51作の長期シリーズに…ヤクザを描くVシネマ「日本統一」はなぜ人気なのか
2022年05月27日 06時02分 デイリー新潮

日本統一51(ライツキューブpromo公式YouTubeチャンネルより)
人気を背景に過去50作も制作されたVシネマのシリーズ「日本統一」をご存じだろうか。本宮泰風(50)と山口祥行(50)が扮するヤクザが仁侠界の日本統一を目指す大河ドラマである。5月25日には51作が発売された。コンプライアンス最優先の時代になぜ人気なのか。
「日本統一」の第1作が発売されたのは2013年7月。超異例の長期シリーズとなった。人気があるからにほかならない。どの有料配信サービスも売り物にしている。50作のうち3本は劇場でも公開された。
主人公の1人は氷室蓮司。神戸に本拠を置く日本最大のヤクザ組織・3代目侠和会の若頭だ。演じているのは本宮泰風である。松本明子(56)の夫で、原田龍二(51)の実弟だ。
本宮はこのほどNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」に比嘉家の長男・賢秀(竜星涼)の所属するボクシングジムのトレーナー役で出演。朝ドラデビューも遂げている。
もう1人の主人公は侠和会本部長の田村悠人。演じているのは山口祥行だ。山口はNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に河津祐泰役で出演した。
横浜の藤代組組長の息子として生まれた氷室と幼なじみの田村は不良仲間だった。2人は地元で怖いものなしの存在になり、ついには本職(ヤクザのこと)の安西組を潰してしまう。組長をピストルで脅し、解散届を書かせた。ムチャクチャである。
それにより2人は安西組の上部団体・丸打組に命を狙われ、横浜にいられなくなる。安西組の若頭・秋本(哀川翔)の忠告もあって、神戸に逃げた。
ここでも2人は龍征会という独立組織をつくり、やっぱり大暴れ。今度は権田誠蔵(故・千葉真一さん)が初代会長を務める神戸の侠和会の怒りを買い、傘下の三上組に攻められる。殺されそうになった。
絶体絶命のピンチを救ってくれたのは同じく侠和会系山崎組の若頭・川谷雄一(小沢仁志)である。川谷は2人のヤクザとしての資質(?)を認め、死なせるのは惜しいと考えた。2人は三上組に入ることになり、やがては川谷を侠和会の3代目会長に押し上げる。
氷室は腕っ節が凄まじいまでに強く、キレると恐ろしいが、普段は頭脳派。抜群に頭が良い。田村は常にイケイケの武闘派だ。物語は侠和会で出世コースを歩む氷室が軸となって進む。
50作までは抗争に次ぐ抗争だった。女性はほとんど登場せず、ラブシーンは一切なし。ヤクザ映画にありがちな賭場のシーンもゼロに等しい。こう書くと単調な物語と思われてしまうかも知れないが、実際には面白い。どうしてか?
■4つの人気の理由
■人気の理由1 ゲームを観戦する気分で観られるから
氷室と田村は抗争によって相手の組織を潰したり、川谷や氷室が相手の組織のトップと親子盃を交わしたりすることで侠和会の勢力を広げていく。大阪、岐阜、名古屋、四国、東北、中部、九州、広島、沖縄、北陸……。拡大の一途だった。
侠和会内の2度の内部抗争も片付けた。手こずることもあるが、結果的には連戦連勝。まるで無敵のプレイヤーによるバトルゲーム、戦国ゲームを眺めているような気分になる。
また、氷室の男気に惚れた大物ヤクザらが次々と兄弟分になり、助けてくれるところもゲームっぽい。
■人気の理由2 氷室と田村による抗争で一般市民は迷惑をこうむらないから
抗争による死者、負傷者はヤクザかヤクザの協力者に限られている。一般市民が巻き添えを食うことはない。ここが「仁義なき戦いシリーズ」(1973年〜74年)など過去の実録路線映画や旧来のVシネマとは大きく違うところ。
そのうえ氷室と田村のターゲットとなるヤクザは仁侠界のルールを破ったり、一般市民に迷惑をかけたりした者に絞られている。2人はファンタジーの仁侠界にしか存在しないヤクザなのだ。
そもそも仁侠界の日本統一を目指す理由も「抗争をなくすため」。リアリティに乏しいものの、だから受け入れやすい。
■人気の理由3 氷室と田村が一般市民を守るから
2人はファンタジー界のヤクザなので一般市民をリアルなヤクザたちから守ってくれる。ヤクザが関係する手形パクリ、暴力金融、地面師などから市民や企業を救う。報酬が得られることもあるが、自分たちから要求することはない。
ヤクザ作品でありながら、ヒーロー作品のように仕立ててある。
■人気の理由4 ヤクザと財界、政界の関係を遠慮なく描いている
抗争で一般市民が被害を受けないところなどは現実離れしているものの、ヤクザが絡む手形パクリの方法や地面師の手口などは極めてリアル。実際の事件を想起させる。「これ、本当にフィクション?」と思わせる。
ヤクザと政治家の関わり方もまた真実味を帯びている。例えば政治家はヤクザを利用し、カジノ反対運動を抑えつけようとする。
一方、ヤクザは政治家の弱みを握ったり、巨額の献金をしたりして、その動きを牽制する。あくまでフィクションだが、テレビドラマでは描けそうにない――。
■駆け足で振り返ると…
既に50作も出ているから、興味を抱いても途中参入しにくいと考える人もいるはず。どの作品も冒頭で過去の物語のダイジェストが流れるが、ここで1作から20作までの前半を超速で振り返ってみたい。ほんのサワリだが、雰囲気は掴めるはずだ。
《氷室と田村が不良からヤクザに》
(1)氷室と田村が侠和会三上組入り。侠和会会長の権田は日本統一の目標を口にする一方、若頭の工藤雅信(白竜)に跡を継がせることを表明(2)2代目侠和会会長となった工藤は組織内の人事改革を行う。それがもとで内部抗争が勃発。一部組員が組織を出る(3)九州の至誠会会長の川端忠雄(故・梅宮辰夫さん)が抗争の仲裁に乗り出すが、収まらず、田村は対立勢力の幹部を射殺。氷室は手打ちを破った相手を射殺(4)氷室が獄中で再会した秋本と兄弟盃を交わす(5)氷室が三上組から川谷組に移る話が持ち上がる。これに怒った三上組舎弟頭で大宮組組長の大宮和也(小沢和義)が氷室と激突
《氷室が人脈を広げる》
(6)氷室が川谷組組長に。大宮を慕っていた田村は大宮組組長となり、2人は反目する(7)侠和会の大阪進攻において2人が手柄を争う形になるが、最後は和解。川谷は侠和会の若頭になる(8)岐阜で抗争勃発。糸中建設が絡む手形パクリを氷室が解決。氷室と有力政治結社・大日本礎會会長の堀井謙介(工藤俊作)が兄弟分になる(9)氷室と田村が名古屋最大の組織・重光一家の跡目問題に介入(10)2人が香川・高松に進攻
《抗争が全国に拡大》
(11)四国をほぼ制圧(12)東北に進攻(13)東北抗争激化(14)東北をほぼ制圧(15)広島の西日本睦会にそそのかされた福井の坂下組が、工藤を襲撃
《反侠和会と反氷室の動き》
(16)坂下組組長に報復(17)名古屋と岐阜をほぼ制圧(18)秋本再収監。東日本最大の組織・丸神連合会2代目会長に三田太源(菅田俊)が就く。初代は瀧島彪雄(故・津川雅彦さん)。氷室は侠和会若頭補佐に(19)熊本で氷室が西日本睦会に襲われる。危機一髪(20)西日本睦会に報復する一方、侠和会で反氷室派の工藤会も氷室を襲撃。田村が返り討ちにするーー
ヤクザが登場する実録路線映画やVシネマには意味不明なヤクザ業界用語が多用されるが、この作品は極端なまでに少ない。
登場するヤクザ業界用語はこの程度だ。「返し=報復」「座布団=ヤクザとしての地位」「めくれる=バレる」「破門=追放処分」「絶縁=永久追放処分」「若頭=組織のナンバー2、基本的には組織の次期トップ」「掃除屋=死体処理係」。あえて平易な言葉を使うことにより、広く受け入れられるようにしているのだろう。
この作品には物語以外にも見どころがある。その1つは本宮と山口のアクションだ。
37作から丸神会最高顧問・迫田常夫役で登場している中野英雄(57)は「本宮君は芸能界最強。レベルが違う」と証言している。哀川翔も「本宮は強い」としている。
なにしろ本宮は高校時代、ボクシングでオリンピックを目指していたくらい。今も私設の総合格闘技チーム「本宮塾」の塾長を務めている。作品内で見せるパンチやキックはとんでもなく速い。
山口の動作も俊敏。それも納得である。山口は千葉真一さんが主宰していた「ジャパンアクションクラブ(JAC)」のエース級の1人だったのだ。
この作品は最近激減したアクション作品としても楽しめる。それも人気の理由だろう。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。
デイリー新潮編集部
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