美術館からクラブまで。レーザービームと蛍光テープで世界を繋ぐアーティストデュオ・MES

新感覚アート番組『アルスくんとテクネちゃん』、第7回の放送に登場したのは、レーザービームで空間のなかにさまざまな造形をかたちづくるアーティストデュオ・MESのお二人。蛍光テープを使ってライブペインティングのように描く“ライブテーピング”なる表現方法を駆使し、観る人と作品とが溶け合う有機的な空間を生み出している。分断する世界を、レーザービームやテープで繋ぎ留めようと試みる、二人の思考に触れる。

◆重力への疑念から生まれた、レーザービーム

―お二人は東京藝術大学で出会ったわけですよね。

KANAE はい。そのときTAKERUは重力に負けているような、だらしない彫刻を作っていて(笑)。それが驚くほどかっこよくて、最高だなって思ったんです。すごく新しいものを観た感覚になって。

TAKERU 彫刻は重力に対して360度パーフェクトに立っていないといけないものだとずっと思っていたんです。

でもあらためて考えると、僕自身できることならずっと寝ていたいし、重力に対してだらしない人間だよなと。シャキッとしたものより、ずっと溶け続けるもののほうが素直に共感できるというか。自分の感覚と彫刻の概念をすり合わせていったら、自然とそういう作品が出来上がっていったんです。

―そんなTAKERUさんの作品を見てグッときたと。そのときKANAEさんはどんな作品を作ってらっしゃったんですか?

KANAE 私は演劇をやっていたんですよ。

―藝大在学中に?

KANAE はい。私はずっと言葉を扱う人になりたくて、弁護士や文芸批評家になることを考えていたんです。でも、高校の国語の先生に草間彌生とか寺山修司のことを教えてもらって、ここにも言葉を扱う人がいるんだ!と気がついて。

それで藝大を受験して、芸術学部という美術館の学芸員とか研究者を目指す学部に入ったんですね。そこでは仏像の(装具の)研究者や絵画の修復家を目指す同級生が多かったんですが、段々と「もっと“今”に関わることをやりたい!」と思うようになって。技法を色々習うけど、演劇と音楽と映像だけ欠けているなと思って、お芝居を観に行くように。

―なるほど。

KANAE 観ているうちに私も参加したいと思いはじめて、最初は“ドラマトゥルク”という演劇業界におけるキュレーター的な役割で手伝っていたんですけど、気づいたら舞台の上にいて(笑)。

そのとき、ひとつの舞台をつくるのに、何人もの役者やスタッフが純粋無垢に懸けているのが素晴らしいなと思ったんです。

それに比べて美術の世界は作者が孤立している気がして、もっと個人の輪郭って、環境とか他者に影響されていいんじゃない?って。演劇を2〜3年やって美術に戻ったときに、一人に留まらない制作ができないかなと思ってグループショーをはじめたんです。

TAKERU そのときに出来たのがMESですね。

―そこからレーザービームの作品が生まれていったと。どんなきっかけがあったんですか?

TAKERU ニューヨークでギャラリー巡りをしていたときに、光で作品をつくる作家に出会って衝撃を受けたんですね。絵画も彫刻も映像も光によって包まれていて、融解して垣根がない。光ってなんて自由な素材なんだろうと。

それで日本に戻ったときに、自分が何を彫刻でやりたいのかすごく悩んだんです。質量をともなわない光での制作と、目の前の物体に触れなければならない自分の制作のあいだに、大きな差があると感じて。その間を繋ぐ素材はなんだろうと考えたときに、レーザービームというものがバシッと来て。

―ついに見つけたんですね。そこからすぐに立体作品を?

TAKERU いえ、最初はレーザービームをワックスの塊に当てて、熱で溶かして彫刻を作ってみました。手を介すんじゃなくて、プログラミングでずっと溶かし続けてみた。そこから研究をしはじめたんです。

―そんな経緯があったんですね。

TAKERU 独学でプログラミングをして試行錯誤していたら、知り合いの渋谷のクラブの店長に「VJやりなよ」って声をかけられたんです。

そのときが音楽とレーザーを合わせるのがはじめてで、しかもレゲエとかヒップホップとか民族音楽をやるハコだったので、まったく太刀打ちできなくて。こういう奥行きのある裏打ちのリズムとか、みんなのグルーヴ感にどう合わせればいいんだろう、そうやって模索するうちにレーザービームが徐々に曲線になって、図像になって……。そこからちょっとずつクラブのおもしろさがわかるようになって。

―そうやって徐々に作品が生まれていったわけですね。TAKERUさんにとってはレーザービームの作品はどういう位置づけになるんでしょう?

TAKERU 僕のなかにはずっと重力への疑念があって、いろんな素材を探してきたわけですけど、レーザービームというのは“質量をもたない光の立体物”だと思うんですね。

―なるほど。光も立体物だと。

TAKERU はい。立体だと思ってレーザービームを扱っています。光の線が作り出す図像は、ポインタが指し示す点を高速に動かすことで表現しているんですね。いわゆる、彫刻を削り出すような作業を、リアルタイムに鑑賞することができる。

それはライブでしか観られない彫刻だと僕は思っていて。2年くらいかけて石を掘ってできあがる作品となんら変わりないというか。僕にとってはとても身近な立体物で、すごく気に入っています。

KANAE 空間に演出するというか、空間のなかの造形なので、立体物を超えて、いわゆるインスタレーションとしても成立すると思っています。空間のなかに仕切りはなく、鑑賞者が近くまで入ることができる。質量をもたないからこそアクセスできるというか。

◆お客さんと一体になるライブテーピング

―おもしろい!主に活動されている場所は、やはりクラブということになるんでしょうか?

KANAE そうですね。私たちの作品は音楽と密接に関わっているので、クラブやライブハウスや劇場といった、音楽表現をメインとする場所でパフォーマンスすることが多いですね。

一般的な美術の展示は、床や壁が白い“ホワイトキューブ”という空間で行われることが多いんですけど、それに対して“ブラックボックス”という言い方をしています。正式な言葉ではなく私たちがそう呼んでいるだけなんですけど、「何が入っているかわからない」という意味合いもちょっとはあるのかなと。

―音楽と密接に、というのはすごくよくわかります。ヒューマンビートボクサーのSh0hさんとコラボレーションされた『Re:Humanize』も素晴らしかったです。

Re:Humanize   Collaborated with Sh0h

TAKERU いちばん最初にコラボしたアーティストですね。

彼は体が楽器なので、合わせる音が電子音楽ではなくて彼の肉体から発せられる音。パーカッションの細かさを、喉から絞り出す音とか、唇が震える音で緻密に再現するので、レ―ザービームが直線だと全然合わない。

彼の音のクオリアにあわせて、レーザービームを曲げたり、揺らめかせたり、呼応していくように作成していきました。

―レーザービームは、プログラミングで作り出すデジタル技術ですよね。それをアナログで表現するのは、かなり難しいのではないでしょうか。

TAKERU 最先端技術のように捉える方も多いんですけど、結構原始的なプログラミングなんですよ。

それに、こういう音が来たらこう、とレーザービームの動きと音を同期させているわけではなくて、僕もSh0hくんの音を聴きながらその場で造形を作っていったので、すごくアナログ的ではあったんです。

―なるほど。

KANAE もともとやりたかったのは、2045年にシンギュラリティ(技術的特異点)が来るっていう話から、「人間にできる仕事って何が残るんだろう?」と考えたのがきっかけで。手で何か作る、人間にしかできない表現を何かひとつ実践してみようと思って作った映像作品なんです。

―ライブ自体がそもそも、とてもアナログなものですもんね。

TAKERU そうですね。僕たちの作品のなかに“ライブテーピング”というものがあるんです。

それはレーザービームではなくブラックライトで光る蛍光テープを使った作品で。ライブハウスやクラブといった真っ暗な空間の床や壁に、DJの音楽にあわせて真っすぐなテープを貼り重ねて図像にしていくんです。ライブが終わると空間が完成するという。

―ということは、その間はお客さんは?

TAKERU 皆さん普通に踊っています。お客さんとぶつかりながら、6〜8時間かけて貼っていくんです。

KANAE 踊っているお客さんにも貼ってもらったり、逆に「このへんに貼って」って言わたり。ライブペインティングの延長にあると思うんですけど、壁だけじゃなく空間全体に広げていけるのがライブテーピングの醍醐味かなと思っています。

TAKERU アイデアを閃いたとき、テープの販売店にブラックライトをもっていってどう光るかなってチョイスして。実際に試したら、お客さんも貼り出してもうぐっちゃぐちゃな状況になって、最終的にオレンジ、グリーン、ブルー、みたいなバッチバチのフロアが出来上がって。

そのとき「あ、空間と一体になれたな」っていう感覚があったんですよね。

鑑賞しているお客さんとアクションしている自分が融解したというか。カオスな空間になって、ひとつのパフォーマンスとして完成したなという。

―ペインティングだと離れたところで観なくちゃいけないけど、そういう隔たりがないわけですね。

KANAE 一緒になれますね。演劇にも、客席のなかの役者が突然立ち上がって、演者と観客の線を融解させていく演出がありますが、ライブテーピングにもそういう効果がありますね。

―お二人の作品には、観る者と何かを“繋げたい”という思いがあるように感じます。

TAKERU コロナ禍で、ディスタンシングテープというものが町中に貼られるようになりましたよね。

クラブやライブハウスも、営業再開ができたとしても、他者との距離を保ちながら踊らなくてはいけない。それでつい最近、ディスタンシングを取ったうえで踊れる空間というのを、テープで表現しました。

距離を取っていてもかっこいいとか、このテープの上で踊りたいと思ってもらえるような空間に仕上げようと思って。

SOCIAL DISTANCING TAPE

KANAE レーザーもテープも、そもそも“輪郭”をかたちづくる造形なので、その作業のなかで人と人をわけることも、繋ぐこともあるんですよね。

歴史の年表もそうですけど、一つひとつの出来事は点でも、俯瞰してみるとひとつのラインが引かれている。そういう新しいラインを引いていく作業なんだと思います。

私たちが飛ばしたレーザービームや、貼ったテープが、やがて都市になって国になって世界になってさらには宇宙になる。それが歴史として捉えられる、ということかもしれないですね。

KANAE 現代ではさまざまな分断が起きているじゃないですか。それは政治や社会に限らずアートもそうで、絵画なら絵画、彫刻なら彫刻、好きなものしか見に行かないという人もすごく多い。

その分断をぷつっと切って放置するのではなく、平和で有効的に解決する方向を探りたい。

何においてもヒエラルキーのないフラットな世界を目指していくのって、今の社会では絶対に必要なことだと思うから。

◆アートも時代を写しながら進化する

―お二人の活動を見ていて、すごく80年代のサイバーパンク的な世界観を感じることもあるんですが、そのあたりはいかがですか?

KANAE 流行って30年周期くらいでリバイバルしていくと思うんですけど、アートも同じで、繰り返しながら、その都度社会へのアンサーを含んで新しくなっていくと思うんです。

過去のSF作品を観ていると、エイリアンとか宇宙人というのは、その時代におけるマイノリティや異文化をあらわす比喩として物語に登場してくるんです。

今の時代はとくに多様性が謳われていて、自分とは違う存在にアクセスする、理解を深めることが求められている。今の時代に呼応するかのように、私たちもSFとか非日常的なものを考える機会は多いですよね。それがファッションに現れているのかもしれないです。

―なるほど、すごくおもしろいですね。

TAKERU あと、80〜90年代というのは音楽とアートが出会った、すごく親密な時代だと思っていて。テクノとかノイズだとか、そういうものの影響が色濃かった。

でもここ10〜20年くらいはその関係が途切れてぽっかり穴が開いて、それぞれがわかれてしまったというか……。そんななかでも、また出会えるんじゃないかっていう空気感を僕は感じていて。

KANAE サイバーパンクのあとにアニメとかサブカル的なものが大衆化して、オタクの特権だった文化が一般に広まりましたよね。

とくに最近はSNSのおかげで、派手であれば派手であるほど“いいね”が付く。私が今日着ているのも韓国の服なんですけど、ミュウツーみたいなキャラクターがプリントされていて(笑)。韓国とか台湾とかタイとか、アジアでサイバーパンク的なリバイバルってまた起きている気がしていて。その流れを私たちも汲んでいる気がしますね。

―コロナ禍で大きく変わった部分はありますか?

KANAE 人を集めることがよしとされている世界だったのが、真逆になりました。

仕事はほとんどキャンセルになったし、とにかく作品を作る時間にしようと。制作に集中したことで、美術への扉がまた開いた感じはあります。

TAKERU 街がものすごく冷えてしまっているなかで、みんな熱を求め出しているけど、それに怯えている空気をすごく感じているんです。

だからまだまだ難しいことは多いけど、ある意味ノイズみたいなものがなくなって、出会える人同士が共感覚を持ってミーツできる環境ができている気がしていて。

熱を求めている人同士が正しく出会えるんじゃないかなって。

KANAE 今までは、日本ってマーケット的にも小さいので、DJも現代美術家も海外にどんどん出て、ニューヨークだ、中国だ、ベルリンだ、ってイベントや展示をして、その権益をもって日本でもう一度旗を揚げる、というのがスタンダードだったと思うんですね。

パーティも、海外のDJが軸だった。でもそれができなくなって、はじめて国内の作家だけで展示を回していくようになった。ドメスティックなもので文化を繋いでいくって、新しい可能性なのかもしれないですね。

TAKERU 美術館のような大きなスペースはこれからもサヴァイヴしていくと思うんですけど、小さい空間がどんどんなくなってしまっていっている状況があります。

でも、密になって相手との距離感を縮めてくれる場所って、すごく大切なんです。

苦しい現状ですけど、再び新しいスペースもできはじめている兆しもあるので、長く続いていってほしい。距離を保って、リスペクトしながら踊ることって、一つの社会のあり方を象徴する風景だなって僕は思うんです。

<文:飯田ネオ 撮影:大森大祐>

MES
めす|アーティストユニット。東京藝術大学在学中の谷川果菜絵(KANAE)と新井健(TAKERU)の二人が2015年に結成。2017年にヒューマンビートボクサーのSh0hとのコラボレーション作品『Sh0h feat. MES “Re:Humanize”』を発表し、2018年にはDABO、SKY-HI、Yayoi Daimon、Reddyの4組のラッパーによるセッションムービー「Red Bull White Edition」に参加。2020年にはANB Tokyoオープニング展で六本木にあったクラブトゥーリアの照明落下事故をモチーフとしたインスタレーション『COUNT THREE』を発表した。

※番組情報:『アルスくんとテクネちゃん』
毎週木曜日 深夜0:45〜深夜0:50、テレビ朝日(関東ローカル)

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