「呼び出し先生タナカ」に感じる何とも言えない寂しさ “パクリ疑惑”本当の問題点とは

「呼び出し先生タナカ」に感じる何とも言えない寂しさ “パクリ疑惑”本当の問題点とは

初めてMCを務める冠番組だったが…

 4月に鳴り物入りで始まったフジテレビの新番組「呼び出し先生タナカ」が苦境に立たされている。開始早々に大バッシングを浴びた上に、視聴率も伸び悩んでいるからだ。

 アンガールズの田中卓志がゴールデンタイムで初めてMCを務める冠番組ということで、始まる前から世間ではそれなりに注目されていた。

 ところが、初回が放送されると、企画内容が同局のレジェンド番組めちゃ×2イケてるッ!』の「抜き打ちテスト企画」に酷似しているということで、パクリ番組ではないかと非難の声が高まった。週刊誌でもそのような報道があり、司会の田中も直撃取材を受けた。

 また、これに関して、「めちゃイケ」のスタッフや出演者にも事前の説明がなかったのではないか、ということも問題視されている。「ナインティナインのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)では、ナインティナインの2人がこの件を取り上げて、自分たちはこの番組のことを事前に一切聞かされていなかったと語った。加藤浩次も同じような回答をしていた。

 実際には「呼び出し先生タナカ」には「めちゃイケ」のスタッフがかかわっているので、状況証拠としては「パクリ」というよりも、元の番組の企画を意図的に踏襲したものだと見るべきだろう。

 この件に関して、世間ではパクリ番組だと批判する声が多かったし、単純に番組として面白くないとか、「めちゃイケ」に比べて物足りないといった厳しい評価もあった。だが、個人的には、この問題の本質はそこではないと思う。


■全盛期のフジならば…


 本当に深刻な問題は、スタッフ側がこのようなパクリ疑惑で騒がれることを事前に予測できなかったことと、番組内でそれをネタにする遊び心がなかったことだ。

 バラエティ番組は報道番組とは違って、崇高な社会的使命を背負っているわけでもない。言ってしまえば、単なる娯楽である。だから、バラエティ番組はどれだけ本気で遊べるかが勝負だ。テレビというメディアの倫理で許される範囲内であれば、ふざけるだけふざけて、遊べるだけ遊んで、そのことで視聴者の心をつかんでいけばいい。

 この番組のスタッフにもう少しだけ健全なバランス感覚や客観的な視野があれば、こういう騒動が起こることは事前に予測できただろう。そして、予測した上で、これが「めちゃイケ」と同じ企画であることはわかっていますよ、という意思表示を番組内のどこかに入れていただろう。それさえあれば、パクリ、パクリと騒がれること自体がなかったはずだ。

 しかも、その後の対応に関しても中途半端な感じがする。騒がれていたのはある意味ではピンチだが、話題になっているという意味ではチャンスでもある。このチャンスをどう生かしてネタにしていくか、というのが本来ならバラエティ制作者の腕の見せどころのはずだ。

 しかし、そこに決定的な何かがなかった。何事もなかったかのように番組は淡々と進んでいる。そこに何とも言えない寂しさを感じる。80〜90年代の全盛期のフジテレビならば、こういう問題はすかさず自分からネタにしていたはずだ。どんな内部事情があるのかはわからないが、それができなかったということが一視聴者としては残念である。

 もちろんMCの田中に非はない。本人は週刊誌から直撃取材を受けて、誠実にコメントを返していたし、ラジオ番組でもこの件について前向きな発言をしている。

 そして、番組スタッフを責めたいわけではない。「コア視聴率」を獲得するための若者向けの番組として丁寧に作られているのは間違いないし、キャスティングにもここから新しい若いスターを発掘したいという意図を感じる。

 ただ、出演者の「おバカ回答」を笑って楽しむという番組の核心部分は変わっていないし、そこに目新しさが感じられないというのは事実である。もともとゴールデンタイムのMCとして田中を起用するということ自体が、テレビ業界では画期的なチャレンジだったはずだ。今後も新しいことに挑み続ける番組であってほしい。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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