まだ家を出ていない人へ――― 「服装のアドバイス」を毎日発信、芸人・コットン西村の“衣装予報”に込めた熱い思い

まだ家を出ていない人へ――― 「服装のアドバイス」を毎日発信、芸人・コットン西村の“衣装予報”に込めた熱い思い

“衣装予報士”を名乗るコットン・西村さん

 お笑い芸人・コットン西村真二さん(37)が【まだ家を出ていない人へ】向けて、毎日の服装のアドバイスをするツイートがじわじわと人気を集めている。西村さん本人に、“衣装予報士”としてのツイートに込めた思いを尋ねた。


■ジャケット無くてもいけるよ


 ツッコミの西村さんとボケのきょんさん(34)からなるコットンは、NHK新人お笑い大賞優勝、キングオブコント準決勝進出などの成績を残し、コントも漫才もこなす実力派として知られる。

 そんな西村さんが“予報”を始めたきっかけは何だったのか?

「数年前、寒い日が続く中で、たまたま少し早く家を出る日があったんです。その日は、前日までと打って変わって気温が高く、着ていたジャケットが邪魔になった。鞄に入れるとぐちゃぐちゃになるし、ホテルマンみたいにずっと腕に掛けておくのもうっとうしいじゃないですか。だから、まだ家を出ていない人に『今日、意外と暖かいからジャケット無くていけるよ。シャツ1枚で大丈夫だよ』ってことを伝えたくて、ツイッターで呟いたんです。そうしたら、1000いいねくらい反響があって、みんな服装選びに困ってるんだなって。そういう経緯なんで、ツイートの最初に付けている【まだ家を出ていない人へ】っていうフレーズは、その時自然に出てきたものなんです」

 たとえば、6月1日の予報はこんな内容だ。

〈【まだ家を出てない人へ】
今日は最高28℃で夜21℃と「日中汗ばむ程の夏日」です。※昨日とは打って変わって暑いです。服は朝〜夕方の外出なら半袖で大丈夫です。夜や冷房が苦手な方は長袖シャツなど薄手の羽織ものがあると安心です。暑がりの人は1日半袖で快適にいけます。6月も僕を信じてください。〉

 本格的に“衣装予報”を始めたのは、今年3月頃からだ。特にコロナ禍になってから、ネタ動画をYouTubeやインスタグラムに投稿する芸人が増える中、西村さんは“衣装予報”をほぼ毎日ツイッターに投稿している。

「芸人のSNSの使い方が色々ある中で、僕も何か話題になるようなことをやりたくて試行錯誤してたんです。それには継続が大事なんで、普段から天気予報を見てその日の服装を決めることが習慣だった僕は、これなら無理なくやれるだろうと。あと、ちょくちょく“衣装予報”のツイートをしてると、劇場のスタッフさんから『あれが無いと服装ミスるんです』って声を聞いていたので、需要があるのも分かってました」


■面白い文章は1つも無い


“衣装予報”を始めて以降、フォロワーはほぼ倍増し、今や9万4000人を超えた。

「ちょうど季節の変わり目で、服装を選ぶのがむずい時期だったのも良かったんですかね。芸人が引用リツイートしてくれたこともあって、あれよあれよという間に拡散して、2000いいねが付いたことも。そうするうちに『スッキリ』にまで出演出来て、完全にたなぼたなんですけど、これで辞められなくなったな……と(笑)」

 益若つばさ、山之内すずなど女優やモデルだけでなく、なぜか交響楽団の演奏家など幅広い人に注目されているという“衣装予報”。

「芸人として面白い文章は1つも無くて、『キュウリはとげとげが付いてる方が新鮮ですよ』と同じレベルのただの有益な情報なんですよ。だからこそ、コットンのファンやお笑い好きだけでなく、単純に今日の服装が知りたいと思う人がフォローしてくれてるんだと思います」


■最高気温と“夜の気温”


 想定しているのは、主に東京在住のフォロワー。出かける前に参考に出来るようにと、毎朝7時30分頃に“衣装予報”をツイートしている。その準備は、7時頃から始まる。

「まず、お天気アプリを4、5個見て、気温と天気をチェックします。アプリによって予想気温が結構違って、例えば、ウェザーニュースは高め、Yahoo!天気は真ん中くらい、iPhoneに元から入っているアプリは低めに出る傾向があるんで、1つのアプリじゃだめなんです。気温が2、3℃違えば羽織1枚分違いますから、それぞれのアプリの平均値を出してます」

 最高気温1つとっても並々ならぬこだわりがあったのだ。

「もう1つこだわっているのは、夜の気温を出すところです。天気予報の最低気温は、深夜の気温が多いですが、それよりも役に立つのは、帰宅時間の夕方6時とか7時の気温じゃないですか。だから、最高気温と併せて夜の気温を確認するようにしています」

 お天気アプリだけでなく、肌感覚も“衣装予報”には重要だという。

「天気予報をチェックした後は、必ず半袖Tシャツ姿でマンションのベランダに出ます。たとえば、同じ25℃でも雨と晴れでは感じ方が違うので、自分の肌で感じることが大切。半袖Tシャツという1つの基準を作ることで、昨日との違いを感じつつ、『ここから何枚着ればちょうど良いのか』を考えることが出来るんです。ただ僕は暑がりなので、そこも考慮しなければいけません」


■140文字に込めたこだわり


 ここに来てやっとツイートの文章を考える作業に移る。

「【まだ家を出ていない人へ】で結構文字を使っちゃうんですけど、続く天気のことは僕の専門じゃないので出来るだけ簡略に。今の時期だと、急に暑くなったり寒くなったりすることも多いので、※を付けて『昨日とは打って変わって暑いです』とか『昨日までの暑さ一旦忘れてください』みたいに注意書きを付けています」

 続いて服装のアドバイスに入る。

「たとえば、半袖に羽織ものがちょうど良い気温の日だとして、同じ羽織でもより快適なのは、『薄手のカーディガン』なのか『長袖シャツ』なのか。また、その人が暑がりか寒がりかによっても違ってくるから、出来る限り詳細な表現にしています」

 微妙な表現の違いに気づいてくれる芸人もいる。

「ジップパーカなどの上着が必要と書いた時、しずるの村上純さんが引用リツイートで〈これね、“ジップ”パーカーがポイントだからね〉って書いてくれたんですけど、本当にそうなんですよ。昼間はパーカーを着るほどじゃない人もいそうだから、脱ぎ着しやすいジップアップパーカーがちょうどいい。そういうところまで全部考えて、こだわって書いてるんです」

〈僕を信じてください〉で締めくくられる“衣装予報”には、こんな心遣いが込められていたのだ。

「ここ最近、特に注意して書いてるのは『冷房対策』の部分ですね。本格的に暑くなる前の今時期って、お店の人も感覚が掴めなくて冷房の温度下げ過ぎてることが多い。しっかり暑くなると冷房の調整にも慣れてその心配も減りますけど、微妙な時期だからこそ羽織があった方が安心です」


■僕のことなんか忘れていい


 生半可な気持ちで“衣装予報”をしているわけではないと、西村さんは胸を張る。

「最近は、街の景色も違って見えるようになりました。たとえば、タンクトップ姿でさぶいぼが出てる人を見たら、『僕のツイート見てたら、寒い思いしなくて済んだのに』って思うんです。強制する気はもちろん無くて、不思議と慈悲深い気持ちになるというのが近いですかね」

“全東京人の服装の保護者になりたい”という壮大な思いも口にする。

「服装を間違って、寒がったり暑がったりしてる人が減って欲しいだけなんです。“衣装予報”を参考にしてくれる人には、家から2、3歩出れば、もう僕のことなんか忘れて仕事や学校に行ってほしい。それで夜帰ってくるときに、『あれ今日の服装、しっくりきて快適だったな』って、またちょっと僕のことを思い出してくれる。そうなれば嬉しいですよね」


■元アナウンサー芸人という肩書


 今では“衣装予報士”として知られる西村さんだが、元アナウンサーという異色の経歴を持つ芸人でもある。

「芸人になる前、3年間広島ホームテレビでアナウンサーをしていたので、それこそ天気予報の原稿とかも読んでたんですよ。正直、芸人を始めたばっかりの頃は、“元アナウンサー”って肩書がしっくり来ない時期もあったんです。思いっきりふざけてても、お客さんに『こいつ1回アナウンサーやってる奴やな』って思われると、なんか違うじゃないですか」

 昨年は「しくじり先生 俺みたいになるな!!」(テレビ朝日)の出演を機に、コンビ名をラフレクランからコットンに改名したという転機があった。そうした中、今年は芸歴10年目という区切りの年でもある。

「芸歴10年目を迎えて、最近は元アナウンサーだということも自分の中で肯定的に捉えられるようになってきたんです。“衣装予報”でみんなが知りたい情報を正確に伝えるというのも、アナウンサーの仕事に通じるものがある。僕が発信する情報を頼りにしてくれる人が多いというのも、ただの芸人ではなく“元アナウンサー芸人”だからこそだとも思います。今の僕は、ちょうどハイブリッドに出来るようになって、ガソリンでも電気でも走れる車みたいな感じです!」


■季語みたいな存在に


 さて、毎日“衣装予報”を頼りにしている人には、「いつまで続けてくれるのか」という心配もあるのではないだろうか

「衣装予報士は、野球選手と同じでシーズンオフがあるものと考えてください。毎日半袖半パンでいいくらい暑くなったら、服装に迷う人もいなくなるでしょうから、僕の役割もお休みです。西村の“衣装予報”が無くなったら『真夏になったんだな』って感じてもらえれば。シーズンオフ中も天気予報のアプリを確認する習慣は変わらないんで『今日の天気はみんな服装ミスりそう』って日があればツイートしますから、安心してください」

 それでは、再びシーズンが始まるのはいつなのか。

「次のツイートが始まるのは、ひぐらしが鳴く頃ですね。西村のツイートは、季語みたいなものと思ってください。ちなみに、秋冬は、ベランダに出る時の基準となる服がロンTになるっていう変化もあります」

 “衣装予報”の裏側には、こだわりと苦労、熱い思いがあったのだ。

「毎日やるのは大変ですよ。前日、仕事が終わるのが遅かった日は、なんとか早起きしてツイートだけして、その後もう1回寝てますから。でも、反響があることは嬉しいし、これまで絡みの無かった先輩芸人に声を掛けて貰えることも増えました。あと、僕は東京の“衣装予報”しか出来ないので、DMで『大阪の西村さんになります』『北海道は僕がやります』とか来るのが嬉しいですね。全国に西村が出来たら面白いんですけど、朝から30分みっちり使って考えるのは結構大変だし、どれだけ頑張ったところで銭にならないぞ(笑)!」

デイリー新潮編集部

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