「おちょやん」の魅力は“縛られない”女たち 我が道を行く井川遥、師匠・若村麻由美の暴れっぷり

「おちょやん」の魅力は“縛られない”女たち 我が道を行く井川遥、師匠・若村麻由美の暴れっぷり

「おちょやん」(NHK総合、月〜金曜8時〜)(C)吉田潮

 途中で脱落した人もいるようだが私は好き。朝ドラ「おちょやん」。子役の毎田暖乃(まいだのの)もこまっしゃくれた感じが切なくて愛おしかったし、杉咲花の色気がない分を補うに余る芯の強さと巧さには唸り続けてきたから。

 赤貧の幼少期・芝居茶屋のお茶子期・京都女優修業期・鶴亀家庭劇期、そして戦後期の今、振り返る。実は「朝ドラ史上最も〇〇」が多かった気も。私が忘れているだけかもしれないが。

 まず、朝ドラ史上最もクズ父だったテルヲ(トータス松本)に触れておかねば。幼い娘を売り飛ばしておきながら金に困ると、娘の行く先々に現れては無心するテルヲ。晩年はホームレスとなり、病に侵され、留置所でひっそり死ぬ。憎めない父を最期は温かく迎えるなんて美化した話にしなかったのがよかった。最後も杉咲が愛憎込めて啖呵を切る姿に溜飲が下がった。視聴者の憎しみをトータスが一身に背負った感もある。

 私が好きだったポイントは、家族や家庭、家業や伝統に縛り付けられない女が意外と多く登場したところ。杉咲が女優を目指すきっかけをくれた大女優・高城百合子(井川遥)は、弘田三枝子……じゃなくてイプセンの「人形の家」を通じて女の生きざまを問う。後に杉咲の初恋の男(若葉竜也)が井川と共に亡命しちゃうのだが、女の矜持を教えてくれた人であり、傍若無人で我が道を行く女が朝ドラにいてもいいよねと思った。

 もうひとりは実質、芝居の師匠・山村千鳥(若村麻由美)。稽古中にとにかくモノをぶん投げる。蜷川幸雄ばりに投げつける。台本、扇子、枕、最後は豆まで撒いていたな。付き人兼お世話係の杉咲が、若村の不条理なミッションに右往左往しつつもコンプリートしていく姿が頼もしかった。他人だけでなく自分にも厳しい若村には「私を見下した世の中を見返してやる」という覚悟がある。嫁ぎ先で受けた酷い仕打ちをバネに、芝居の道を突き進む若村。「女の師は女」と描かれることに心地よさを覚えたよ。

 喜劇役者の悲喜こもごもで、男のほうが面白おかしい要素として描かれると思いきや、裏切られた。とにかく出てくると笑えたのが、鶴亀家庭劇の座員を演じた明日海りお。朝ドラ史上最も多いと思われるカメラ目線。画面の片隅であってもカメラ目線。密かに噴き出したし、つい姿を探したわ。岡安の女中頭で台所番の楠見薫も要チェック。密かに顔が冗舌で見逃せず。

 朝ドラの定番になりつつある「ラブロマンス編」(別名・朝からイチャコラシーン)が少ないせいか、盛り上がりに欠けたのかもしれない。ま、戦前の話だしね。

 で、いよいよ戦後へ。物語のモデルである浪花千栄子と夫は離婚している。夫の浮気で。そこをどう描くのか気になる。夫を演じる成田凌がこのまま優しく繊細なだけの男で終わるのか。おちょやんの人生に、もうひと波乱欲しいなとも思う。

 そういえば、テルヲの強烈な後妻(宮澤エマ)や、倶利迦羅紋々の弟・ヨシヲ(倉悠貴)はもう出ないのかな。おちょやんの晩年の心模様もちょっと知りたいなぁ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

「週刊新潮」2021年4月22日号 掲載

関連記事(外部サイト)

×