「ナンバMG5」は「ポツンと一軒家」より上 ドラマ界はコア視聴率重視で激変の事情

「ナンバMG5」は「ポツンと一軒家」より上 ドラマ界はコア視聴率重視で激変の事情

間宮祥太朗

 テレビ朝日系「ポツンと一軒家」(日曜午後7時58分)よりフジテレビ系「ナンバMG5」(水曜午後10時)のほうが視聴率は上――。そう言ったら、大抵の人は一笑に付すはず。だが、事実である。世帯視聴率ではなく、コア視聴率(13〜49歳の個人視聴率)の話だ。民放がコア視聴率を重視していることにより、ドラマ界はいつの間にか激変している。

「ナンバMG5」だけではない。同じ水曜午後10時から放送されている「悪女(わる)〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜」(日本テレビ系)もコア視聴率は「ポツンと一軒家」より上だ。

 両ドラマにとどまらない。「ポツンと――」の世帯視聴率はプライム帯(午後7時〜同11時)の全番組の中で堂々の3位である一方、コア視聴率は同帯の多くの民放ドラマより下なのである(6月6日〜12日、ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)

「ポツンと――」がコア視聴率で上回っているドラマは中高年以上が好みそうなテレビ朝日系「警視庁・捜査1課長」(木曜午後8時)、同「特捜9」(水曜午後9時)、テレビ東京「嫌われ監察官 音無一六」(金曜午後8時)に加え、フジ「やんごとなき一族」(木曜午後10時)とTBS系「インビジブル」(金曜午後10時)。「ポツンと――」は14本のドラマに対し、5勝7敗2分だ。

 ダウンタウンの松本人志(58)が、民放はコア視聴率を重視する時代になったことをツイッターで指摘したのは昨年6月。あれから1年。現状はコア視聴率重視の体制が確固たるものになっている。

 だから若い視聴者をターゲットにしたドラマが増えた。ヤンキーたちの青春を描く「ナンバMG5」は典型例である。


■世帯とコア、驚きの違い


 個人視聴率が2020年4月に本格導入されると、スポンサーは世帯視聴率を使わなくなった。世帯視聴率は「70代1人世帯」も「40代夫婦と10代の子供1人の3人世帯」も同じ1世帯とカウントしてしまい、視聴者の実態が掴めないためだ。おまけに人口の約半分を占め、テレビをよく観る50歳以上が好む番組ほど高い数値が出てしまう。

 個人視聴率なら「何人観ていたか」が分かる。さらに年齢別、性別、立場別(世帯主、主婦)の数字も分かる。

 個人視聴率を13歳から49歳までで切り取ったのがコア視聴率。購買意欲が旺盛な現役世代であるため、この数値が高いとスポンサーが飛びつく。年齢の切り取り方がやや違う局もあるものの、切り取られているのはいずれも現役世代である。

 世帯視聴率とコア視聴率は驚くほど違う。世帯視聴率では好成績の番組が、コア視聴率は低迷することが珍しくない。

 一方、若い視聴者を狙ったドラマは、世帯視聴率は振るわないものの、コア視聴率は健闘している。

「ポツンと――」と民放のドラマの世帯視聴率、コア視聴率、個人視聴率(全体値)を比べてみたい。個人からコアの数字を引くと、50歳以上の個人視聴率が分かる。

■テレ朝系「ポツンと一軒家」

世帯15.2%、コア2.2%、個人8.8%

*

■フジ系「元彼の遺言状」

世帯8.0%、コア2.4%、個人4.4%

■同「恋なんて、本気でやってどうするの?」

世帯5.8%、コア2.2%、個人3.0%

■TBS系「持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜」

世帯7.5%、コア2.6%、個人3.9%

■テレ朝系「特捜9」

世帯10.9%、コア1.8%、個人5.8%

■フジ系「ナンバMG5」

世帯5.4%、コア2.4%、個人2.4%

■日テレ系「悪女(わる)〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜」

世帯7.0%、コア2.9%、個人3.8%

■テレ朝系「警視庁・捜査一課長」

世帯9.5%、コア1.9%、個人5.3%

■テレ朝系「未来へ10カウント」

世帯13.1%、コア3.0%、個人7.5%

■フジ系「やんごとなき一族」

世帯5.3%、コア1.9%、個人2.8%

■テレ東「嫌われ監察官 音無一六」

世帯6.5%、コア0.8%、個人3.6%

■TBS系「インビジブル」

世帯5.5%、コア1.6%、個人3.0%

■日テレ系「パンドラの果実 〜科学犯罪捜査ファイル〜」

世帯5.0%、コア2.2%、個人2.8%

■TBS系「マイファミリー」

世帯16.4%、コア7.2%、個人10.3%

■日テレ系「金田一少年の事件簿」

世帯57%、コア3.4%、個人3.3%

 テレ朝の世帯視聴率が他局より高めで、コア視聴率が低いのはコアの年齢の上限が10歳高い(13〜59歳)ことが影響している。それにしてもテレ朝のコア視聴率は低い。これが、現在は「警視庁・捜査一課長」を放送している「木曜ミステリー」を9月末に終了させる理由の1つだろう。

 一方、日テレの「パンドラの果実」と「金田一少年の事件簿」は、コア視聴率と個人視聴率がほとんど変わらない。両作品とも明らかに若い人向けだが、その狙い通りになっているということだ。


■新ドラマも若者向け


 6月末には新しい民放ドラマが始まる。町田啓太(31)が主演し、陸上自衛隊員たちの青春を描いた「テッパチ!」(フジ系)や青春群像劇にラブストーリーと復讐劇を絡めた「六本木クラス」(テレ朝系)、戦国武将のクローンたちが高校で覇権を争う異色ヤンキー作品「新・信長公記〜クラスメイトは戦国武将〜」(日テレ系)など、やっぱり若い人向けが目立つ。この流れは止まりそうない。

 民放のコア視聴率重視は一昨年から本格的に始まり、それが功を奏したこともあって、在京民放5社の2022年3月期(2021年度)決算はすべて増収増益だ。

 もっとも、それは観る側には関係のない話。このままでは50代以上の視聴者も楽しめる民放ドラマが消えてしまう可能性が高い。

 世帯視聴率の全盛期だった10年前の2012年、フジは小泉今日子(56)と中井貴一(60)の共演で大人向けのラブストーリー「最後から二番目の恋」を制作した。同じ年、TBSは外務省機密漏洩事件をモチーフにした社会派ドラマ「運命の人」を本木雅弘(56)主演で放送した。

 たが、コア視聴率重視の時代となったので、この両ドラマのような作品を再び観るのは極めて難しいだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

関連記事(外部サイト)