでも大きく取り上げられましたね−

「あれほど反響を呼ぶとは考えてもいなかったのでビックリしました。フェイスブックで不食を試みることを公表し、情報をアップし始めた日からアクセス数がものすごく増え始めて。

不食の期間が終わる直前に新聞社の取材を受けたんですけど、そのあとテレビなどの取材が殺到して、ほとんどすべてのワイドショーで取り上げられていました。その報道後の3日間でフェイスブックのアクセス数が26万件を超えていましたからね」

−それまでにも何日間か食べないということはあったそうですね−

「役作りで減量のために食べないということは結構ありました。孤高の画家・田中一村の生涯を描いた映画『アダン』では、田中一村を演じるために2週間で15kg体重を落としたのですが、その間はほとんど不食に近い状態でした。

でも、食べないことがつらくはなかったし、体力が落ちることもなく、いつも以上に元気だったんです。そのころには不食を実行している人たちがいるということを知っていましたし、自分でも、食べないことがからだと心に引き起こす変化を意識するようになっていったんです。

それで、時代劇や浅見光彦シリーズの撮影に入るときには、3日間の不食を行うことにしていました」

−数日食べないでからだをリセットするという話は聞いたことがありますが、30日間という長い期間は初めて聞きました−

「病院の先生などはほとんど否定的な方が大半でした。そんなことをしたら、からだはもちろんのこと、脳を損傷するとか言われましたしね。でも、私には良いことしか起きてないので。

それまでの経験から不食の先人たちの教え、『不食は意識の覚醒を促す。食べずにいると頭がクリアになる』ということを実感するようになっていたので、不食をさらに続けていけばどうなるのか、その先の世界を見てみたくなったんです」

−30日間ということにしたのは?−

「不食について広く知ってもらうためには、ある程度の挑戦日数が必要だと思いました。2週間程度ならそれまでもやっていましたしね。

テレビ番組で食レポなどをすることもありましたから、仕事のスケジュールも検討した結果、1カ月(30日間)ということにしました。『そんなに長い間食べなくても大丈夫なの?』と世間の固定観念を打ち砕くにも十分な日数だと思ったので」

不食の試みを実行するにあたり、榎木さんは安全を期して都内のある病院の一室を借り受け、そこに寝泊まりすることに。

室内には定点カメラを設置して24時間撮影。外出する際も可能な限り撮影してもらい、病院では、定期的に血圧や血糖値などの検査をしてデータを残すことにし、体調を崩したり、ドクターストップがかかった場合は不食を中断する覚悟をしていたという。

不食の期間、水とコーヒーは摂取し、血糖値が下がった時には低血糖発作を起こして昏倒するリスクがあるため、糖分としてブドウ糖のかけらや飴をなめたことはあったと話す。

「不食の間もドラマの撮影や地方の仕事にも出かけていました。食べないということ以外は、それまでの日常生活と変わりなく過ごすつもりでしたから。

体重は半ばで11kg痩せましたけど、あとはずっと一定で、食べなくても痩せなくなるんですよね。でも、今は膝痛があるんですけど、不食の期間は腰痛も膝痛もその間はありませんでしたし、睡眠時間も4時間なのに、運転中に一切眠くなりませんでした。空腹感もなかったですね。

あと、感覚が研ぎ澄まされた感じになりましたし、髪も濃くなるなど色々良いことがありました。人にはすすめませんよ。何かあって僕のせいにされても困るので(笑)」

それまでの生活のなかでの食事を取らない長い経験から、専門家と相談しながら安全に配慮して30日間の不食を行った榎木さん。不食について賛否両論があることも理解しており、決して食べないことを推奨しているわけではないという。

−あれから4年になりますが、今も食べない期間を設けたりされているのですか−

「10日ぐらい食べないことは何回かありますよ。ちょっと体調が悪いと思ったときは食べない方が、調子が良くなるので。今、膝が痛いので本当はちょっと抜きたいところなんですけれども、欲望に負けています(笑)。不食の期間は食べたいという欲求は全くなかったんですけどね」

(C)2019「みとりし」製作委員会

◆人生最期の日を安心して迎えるために

焼き物を芸術として評価されるまでにした陶芸家・板谷波山の姿を描いた映画『HAZAN』(2003年)、奄美大島で絵を描き続けた孤高の日本画家・田中一村の波乱の生涯を映画化した『アダン』(2005年)、13年かけて自身の企画の映画化を実現させた『半次郎』(2010年)など精力的に映画出演を続けてきた榎木さん。9月13日(金)には自身の企画した最新主演映画『みとりし』が公開される。

※映画『みとりし』
交通事故で娘を亡くした定年間際のビジネスマン・柴久生(榎木孝明)は、家族ともバラバラになり、喪失感から自暴自棄になっていたとき、“看取(みと)り士”という存在を初めて知る。

看取り士の仕事は、医師から余命宣告を受けた人が最期をできるだけ安らかに旅立つことができるようお手伝いすることだという。柴は誰にでも訪れる最期の日々を支えるこの仕事をセカンドライフに選ぶことに…。

−おひとりさまも多くなったこの時代、身につまされるものがありました。こういう人がいてくれたら安心して最期の日を迎えられるかなと−

「そうですよね。安心して死ねるということはすごく大事なことだと思うんです。僕も今年中には看取り士の資格を取る予定です。孤独で、一人で死んでいくつらさ、悲しさを思うとね。やっぱりそういう時代なのかなと思うと、何か見過ごせないんですよね」

−榎木さんご自身の企画ですが、きっかけは?−

「一般社団法人『日本看取り士会』の会長である柴田久美子さんと10数年前に、小さな島で出会ったことから始まっています。

たまたまプライベートで何人かで行った島で、『こういう変わった方がいるよ』って言われて、私も興味があったのでノコノコ行って(笑)。そうしたら、そこに3人の老人が寝ていて、老人たちの最期を幸せな気持ちにさせてあげてみとる『看取り士』という言葉をそこで初めて聞いて感銘を受けましてね。

『良いですね。これからそういう人が絶対必要になりますよ。いつかこれを映画にできたらいいですね』という話をして別れて、定期的に連絡を取っていたんです。それで、3年前に柴田さんから『やっと準備が整いましたから、映画のご相談をさせて下さい』と連絡がきたので、プロデューサーを紹介してスタートしました」

−「みとりし」という言葉は初めて知りました−

「知らないですよね。それも映画のタイトルはひらがなですし。最初は漢字で『看取り士』って書いたんですけど、『カンドリシ』って読んだ若い人がいたんですよ。看護師の”看”だから。だったら勘違いされてもちょっと困るということで、プロデューサーと話してひらがなのほうがいいんじゃないですかということになりました」

−榎木さん演じる主人公は、お嬢さんを亡くされた過去があるというつらい設定でしたけど、身内を亡くしたつらさがわかっているからこその細やかな気配り、優しさが感じられました−

「そうでありたいとは思っています。死の本質を真剣にとらえることが、今を大事に生きることにつながっていきますから。今、社会は死をどんどん遠ざけて、マイナスイメージが強すぎる感じになっていると思うんです。つらく悲しく怖い世界だと死を追いやってしまっているから、そうではないということを考えるきっかけになれば一番いいかなって」

−撮影をされていて印象的だったことは?−

「看取り士の方々がずっと現場にいらしていたんですね。柴田さんご本人もいらしていたけど、そのほかの看取り士の方々も入れかわり立ちかわりいらしていたので、話をいっぱいする機会がありました。

結構短期間で撮影をしていたので、スタッフが大変でした。あるとき、助監督さんがバタンと倒れこんで、『もう死にそうだよ、俺』って言ったら、隣にいた看取り士の方に『私がいつもいますからね』って言われてみんな大爆笑でした(笑)。そんな感じで現場は和気あいあいとしていました」

−本作では、息子のお嫁さんが自宅での看取りに反対というおばあさんを看取る話、一人で暮らしているおじいさんを看取る話、3人の子どもを持つまだ若い母親を看取る話が出てきます。映画が完成して思うことは?−

「看取り士は生から死への命の引き継ぎのサポーター。終着点では通過点としての死を次の次元へと橋渡しをする役と言えます。誰にも看取られないでひとりで死んでいくことを『孤立死』と言っていますけど、年間3万人ぐらいいるそうなんです。そういう人が少しでも減っていってくれればと思うので、是非、世の中に浸透していってほしい映画です」

9月は映画『みとりし』の公開に加え、舞台『リハーサルのあとで』の公演も控えている。暑さ真っ盛りのなか、芝居の稽古に汗を流す多忙な日々がまだまだ続く。(津島令子)

(C)2019「みとりし」製作委員会

※映画『みとりし』
9月13日(金)より有楽町スバル座ほか順次ロードショー。
配給:アイエス・フィールド
出演:榎木孝明 村上穂乃佳 高崎翔太 斉藤暁 つみきみほ 宇梶剛士 櫻井淳子

※舞台『リハーサルのあとで』
9月1日(日)〜10日(火)
新国立劇場 小劇場
出演: 一路真輝 森川由樹 榎木孝明
主催:地人会新社 03(3354)8361

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