「ドクターX」製作費は1話1億円?視聴者は知らない本当の製作費とギャラ事情、テレビ局の本音

「ドクターX」製作費は1話1億円?視聴者は知らない本当の製作費とギャラ事情、テレビ局の本音

「ドクターX」の製作費は1億円!?

 最近、ドラマの制作費や役者のギャラが、ドラマ制作者や芸能プロダクション関係者の間で話題だ。彼らが「あり得ない」と断じる制作費やギャラが、複数のメディアで立て続けに報じられたからだ。制作費とギャラの実情を調べた。

 ドラマ関係者の間で一番話題になったのは、あるメディアによる「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」(テレビ朝日)の制作費の報道。その額1億円。映画「カメラを止めるな!」(2018年)の制作費は300万円だったから、その30倍以上。同「リアル鬼ごっこ」第1弾(2008年)とほぼ同額である。

 もっとも、1億円という金額を「事実とかけ離れている」と全面否定するのは、ほかならぬテレ朝の制作者である。ドラマ、芸能プロ関係者なら誰もが知ることだが、制作費1億円なんてドラマ自体、テレビ界のどこを探しても存在しないのだ。

 ドラマ制作者、芸能プロ関係者のドラマ制作費に関する証言は一致しており、その金額はプライム帯(午後7時〜同11時)の場合、1本3000万円台。もちろん「ドクターX」もそうである。

 最近では1本2000万円台で撮るドラマも出てきた。制作費は約20年間増えていないが、その上、このところCMがより売れにくくなっているからである。テレビ東京の制作費はさらに約2割安い。

 6年前の2015年に民放に投じられた広告費の総額は1兆9323億円だった(電通調べ)。ところがネットに押され、2020年には1兆6559億円に激減した。道理で制作費が20年も増えていないわけだ。制作費1億円のドラマをつくる余裕など到底ないのである。

 まして「ドクターX」の場合、世帯視聴率は15%以上、個人全体視聴率も8%台以上と高いものの、スポンサーが大喜びする49歳以下の視聴率に限ると平凡なのである(視聴率は関東地区、ビデオリサーチ調べ)。


■例外は「日曜劇場」


 ただし、制作費に関しては唯一の例外がある。TBS「日曜劇場」である。制作費が他局や同じTBSのドラマの2倍以上ある。6000万円台以上。誰がカネを出しているかというと、大半はスポンサーである。

「日曜劇場」のスポンサーは花王、サントリー、日本生命、SUBARUといずれも日本を代表する企業。余裕がある。おまけに「日曜劇場」は視聴率も作品のイメージもいいから、スポンサーはよそのドラマの相場以上にスポンサー料を出しているのだ。

 また、現在放送中の「日本沈没―希望のひと―」から「日曜劇場」はNetflixでも配信されるようになった。これにより収入増になるので、制作費もより増える。


■もっとも高いドラマは


 では、制作費が一番高いテレビドラマは何かというと、NHK大河ドラマ「青天を衝け」である。その額、7900万円。これは公開資料で裏付けられている。同局の「2021年度 収支予算と事業計画の説明資料」に最も高額の制作費として記されているのだ。

「青天を衝け」と具体的なドラマ名こそ書かれているわけではないが、NHK関係者や放送記者なら誰でもすぐ分かる。NHKのドラマで最も制作費が高いのは、いつの時代も大河なのである。

「青天を衝け」にカネがかかっているのは見ているだけで分かるはず。時代設定が江戸時代のころはリアルなセットが組まれていた。馬も登場したし、合戦のシーンもあった。明治期に入ってもセットや衣装はリアル。「ドクターX」も含めた民放のドラマとはカネの使い方が比べものにならない。

 そもそも「ドクターX」はロケ地として千葉大学病院や同大医学部を借りている。このため、セット代はそう高額にならない。ほかの医療ドラマもそうである。

 ギャラに限るとNHKは民放より安いが、制作費が大河を超えるドラマは昔も今も民放には存在しない。役者の顔ぶれ、出演者の人数を見ただけでもそれは分かるはず。

 民放ドラマのギャラはプライム帯の主演だと約100万円〜約300万円。1人のギャラを突出して高くすると、違う役者からクレームが出る可能性があって、この相場は崩れない。例えば主演が800万円で準主演が100万円以下だったら、不満の声を抑えられなくなる。

 米倉涼子(46)のギャラについては800万円や500万円、400万円という報道があったが、これを信じるドラマ制作者、芸能プロ関係者はいない。単に相場から懸け離れているだけでなく、それでは米倉が損をしかねないからだ。

 米倉のギャラが本当にこの金額だったら、テレ朝内から「米倉のギャラは高すぎる。ほかの主演で別のドラマは撮れないのか」という声が上がりかねないのである。採算の問題だ。

 テレ朝の同じ木曜午後9時台で7月期に放送された「緊急取調室」も世帯視聴率が高く、12%台あった。本当に米倉が破格のギャラを得ていたら、こちらのほうがテレ朝にとって魅力的なドラマになりかねない。


■ドラマはみんなトントンか赤字


 そもそも制作費1億円の原資がない。スポンサー料は高視聴率だと跳ね上がるような仕組みではないのだ。第一、スポンサーはドラマごとに入れ替わるのではなく、大半は半年おきに替わるから、「緊急取調室」とほとんど同じなのである。「ドクターX」だけスポンサー料が割り増しになるようなことはない。そんなことはスポンサーが許さない。

 日本テレビの幹部は常々、「ドラマはみんなトントンか赤字。制作費と視聴率の兼ね合いだけを考えたら、やらないほうがいいくらい」と語っている。3000万円台の制作費の中にはスタッフの人件費やスタジオ利用料なども含まれており、ドラマは利益が出にくいのだ。

 それでもドラマを放送する第一の理由は局のイメージを左右するから。たしかに儲からないからといってドラマから撤退したら、局としてのイメージが失墜する。半面、本当に制作費が1億円かかるとしたら、やめるか削減するだろう。事実、カネがかかる時代劇は消えてしまった。

 1本50分ほどで、制作費が本当に約1億円出るドラマもある。ただしテレビドラマではない。Netflixの配信ドラマだ。山田孝之(38)主演の「全裸監督」(2019年、2021年)、満島ひかり(35)と佐藤健(32)が主演し、2022年に配信される「First Love 初恋」、そして米倉の主演で来年1月に配信される「新聞記者/The Journalist」などである。潤沢な制作費が魅力となり、次々と役者が参入している。この流れは止まらないだろう。

「新聞記者/The Journalist」の共演陣は綾野剛(39)、横浜流星(25)、吉岡秀隆(51)、萩原聖人(50)、ユースケ・サンタマリア(50)、田中哲司(55)、柄本時生(32)、佐野史郎(66)、橋本じゅん(57)、でんでん(71)、寺島しのぶ(48)ら。強力布陣である。1億円の制作費も納得だ。

 なぜ、Netflixにはカネがあるかというと、会員からカネを薄く広く集めている上、世界約130カ国で公開できるからである。

 テレビドラマの場合、国内での放送や配信に頼っている限り、制作費には限界がある。おそらく1億円の制作費を得る日は永遠に来ない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年11月14日 掲載

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