ロシア侵攻下の生活を“ほのぼの”描く「4コマ漫画」 作者のウクライナ人高校生に聞く「出版までの道」

朝のニュース『ウクライナのあかりちゃん』(ライブコミックス)より

 ニュースを見ているだけでは伝わらないウクライナの“普通の人”の暮らしをほのぼのとしたタッチの4コマ漫画で描く漫画家がいる。ウクライナ在住の高校生ながら、日本で電子コミック『ウクライナのあかりちゃん』(ライブコミックス)を先月出版した漫画家のAkari Sayaka(アカリ・サヤカ)さんである。


■日本の編集者にダイレクトメッセージ


 ウクライナに住むアカリさんは、もともと日本の漫画のファンだった。アカリさんは日本語を話せないため、以下のやりとりは出版社を介して行ったものだ。

「小さい頃から、アニメの『ポケモン』を見ていました。11歳くらいのときに観た『PandoraHearts(パンドラハーツ)』(スクウェア・エニックス)というアニメの続きが気になって、原作を手に取ったのが漫画との出会いです。細部に至るまで鮮明に描かれたイラスト表現に感動しました。キャラクターの感情が伝わってきて、自分がまるでその物語の一部であるかのようにも感じました。その後、少年漫画を読むようになり、そのダイナミックさと感情表現に触れて、もっと読みたい! と思うようになりました。1番好きな漫画は『チェンソーマン』(集英社)と『DEATH NOTE(デスノート)』(集英社)です」

 現在、16歳で現役の高校生でもあるアカリさん。遠く離れた日本でのコミック出版にどうやってこぎ着けたのか。

「漫画を描いてみようと思ったのは、12歳の時でした。キャラクターを紙に描いてみたけど正直言って全然ダメでした。その後は、スマホを使って指で絵を描くようになり、もっと上手に描けるようになりたいし、ゆくゆくはプロの漫画家になりたいとも思っていましたが、今のままでは難しいとも感じていました。それで、インターネット上でアドバイスを探していた時に、日本の漫画投稿サイトを見つけました」

 昨年8月、アカリさんはそのサイトに登録していたライブコミックスの編集者にSNSを通じてメッセージを出したことから、漫画家としての一歩を踏み出した。

「ライブコミックスのある編集者のページに『初心者の漫画家を探して、応援している』というコメントがあり、『これはチャンスだ!』と思ったんです。その編集者のTwitterアカウントも書いてあったので、私はすぐにTwitterのアプリをダウンロードして、『私が描いた作品をどう思いますか?』とダイレクトメッセージを送ってみました。返事が来たときは、本当に嬉しかったです!その日、私は友人と会っていたのですが、その間も返信をずっと心待ちにしていました。この日以来、編集者さんのTwitterのメッセージアイコンを見ると、幸せな気持ちになることが多くなりました」

『ウクライナのあかりちゃん』(ライブコミックス)より

■空襲警報が鳴ったらすぐ避難


 さて、少し不思議な響きのペンネーム「Akari Sayaka(アカリ・サヤカ)」の由来は何なのだろうか。

「アカリは私が描いた漫画のキャラクターの名前だったのですが、ペンネームにしたら響きがいいだろうと思ったんです。日本語で明かりは光を意味する言葉ということは知っていたので、アカリに合うセカンドネームを考えていました。その中で『明るい』を意味する『Sayaka(明か・さやか)』という言葉を見つけて、ペンネームを『Akari Sayaka(明るい光)』にしました」

 そうして、編集者の助言のもと「Akari Sayaka」としてTwitterに4コマ漫画を投稿し始めた矢先、ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、生活は一変した。アカリさんの何気ない日常を描いた漫画は、そのまま侵攻下にあるウクライナ市民の生活を描いた漫画になったわけだ。

『ウクライナのあかりちゃん』の中でほのぼのとしたタッチで描かれているのは、たとえばこんな4コマ漫画だ。

 朝、アカリさんが歯磨きしながらくつろいでいると、〈空襲警報! 最寄りのシェルターに避難してください!〉とのニュースが。避難し始めると〈お帰りください 危機は去りました〉とのアナウンス。帰宅してくつろいでいると、今度は〈あ! 間違いです シェルターに戻ってください〉。それに対してアカリさんは〈朝ごはんたべさせて!!〉とツッコミを入れる。


■幸せな気持ちになれる漫画を描きたい


 アカリさんが住むのは、ザポリージャ市。3月にロシア軍によって攻撃を受けたザポリージャ原発がある南東部の大きな地方都市である。今のところ国外などに避難する予定はないそうだ。

「平日は、朝8時から午後3時まで学校の授業を受けています。もし授業中に警報が鳴ったら、授業を中断して警報が鳴りやむのを待ちます。授業が終わった後や時間があるときは、アニメを見たり漫画を読んだり描いたり……。警報がなければ、お母さんと一緒にスーパーにおいしいものを買いに行ったり、家の近くの公園を散歩したりすることもあります。4コマ漫画は、夕方、1日おきに2ページずつ描いたりしています。日常の出来事などから題材を考えることが多いのですが、家にいると面白い出来事があまりないので、題材選びに困ることもあります。永遠の課題ですね」

 遠く離れた日本の読者に漫画を通して伝えたいことを尋ねると、アカリさんは前向きにこう答えてくれた。

「『読んでいる人が幸せな気持ちになれるような作品にしたい』と思いながら、いつも4コマ漫画を描いています。4コマのようなカジュアルなスタイルは、読者がちょっと幸せな気持ちになれると思いますし、『私がどれだけ漫画を描くことが好きか』が皆さんにも伝わると思っています。ウクライナでもアニメや漫画は普及しているので、私が漫画を読み始めた時に感じたように、『漫画が世界中の人々の心の支えになり、感動を与えてくれるもの』だということを伝えたいと思っています」

 今後は新たなジャンルにも挑戦したいそうだ。

「普通の世界ではなく、非日常的な世界を感情豊かにそしてダイナミックに描きたいです。魔法生物や悪魔、神秘的な出来事やパワーなど、ファンタジーな要素が盛り込まれた作品に挑戦するのが目標です」

 電子コミック『ウクライナのあかりちゃん』の価格は100円(税別)で、諸経費を除いた売上はウクライナへの支援として国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に寄付される。

デイリー新潮編集部

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