次の月9は「杏」「坂口健太郎」のダブル主演 昔ならあり得ないミステリーが三作続く事情

次の月9は「杏」「坂口健太郎」のダブル主演 昔ならあり得ないミステリーが三作続く事情

杏、坂口健太郎

 7月期のフジテレビの「月9」(月曜午後9時台の連続ドラマ)が、坂口健太郎(30)と杏(36)のダブル主演作に決まった。作品はミステリー「競争の番人」。原作は同名小説で、作者は新川帆立さん(31)だ。現在放送中の月9「元彼の遺言状」と一緒である。

「競争の番人」の舞台は公正取引委員会。坂口健太郎は東大卒のエリート審査官・小勝負勉に扮する。杏の役どころは同じチームの叩き上げ女子審査官・白熊楓だ。

 公取委は独占禁止法に基づき、自由で公正な競争を守るための行政機関。内閣府の外局であり、価格の不当な吊り上げにつながるカルテルや談合に目を光らせている。だから「自由競争の番人」とも呼ばれる。これがタイトルの由来だ。

 原作では小勝負と白熊のコンビがウェディング業界の競争妨害に斬り込む。ワルが談合や下請けイジメなどによって、不当な利益を懐に入れていた。その不当行為の全容を2人が解き明かすというミステリーである。

 公取委は警察でも検察でもないものの、職員が一丸となって悪と戦うところは一緒。視聴者の共感を呼ぶ勧善懲悪の構図がつくりやすく、ドラマ向きの組織にほかならない。

 公取委の存在は誰もが知っているが、その内情はほとんど明らかになっていない。組織の性質上、秘密ばかりだからだろう。これもドラマ向きだ。

 長いドラマ史において公取委がメインの舞台となったことは一度もない。やり尽くされたと思われていたお仕事ドラマの新ジャンルなのである。この新鮮さもフジにとっては魅力だったに違いない。

 原作者は現在放送中の「元彼の遺言状」に続き新川帆立さん。同一作家の小説が、同じ放送枠で続けてドラマ化されるのは極めて珍しい。


■3クール連続でミステリーの「謎」


 1987年に始まった月9の場合、脚本家・坂元裕二氏(54)が2006年にオリジナル作品の「西遊記」「トップキャスター」を立て続けに書いたが、同じ作家の原作を連続で採用したことはない。前例が破られたのはフジが新川さんの原作に惚れ込んでいるからだ。

 それは異例の猛スピードでドラマ化が決まったことからも分かる。原作は「小説現代」に昨年12月号から連載され、今年3月号で完結したばかり。単行本はまだ世に出ていない。発売予定日は5月上旬。ドラマ化権を小説の完成前に取得していたのだ。

 月9の1月期作品が菅田将暉(29)主演の「ミステリと言う勿れ」だったのは記憶に新しい。こちらの原作は田村由美さんによる人気漫画だったものの、やはりミステリーだった。

 月9は1月期から7月期まで3クール連続でミステリーが続くことになる。これは月9史上、初めてのことだ。

 背景にはミステリーがファミリーの視聴者にウケやすいということがあるのだろう。月9がF1層(女性の20歳〜34歳)の視聴者をメインターゲットとし、「恋愛ドラマ専科」のような放送枠だったのは既に昔話。1990年代までだ。現在の月9のターゲットはファミリーとされている。

 月9の近年のスポンサーを見てみると、それが分かる。花王、ジャパネット、エステー、サントリー、メナード化粧品、ギャラクシー。F1層だけ観てくれたら、それで良しとするようなスポンサーは見当たらない。恋愛ドラマがラブコメの「海月姫」(2018年)を最後に消えているのもうなずける。

 ミステリーはネットフリックスやユーネクストなどの有料配信、TVerなどの無料配信でも人気が高い。特に若い人に好まれているとされる。ミステリーは単に観るものでなく、ゲーム感覚で推理に挑めるところが10代から30代を惹き付けるのだろう。

「ミステリーと言う勿れ」は全12話の平均世帯視聴率が11.8%(7.2%)で成功した。第1話から第8話までの時点で無料配信のTVerでの再生数の合計も2389万に到達。民放ドラマ史上で最高を記録した(ビデオリサーチ調べ)。

 ドラマを放送するだけでなく、その作品を配信先に供給するビジネスも手掛ける近年の各局にとって、配信と親和性の高いミステリーは魅力的に違いない。フジも当然、意識しているのだろう。

 ただし、今後の月9がミステリーの指定席となるのかというと、そうではない。フジ関係者によると、作品の面白さを第一に考えたところ、結果的にミステリーが続くことになったという。月9の性格がミステリーで固定化されるわけではない。

 それでも月9の恋愛ドラマを観て育った現在の40代から50代以上は隔世の感だろう。1990年代の常識で考えたら、3クール連続のミステリーはあり得なかった。


■注目の原作者


 月9の原作を続けて担うことで小説フリークからドラマファンにまで広く注目されそうな新川さん。2013年に「日曜劇場 半沢直樹」に原作を提供し、その後も「日曜劇場」で6作品がドラマ化されたことから、国民的人気を得た作家・池井戸潤氏(58)と同じ道を辿るかも知れない。

 新川さんの経歴は華麗だ。茨城県立土浦一高から東大法学部に進み、同法科大学院を修了。24歳で司法試験にパスした。司法修習生時代、今度は麻雀協会のプロテストにも合格。その後1年間、プロ雀士として活躍した。強いらしい。

 2017年1月には弁護士登録し、法律事務所に入ったものの、小説の書き方などを学ぶための時間がつくりやすい一般企業の法務部に転職。この人生設計が功を奏し、2021年1月、『元彼の遺言状』でデビューした。

 この処女作が「このミステリーがすごい!」大賞の大賞を受賞。賞金1200万円を獲得した。ちなみに新川さんが最初に付けたタイトルは「三つ前の彼」だった。原作を読んだ人、ドラマを観ている人はピンとくるはずだ。

 ドラマ版は綾瀬はるか(37)が主演。大泉洋(49)が準主演で放送中なのは知られている通り。綾瀬が気の強い敏腕弁護士・剣持麗子を演じ、気の優しいミステリー作家志望の青年・篠田敬太郎に大泉が扮している。

 世帯視聴率は4月11日放送の第1話が12.1%(個人7.2%)。同18日放送の第2話が10.5%(個人5.5%)と上々。ただし、1話と2話は材料を詰め込みすぎた感があり、賛否両論ある。月9は今後、新川作品の料理の仕方も問われそう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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