桐生はアミューズ、錦織と大坂はIMG…アスリートが芸能プロにマネージメントを任せる理由

桐生はアミューズ、錦織と大坂はIMG…アスリートが芸能プロにマネージメントを任せる理由

大坂なおみ

 東京オリンピック開幕。芸能プロダクションは蚊帳の外と思いきやそうではない。代表選手が所属する芸能プロもあるからだ。なぜ、アスリートは芸能プロにマネージメントを任せるのか。そのメリットとは?

 ***

 アスリートのマネージメントを手掛ける芸能プロの草分けはホリプロ。1991年、社内に文化部(現スポーツ文化事業部)を設け、ヴェルディ川崎に所属していた武田修宏(54)らとマネージメント契約を結んだ。

 アスリート側にもホリプロ側にもメリットがあった。当時、アスリートがテレビ出演する際のギャラは不当と言えるほど安かったが、これが改善に向かったからである。もちろんホリプロにも所定のマネージメント料が入るようになった。

 1980年代までのアスリートのギャラがどの程度だったかというと、「だいたいタレントの10分の1から5分の1程度」(民放OB)だった。なぜ、そんなに安かったかというと、そもそも民放側にアスリートにもタレント並みのギャラを支払わなくてはならないという意識がなかったからだ。

 背景には新聞がノーギャラだったことがある。新聞記者は取材謝礼を1円も払わなかった。「アスリートが新聞に登場するのはファンサービスの一環」という考え方からだった。民放もその意識を共有したが、さすがに一定のギャラは支払った。「スポーツマンランク」などと呼ばれた相場に沿った低い金額だった。

 その常識に変化が生じ始めたのはホリプロに文化部が誕生したころから。アスリートには勝手が分からないギャラ交渉を代行した。各番組への貢献度を考えると、アスリートというだけでギャラを抑えられるのは間尺に合わない話だったのだ。


■取材の選別というメリット


 ほかにもアスリート側にはマネージメントをしてもらうことによるメリットがあった。週刊誌など普段はアスリートと密に付き合っていないメディアの取材窓口を芸能プロが引き受けるようになったからだ。

 例えばアスリートがJリーガーだった場合、取材を受けるべきかどうかの判断を球団が下すのは難しい。アスリートの数が多いから、その取材が本人にとってプラスになる取材かどうかを判断する時間がない。球団はサッカー専門誌以外、雑誌のカラーも把握していない。

 断るのは簡単だが、本人にとってプラスになる取材かも知れない。球団は迷う。その点、芸能プロなら取材申し込みの選別はお手のものだし、雑誌の性質も知り尽くしている。

 もっと大きいのが、芸能プロがCM契約の交渉を代行してくれること。金額は大きいし、期間や禁止事項などの条件が複雑なので、CM契約は本人が自分でやるのは難しい。金額の相場も分からない。その点、芸能プロならCM契約にも慣れている。売り込みもしてくれる。

 五輪競技のアスリートの場合、1988年のソウル五輪からプロの出場が認められるようになったため、金メダリストの価値がより高まった。五輪で世界一が決まるようになったからだ。

 金メダリストは人気も好感度も高く、なによりファン層が広いので、企業にとって垂涎の的なのである。

 では、芸能プロの秘蔵っ子である五輪出場選手の一部をご紹介したい。


■芸能プロ所属の五輪出場選手たち


■ホリプロ

・植草歩(28)。出場予定種目、空手女子組手61キロ超級。武器は中段突き。全日本選手権女子組手で2015から2018年に史上初の4連覇を達成。2018年、アジア大会68キロ超級金メダル。

 小学3年生で空手を始めてから、僅か2年で全国大会の3位に入賞した天才肌。愛称が「空手界のきゃりーぱみゅぱみゅ」というところがホリプロらしい。

 所属はJAL。これはマネージメントをホリプロが行うものの、JALのサポートを受けるという意味。非公式戦などでは右胸に「JAL」のマークの入った空手着を着用している。

・小池祐貴(26)。出場予定種目、陸上男子100メートルと400メートルリレー。自己ベストは100メートルが9秒98、200メートルが20秒23。今年6月の日本選手権の200メートルで初優勝し、この代表にも内定したが、リレーに出場するため、辞退した。

 2018年、アジア大会男子200メートル1位。2019年、日本選手権男子100メートル3位。同年、日本選手権男子200メートル2位。所属は住友電工。

 100メートルで日本人初のメダリストとなったら、CMの依頼が殺到するのは間違いない。

・新城幸也(36)。出場予定種目、自転車男子ロードレース。ロンドン、リオに続き3度目の五輪。2011年、アジア選手権個人ロード金メダル。2013年、全日本選手権ロード優勝。2016年、アジア選手権個人ロード銀メダル。ツール・ド・フランスに7回出場し、敢闘賞を2度獲得した。

 日本のサイクルロードレース界のカリスマ。所属はバーレーンのロードレースチームであるバーレーン・ヴィクトリアスである。


■アミューズは17年から参加


■IMG

 IMGはスポーツ選手やモデルのマネージメントなどを行う。会社の知名度はそう高くないものの、複数の大物のマネージメントをしていることで知られる。

・錦織圭(31)。出場予定種目、テニス男子シングルスとダブルス。2014年、全米オープン準優勝。2016年、リオデジャネイロ五輪銅メダル。五輪は北京、ロンドン、リオに続いて4度目。世界69位。

 所属は日清食品。スポンサーは日清食品、ユニクロ、NIKE、Wilson、ジャガー、JAL、Weider、JACCS、LIXIL、アサヒビール、エアウィーヴ、NTT、WOWOW、Uber Eats。

 スポンサーの数はトップクラスだ。

・大坂なおみ(23)。出場予定種目、テニス女子シングルス。2018年、全米で日本選手初の4大大会優勝。翌2019年の全豪も制し、世界ランク1位に。2020年の全米と2021年の全豪も優勝。4大大会で通算4勝している。

 圧倒的な強さを誇る一方、6月の全仏の棄権以降はプレーしていないのが懸念材料か。

 所属は日清食品。スポンサーは日清食品、ヨネックス、WOWOW、日産自動車、ANA、NIKE、Mastercard、森永乳業、TAG Heuer、Workday。

 さすがはトップアスリート。スポンサーは一流どころばかりである。

・ダニエル太郎(28)。テニス男子ダブルス。パートナーは西岡良仁(ミキハウス)。

 2016年、リオデジャネイロオリンピック16強。2017年、コパ・シティ・ティグレ優勝。2018年、イスタンブールオープン優勝。2020年、ケーターピラー・バーニー・インターナショナル優勝。

 所属はエイブル。スポンサーはエイブル、Oaklay、Babolat、DIADORA。

 役者ばりのイケメン。五輪で活躍すると、より人気が高まりそう。

・都筑有夢路(20)。出場予定種目、サーフィン。競技を始めたのは11歳。17歳でWSL世界ジュニアチャンピオンに。その後、プロ最高峰であるチャンピオンシップツアーに日本人女子として初参戦。2019年、WSL QS1000 Ichinomiya Chiba Open優勝。

スポンサーはRIP CURL、Oakley、FCS、GRAND MARBLE、GLOBAL WiFi。

 サーフィン界初の五輪女王の座を狙っている。

・石川佳純(28)。出場予定種目、卓球女子シングルスと卓球女子団体。2012年、ロンドン五輪団体銀メダル。2016年、リオ五輪団体銅メダル。全日本選手権ジュニアシングルス4連覇、インターハイ3連覇。10代のころは、ほぼ向かうところ敵なしだった。

 所属は全国農業協同組合連合会(全農)。スポンサーは全農、アシックス、日本卓球、昭和電工マテリアルズ、エアウィーヴ、長州産業、山口フィナンシャルグループ、TOTO、シスコシステムズ、興和。

 ちなみに石川の出身は山口市。地元企業が応援している。

■アミューズ

 次にアミューズ。サザンオールスターズや福山雅治(52)ら大物芸能人を擁する大手芸能プロだが、アスリートのマネージメントに乗り出したのは2017年で、歴史は浅い。社のモットーの1つが「感動だけが、人の心を撃ち抜ける」という言葉であることから、参入は不思議ではなかった。

・大迫傑(30)。出場予定種目、マラソン。2020年3月の東京マラソンで2時間5分29秒をマーク。自身が持っていた日本記録を塗り替えた(当時)。

 2017年、ボストン・マラソン3位。同年、福岡国際マラソン3位、2018年、シカゴ・マラソン3位。2019年、五輪選考のMGC3位。3000メートル、5000メートルの日本記録保持者でもある。早大時代の箱根駅伝では2回、区間賞を獲得した。

 所属はナイキ。スポンサーはマニュライフ生命保険。

・畠田瞳(20)。出場予定種目は体操女子の個人総合と団体総合、種目別。2019年、全日本選手権個人総合3位。同年のユニバーシアード4冠。

 所属はセントラルスポーツ。早大スポーツ科学部に在学中。

・桐生祥秀(25)。出場予定種目、400メートルリレー。2016年リオ五輪の400メートルリレーで銀メダルを獲得した。

 東洋大在学中の2017年には日本学生陸上競技対校選手権大会の100メートルで9.98秒を記録。日本人として初めて10秒を切った。このタイムは今も日本学生記録のまま。

 所属は日本生命。同社とアシックスのCMに出演中。

 アスリートが活躍すればするほど企業には魅力的になる。その時、芸能プロの手腕の見せどころとなる。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月25日 掲載

関連記事(外部サイト)