小山田圭吾の「いじめ自慢」、世界に誤解を与える五輪組織委の対応に音楽業界の危機感

小山田圭吾の「いじめ自慢」、世界に誤解を与える五輪組織委の対応に音楽業界の危機感

夢の島陸上競技場で行われた、ワールドハピネス2013に登場した小山田圭吾(2013年8月11日)

 障がいのある小中高の同級生らをイジメていたミュージシャンの小山田圭吾(52)に対し、東京五輪開会式の楽曲担当者から外れるべきだという声が日増しに高まっている。小山田の身内であるはずの音楽界からすら降板を求める声が上がり始めた。

 五輪組織委員会の武藤敏郎事務総長が小山田の留任を発表したのは知られているとおり。7月17日のことだった。

 武藤氏は小山田のイジメを「知らなかった」とした上で、「このタイミングでもあるので引き続き支え、貢献してもらいたい」と語った。つまり時間切れというわけである。

 だが、組織委が開閉会式のクリエーティブチームのメンバーを発表したのは同14日。ほぼ同時にSNS上には「障がいのある同級生をイジメてきた小山田の起用はふさわしくない」といった声が上がった。

 小山田の起用には最初から異論が上がっていた。時間切れというより、五輪委が最初から時間を用意していなかったから、こんな事態を招いてしまった。こういうスケジュールにするしかなかったのなら、組織委は小山田の身体検査を入念にすべきだっただろう。

 またクリエーティブチームのほかのメンバーは、ショーディレクターが元ラーメンズの小林賢太郎で音楽監督はFPMの田中知之。2人も小山田のイジメを知らなかったのだろうか。

 小山田のイジメ自慢は音楽界、サブカル界では広く知られている話だったという。音楽誌の「ロッキング・オン・ジャパン」(1994年1月号)とサブカル誌の「クイック・ジャパン」(1995年3号)のインタビューに対し、小山田が得意げに明かしていたのだから、そうだろう。

 万一、小林と田中が知っていながら問題視しなかったとすれば、市民感覚とズレているとしか言いようがない。2人の責任も免れないのではないか。説明が求められるだろう。

 小山田が開会式の楽曲を担当することが発表された直後から、「ロッキング・オン・ジャパン」と「クイック・ジャパン」のインタビューの拡散がSNS上で始まった。同時に小山田の解任か辞任を求める意見が燎原の火のごとく広まり、今に至っている。


■音楽業界の憂慮


 一方、武藤氏は小山田を擁護するが、その言葉は不可解なものだった。

「小山田さんが謝罪をされて、私どもも十分理解しました。彼は今、現時点において十分謝罪をして、反省をして、倫理観を持って行動したいと言っておられます」(武藤氏)

 小山田に許しを与えられる人がいるとしたら、イジメを受けた本人、家族らでしかないはず。第三者である武藤氏が勝手に許すのは傲慢ではないか。この辺も多くの市民から理解を得られない理由だろう。

 小山田は前述した2つの雑誌のインタビューで、障がいを持つ人の容姿を侮蔑した上、人種差別を助長しかねない発言をしている。どちらもヘイトスピーチとも呼べるものである。

「いかなる差別も禁じる」とする五輪憲章に反する。それでも組織委は起用するのなら、国内外の誰もが納得する説明が求められるはずだ。

 小山田にとって身内であるはずの音楽制作者の中からもこんな声が出始めた。

「このままでは収まらない。時間がないのなら、小山田が作った曲だけ残し、彼が退けばいい。薬物でアーチストが捕まった時、『作品に罪はない』と言い、絶版にしないのと同じ。姑息な論法だが、彼が居座るよりはマシ」(大手レコード会社出身の音楽制作者)

 この制作者は小山田が留任に拘ると、日本の音楽界全体が誤解されかねないと憂慮する。

「そもそも海外のミュージシャンは福祉活動や自然保護活動などに熱心。社会に貢献しないと尊敬されない。日本のミュージシャンは福祉活動などに積極的ではないが、この小山田の件はそれどころではない。彼が五輪に関わり続け、日本のミュージシャン代表みたいに受け取られたら、音楽界全体にとって不名誉なこと」(同・大手レコード会社出身の音楽制作者)

 小山田は海外の反応を意識していないのかも知れないが、国際企業・ソニーは敏感だった。ウェブ上に掲載していたウォークマンに関する小山田のインタビューを全面削除した。イジメを容認していると国内外で受け止められかねないからだろう。


■「クイック・ジャパン」に取材を申し込むと…


 一方、小山田がインタビューでイジメを明かした2誌のうち、「ロッキン・オン・ジャパン」の山崎洋一郎編集長は7月18日、同誌の公式サイト内で全面的に謝罪した。

「その時のインタビュアーは私であり編集長も担当しておりました。そこでのインタビュアーとしての姿勢、それを掲載した編集長としての判断、その全ては、いじめという問題に対しての倫理観や真摯さに欠ける間違った行為であると思います」(山崎編集長の謝罪文より)

 山崎氏のインタビューに対し、小山田は障がいがあった小学校の同級生をガムテープで縛り、段ボールに入れたなどと笑いながら明かしていた。同じ同級生には排泄物を食べさせたり、女子生徒の前で性器を出させたりもしたという。

 片や「クイック・ジャパン」では中学の修学旅行時、留年した先輩とやはり障がいのある生徒に自慰行為をさせたと語っている。また、同誌の編集者は被害者生徒と小山田の対談を計画し、相手の都合も尋ねずに自宅まで訪ねた。その際、被害者の母親は本人が自死を考えていたことを明かしている。

 同誌を発行する太田出版は同16日、デイリー新潮の電話取材の申し込みに対し「来ると思った」としながら、「リモート(勤務)だから」として対応しなかった。ちなみに同社は神戸連続児童殺傷事件の加害者男性が書いた『絶歌』(2015年)の出版元として知られる。

 小山田の母校関係者の間では戸惑いが広がっている。同校要職者はデイリー新潮の取材に対し、「事実関係を調べ、対処しなくてはならないと思います」「どうやら小山田さんは学園の運営に不満を抱いていたようなんですよ」と語っていたが、本来は教育関係者の間で評判高い学校なのだ。

 特徴は自由な校風。小中高の一貫校でずっと制服がなく、校則も緩やか。それでいて高校卒業時には早慶などの難関大に合格者を出す。

 障がいのある生徒を受け入れ、それにより健常者の生徒が弱者の立場になってものを考えられる力を育ませている。障がいのある生徒には民主的な能力などの発達をうながしている。ただし、小山田は履き違えたようだ。

 知的障がいのある人の人権を守るため、その親たちでつくっている一般社団法人「全国手をつなぐ育成会連合会」は同18日、声明を出した。開会式が迫っているため、小山田の辞任こそ求めていないが、極めて厳しい内容だった。

「イジメというよりは虐待、あるいは暴行と呼ぶべき所業です」

「しかも、そのターゲットが反撃される可能性が少ない障がいのあるクラスメイトだったことも考え合わせると、小山田氏の行為には強く抗議するものです」

 留任させた組織委が公式説明を出していないことにも疑問を呈している。また、この件で五輪とパラリンピックを楽しめなくなった障がいのある人、家族が多数いると明かした。

 英有力紙「ガーディアン」(電子版)や同「デイリー・テレグラフ」(電子版)はこの件を冷ややかに報じた。フランス高級紙「フィガロ」も。

 小山田と組織委の対応によって、日本全体が誤解され、イジメに寛容な国と思われそうだ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月19日 掲載

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