「札束を抜き取る女」が波紋、ギャラ飲みはいかにして生まれたのか “発祥の地”の店主が語る知られざる歴史

「札束を抜き取る女」が波紋、ギャラ飲みはいかにして生まれたのか “発祥の地”の店主が語る知られざる歴史

拡散された「ギャラ飲み女性が財布から札束を抜き取る」場面

 ダーツに興じる男性の目を盗み財布に手を伸ばす――。または、席を立った隙にカウンターに置かれた財布から札束を抜き出す――。最近、ギャラ飲み中に窃盗を働く女性の動画が、一部で出回っている。【酒井あゆみ/ノンフィクション作家】

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 ふたつの動画に収められた“窃盗犯”の女性は、それぞれ別人だ。前者の動画の人物は、かのZ李氏が〈ギャラ飲みスリ女が翌日に捕獲〉と、容疑者を問い詰める模様をTwitterにアップしてもいる。

 私は仕事柄、ギャラ飲みを募集するLINEグループにこっそりと紛れ込み、やりとりを観察していた。詳しくは「緊急事態宣言は完全無視…コロナ禍でギャラ飲みに励む『港区女子』の呆れた実態」「レースクイーンから『ギャラ飲み』斡旋業に… 貯金2000万円のアラサー女が口にした“不安”」の二つの記事を参照頂きたいが、不特定多数の女性たちが参加するグループに、ギャラ飲みなどの案件の募集が投稿され、志望する女性が顔写真などと共にエントリーする仕組みだ。

 件の動画の女性たちについては、数日前からLINEグループに注意喚起が投稿されていた。たとえばある女性についてはその顔写真と共に、

〈(※実際の投稿では実名)お客さんに許可なしに勝手に女の子呼び紹介料払えって言います(中略)アカウント7個以上持っているのでグル(※グループ)退会させても他の人経由で入ってきます。この女をグルに招待しないでください〉

 または、あるグループを主催する女性の投稿には、こんなものも。

〈絶対招待やめてください!このグループもこれから、招待したい場合一言私に連絡ください(中略)お金のトラブル多くて、呼んだ側が顔潰れるので、被害者が増えないように、仲良いBARなどに情報シェアよろしくお願いします〉

〈昨日もたまたま一緒になって、お客さんのiQOSパクリました。iQOS無くなったお客さんもBARのスタッフも証明できます。むしろ違う子(※面識のない女性を指すと思われる)もその席にいたので、事実です(中略)この子の友達も使いたいと思わないので、こんな人と仲良くできるのは類友しか思いません。自ら退会してください!!(中略)コロナ禍みんな大変だと思うので、力を合わせて稼ぎましょう〉

 基本的にギャラ飲みは、“一緒に飲んでくれる良い子いない?”という依頼を受けた女性、あるいは飲食店を経営する男性がグループに募集を投稿して成立する。お眼鏡にかなわない女性はもちろん、窃盗を働く女性などを席に着かせてしまえば、信用問題にかかわる。先に紹介した「レースクイーンから〜」の記事の女性などは、事前に一度面接し、信用できる女性にしか案件を振らないと言っていた。

 若い女性と酒席を共にする点は同じでも、すくなくとも店が管理するキャバクラでは、客に盗みを働く事件など起きようもない。有象無象の女性が参加するギャラ飲みはいかにして生まれたのか。今回、ギャラ飲みの”発祥の地”を経営する人物に取材することができた。


■ギャラ飲みはキャバ嬢の怠慢から生まれた!


 話を聞いたのは、港区・六本木の一等地でBARを経営する青木氏(仮名、40歳)だ。店のほかに、アパレル会社を経営するなどの“昼の顔”を持つ。

「2016年くらいですかね。ギャラ飲みは、キャバ嬢のアフターのバックれから始まったんです。BARの常連さんから“誰か一緒に飲んでくれる子いないかな”と相談を受けることがたびたびあって。自分はもともと芸能プロダクションのスカウトマンをやっていたんで、女の子の知り合いも多かったんです。だから最初は知っている女の子に『今から店に来られない?』ってLINEを送っていました。でもあるときから面倒になって、一斉に送れるグループを作ったんですよ」

 これが今日まで続くギャラ飲みグループのルーツである。ただし、

「最初は『ギャラ』飲みじゃなかったんです。あくまでも『タクシー代』『足代』って呼んでいました。それがいつの間にか『ギャラいくら?』って言われるようになって。場所柄、芸能関係者のお客さんが多かったので『ギャラ』と言うようになりました。僕としてもお金が出るときちんと説明したほうが女の子が集まりやすい。港区のキャバクラの最低時給が5000円だったことから『じゃ2時間1万円』っていうのが定着していったわけです」

 やがてグループは膨れ上がり、青木氏の手に負えなくなっていく。

「グループがあっという間に500人になって。女の子が『これは美味しい!』って、友達をグループに招待、招待、って広まっていったんですね」


■勝手に伝票を書く女性も…


 顔の見える常連と女性を繋げていた当初ならいざ知らず、メンバーが膨れ上がった現在では、グループで案件が成立したところで、青木氏にメリットはないに等しい。

「僕にはそのグループで一切儲けはありません。それでも一応の管理者で居続けているわけは、知っている子、あるいは人づてに女の子からの感謝が聞こえてくるからです。『これで普通の生活できるようになりました』『仕事がなくて困ってたんです。本当にありがとうございます!』って」

 もっとも、こうした新しい文化が誕生するときは、世の需要があって、同時多発的に生まれるものである(ギャラ飲みを文化と言うには大げさかもしれないが……)。青木氏のBARが発祥の地のひとつであることは確かだろうが、唯一の場所ではなさそうだ。

「他の水商売の店とかもお客様の要望に応えるためにギャラ飲みグループ作り始めて、今は数を把握できないですからね。大所帯じゃなく、小さなグループでやってるところも多いですから。いまやギャラ飲みのアプリまでどんどん出てきてますからね。先日、そのアプリの大手に国税が入りました。自動で投稿が消え足跡を残さない、海外製のアプリでグループ作るところも出てきました」

「テレグラム」を使うグループが出来たり、「シグナル」を使ったグループがあったり……それぞれ何百人単位の女性が参加しているようだ。だが、複数のグループに重複して参加している女性が多く、実際にギャラ飲みの女性が何人いるのかを調べるのは不可能だろう。

 人が集まれば集まるほど、トラブルが起きやすくなるのは当たり前のこと。窃盗は起きるべくして起きたといえる。青木氏も嘆く。

「どんどん『手癖が悪い』『常識がない』女の子が増えていますね。お客さんの財布からお金をスるのもそうだし、お客さんから直接お金を貰えないから、勝手にお店の伝票に追加料金を書く女の子も出てきました(※酒席の売り上げの何割かをギャラとして受け取る案件もある)。そんなことされたら、ボッタクリの店というイメージついちゃうじゃないですか。そんな恩を仇で返す、自分のことしか考えられない、そうやったらどうなるかの想像もできない子が多いです。一応、プロフィール上は育ちも良くて大卒の子たちが、ですよ」

酒井あゆみ(さかい・あゆみ)
福島県生まれ。上京後、18歳で夜の世界に入り、様々な業種を経験。23歳で引退し、作家に。近著に『東京女子サバイバル・ライフ 大不況を生き延びる女たち』ほか、主な著作に『売る男、買う女』『東電OL禁断の25時』など。Twitter: @muchiuna

デイリー新潮編集部

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