【ぴいぷる】香取慎吾、誰も見たことがない“国民的アイドル”の姿 「40代だから演じることができた」 映画『凪待ち』公開

【ぴいぷる】香取慎吾、誰も見たことがない“国民的アイドル”の姿 「40代だから演じることができた」 映画『凪待ち』公開

香取慎吾

 笑顔はない。スクリーンに映るその表情からは、華やかな世界の第一線を突っ走ってきた“国民的アイドル”のオーラは一切、消し去られていた。絶望の淵で生きるすさんだ男の顔だけが、銀幕に映し出される。

 「映画のテーマは喪失と再生。人は誰もがみな喪失と再生の繰り返し。どちらも経験せずに生涯を終える人などいない…。そんなことを考えながら演じました」

 2017年、稲垣吾郎、草なぎ剛と3人で公式ファンサイト「新しい地図」を立ち上げ、本格的に俳優活動を始動してから2作目となる主演映画「凪待ち」が28日、全国で封切られた。

 「まだ誰も見たことがない香取慎吾を撮る!」。彼を主演俳優に抜擢した白石和彌監督はクランクイン前、こう豪語した。

 「凶悪」や「孤狼の血」など久しく邦画界が忘れていたハードボイルドの傑作を次々と手掛ける気鋭監督と、正義感あふれるヒーロー像が似合う国民的アイドルとのタッグ結成に、映画ファンは大きな期待を寄せた。

 「怖い監督だと思っていたら優しくて。ただ本気でぶつかり合う現場でした。そんな現場は嫌いじゃない。楽しかった」

 主人公の郁男は競輪場通いの自堕落な生活を送っていたが、人生をやり直そうと決意。内縁の妻、亜弓(西田尚美)の故郷・石巻市へ引越しし、印刷工場で働き始める。新しい生活が始まった矢先、亜弓が遺体で発見され…。

 「30代だったら絶対できなかった役。40代だから郁男を演じることができた」と強調した。

 10代の頃から国民的アイドルの地位を確立する一方で、俳優としても独特の存在感を示してきた。

 NHK大河ドラマ「新選組!」(04年)では、勇猛果敢な近藤勇を、フジ系月9ドラマ「西遊記」(06年)では、自由奔放だが命懸けで仲間を守る孫悟空を、また映画「座頭市 THE LAST」(10年)では凄みある屈強な座頭市を文字通り体当たりで熱演。悪に立ち向かうヒーローを演じることで、ファンの期待に応え続けてきた。

 だが、「かつて演じたことのない役」と振り返るように、郁男はこれまで演じてきたヒーロー像とかけ離れ、過去作と一線を画する。彼を応援してきたファンを裏切るようなアンチヒーローとも言える。

 「郁男は逃げてばかり。本当にどうしようない奴です」と語る彼に、「演じていてストレスはなかった?」と聞くと、「僕は正義感が強い方。郁男がそばにいたら叱り飛ばしますよ」と苦笑した。

 ちょうど1年前の昨年6月から7月にかけて、東日本大震災の被害からまだ復興していない石巻市で撮影が行われた。「あの場所で、あの時期だったから、僕は郁男を演じられたのだと思います」と心情を吐露した。

 「新しい地図」を立ち上げ活動を再開したが、「何がやりたいのか」を模索していた時期だとも言う。

 「今のようにまだ仕事もそれほど決まっていなくて、僕自身、先が何も見えなかった」と打ち明けた。大きな喪失感に包まれていた。

 仕事も家族も失った郁男の喪失感とシンクロさせながらの鬼気迫る演技は緊張感に満ち、ドキュメンタリー映像を見るような錯覚を起こさせる。

 長年、絵画の創作活動に取り組み、今年、念願の日本初個展を開催した。

 「個展は夢でした。40代に入り、今とても充実しています」と語った後、「もし今の自分なら郁男を演じることはできないかもしれませんね」と照れ臭そうに笑った。

 喪失からの再生をつかみ取り、40代となってなお、国民的アイドルの宿命を背負う覚悟で走り出した。

 「たとえ芝居であってもその人の生きてきた人生は必ず演技に出る。40代に入って、そう強く思うようになった。今ですか? 幸せですよ」

 再始動に燃えるその眼差しには、覇気のない郁男の目とは違い、自信がみなぎり、国民的アイドルのオーラが漂っていた。(ペン・波多野康雅 カメラ・岡本義彦)

 ■香取慎吾(かとり・しんご) 俳優、タレント。1977年1月31日生まれ、42歳。神奈川県出身。91年にCDデビュー。主な出演ドラマに「ドク」(96年)、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」(2009年)など。主な出演映画に「THE 有頂天ホテル」(06年)、「ザ・マジックアワー」(08年)、「人類資金」(13年)など。昨年、「新しい地図」の稲垣吾郎(45)、草なぎ剛(44)と出演し、2週間限定で公開された映画「クソ野郎と美しき世界」が話題を集めた。

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