【岩田由記夫の音楽の明日】キルト作りの黒人霊歌 魂を揺さぶる存在感

 三浦百恵さん=旧姓・山口=のキルト作品を紹介する書籍「時間(とき)の花束 Bouquet du temps(ブーケ・デュ・タン)〜幸せな出逢(あ)いに包まれて」が人気だ。

 キルトといえば、ボイキンという米アラバマ州の小さな町で作られる作品が、世界的に知られている。同町とその周辺は、かつて「ジーズ・ベンド」と呼ばれ、一帯では19世紀半ば頃からキルトが作られ始めた。1960年代以降、モダン・アートを思わせる即興的なデザインにより広く人気となった。2002年にヒューストンの美術館で「キルツ・オブ・ジーズ・ベンド」という展示が行われ、その後は全米のあらゆる美術館の人気催事となった。

 ジーズ・ベンドでは黒人女性たちがキルトを作るときに、スピリチュアル(黒人霊歌)を歌う。歌いながら作ることによって、ジーズ・ベンドのキルトならではの素晴らしい即興的なアートとなる。

 キルトも素晴らしいが、そこで歌われるスピリチュアルは以前から評判が高かった。

 10年に発足して米伝統音楽をマイク(RCA社製)1本と小さなアナログ・テープ・レコーダーでアーカイブし、ミュージシャンにも人気のレーベル、ドルセオラ・レコーディングス。そこに所属し、グラミー賞ノミネートを含む数多くのフィールド・レコーディングをこなしてきた日本人エンジニア、ミュージシャンの鳥越弾(だん)氏が録音したのが「ボイキン・アラバマ:ジーズ・ベンドの黒人霊歌」だ。

 この作品では、現存するブラックミュージックの最もプリミティブ(根源的)な姿が聴ける。無伴奏でハーモニーもなく、シンプルな歌には、人間の素晴らしい力、ワークソングとして魂を揺さぶる圧倒的な存在感がある。

 ライナーノーツで米のジャズギタリスト、ビル・フリゼールは「多くの教えが込められ、すべてが音楽とキルトの中にある」と記している。(音楽評論家)=毎月第3火曜日掲載

関連記事(外部サイト)