『一発屋芸人列伝』大ヒットの山田ルイ53世「ビジネス自虐疑惑」を晴らす

 貴族のコスチュームに身を包み、「ルネッサーンス!」と叫んで登場。ことあるごとに、「○○か〜い!」とワイングラスで乾杯する漫才で一世を風靡した髭男爵のツッコミ担当、山田ルイ53世。

 大ブレイクから10年、自ら「一発屋」を名乗り、「長すぎる余生を過ごしてる気分」という日常をコミカルにつづったエッセイ『一発屋芸人の不本意な日常』と、あたためている次の「一発」について話を聞いた。

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■その厳しい目を自分自身の人生に向ける勇気があるか?


 ヤフートップニュースを幾度も賑わせたwithnewsの大人気連載が遂に一冊にまとまった。

 そのタイトル通り不本意なエピソードが満載で、どこまでも自虐ネタが続くのだが、あまりに面白く、何度も爆笑できる。だが不本意と言うからには、本来「望んでいないこと」のはず。

 それを「笑える自虐」に昇華するコツとはなんなのか。

「一般社会での自虐というのは、『そんなことないですよ〜!』といったフォローとセットになっていることが多いですよね。

『わたしモテないから〜』、『そんなことないでしょ〜!?』とか。

 自虐の主体が実際にモテるかモテないかは関係なく、ほとんどの場合発動するこの『そんなことない』が色々な意味で、お互いにとって心のセーフティーネットになっている。

 社交辞令、優しさ、いやむしろ無関心……それをどう呼ぶかはさておき、放置という選択肢は基本ないわけです。

 自虐エピソードを浴びせられたときの受け手の対処法って、一般にはそれくらいしかない。

 つまり、人は自虐が苦手なんです。

 しかも、一発屋の自虐は苦い。

 それは人生そのものの負けや失敗を含んでいるから。

 地方営業でワイングラスに石を投げられたり、ゴミにサインを書く羽目になったり。

 たまにキー局での収録に出向けば警備員に止められ中に通してもらえないとか、『一発屋芸人』という立場に陥ると、不特定多数のよく分からない人達に、無条件かつナチュラルに見下される。嫌な言い方をすれば、舐められる(笑)。

『そんなことないでしょ〜!?』なんて、セーフティーネットどころか、“金魚すくいのポイ”ほどの役にも立たないんです。

 何も救ってくれません(笑)。

 そういうことで笑いを取るのは、本来非常に難しい。

 でも、我々は自分の負けや失敗をキッチリ受け入れているというか、飲み込んでいる。

 それが大事なのかなと思います。

 面白いのは大前提として、そういう姿勢を相手に見せることで、「これ、食べれますよ〜!おいしいよ〜!」と安心して笑っていいんだと信じさせる。

 これはめちゃくちゃ難しいことだけど、一発屋は自虐のプロアスリートですから(笑)」

 とはいえ本書では、ただただ不本意なことを並べているつもりはない。
 
「面白おかしく書くのは勿論、『SNSなどで、一発屋のみならず他者に向けて何かと匿名の悪意を発信している“ごく一部の方々”の滑稽さを浮き彫りにする』というのが一冊通しての裏テーマです。

 ある種の私怨が原稿執筆のモチベーションの一つになっていたことは事実ですが、格好よく言うと、この本が、ネットリテラシーの問題に一石投じるものになれば良いなと。

 本にも書いた、『はたして君達は、我々に向けるその根拠・実績のない上から目線……厳しい目を、自分自身の人生に向ける勇気があるのか?』という言葉に集約されてますね。

  自分には全く関係ない人や物事に、異常な熱をもってSNS上で罵詈雑言を浴びせるような人達に、少しでも赤面していただければ(笑)」

 前作『一発屋芸人列伝』は、他の一発屋芸人を取材しまとめた作品だが、今回はすべて自分の話。執筆の苦労も違ったという。

「技術的には『一発屋芸人列伝』のほうが格段に難しかったと思います。インタビューをしたり、過去の資料を読み込んだり、共演したときのVTRを何度も見直したりした上で書くというのは大変でした。

 人様のことを書くわけですから、失礼があってはいけない。だけど、変に誉めちぎるのも違う。特に相手も芸人なので距離の取り方に神経をすり減らしましたね。

 距離感という点では、『不本意な日常』は、自分のことなので距離0です。

 まあ、これはこれでしんどい(笑)

 自分が周囲にどう思われているかとか、仕事や私生活の現状、人生の現状を直視する苦しさから、書いてて凹むこともありました。

 さじ加減がねぇ……なので、とにかく実際のエピソードに引き寄せて書くように心掛けました」

■テレビタレントとして圧倒的に負けた


 自虐エピソード満載な毎日とはいいつつ、家に帰れば素敵な奥さんとかわいい娘さんがいる山田さん。仕事面でも、前作『一発屋芸人列伝』は編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞を受賞、本屋大賞ノンフィクション本大賞にもノミネートされ話題に。

 そう考えると、こんなに不本意なエピソード満載の日々であるはずがない!という気もしてくるが、実はリア充だったりしませんか?

「ビジネス自虐だと!?(爆笑) そりゃねぇ、もちろん不本意なことばっかりじゃないですよ。本意な事だってたまにはあります。娘と遊んでるときなんかはリア充ということなんでしょうけど。でもねぇ、テレビタレントとして決定的に売れてない!! これは大きい。やっぱり、僕ら世代の芸人にとって、成功の尺度は今なおテレビにどれだけ出てるかっていうこと。

 これはもうしょうがないんです。

 このあいだ世界のナベアツとして大ブレイクしたあとに落語家に転身した先輩芸人の桂三度さんにお話を伺う機会があったのですが、落語家という道を選んだけれども、もちろんテレビにはめっちゃ出たい、それが一番だと断言されていた。

 潔いし、格好良い。僕もそう思う。

 一時は毎日のようにテレビに出てたのに今は……と考えると、やはり僕はテレビタレントとして圧倒的に負けた。今現在も、その点では負け続けているんだと思ってますね。

 本を出せたり、誰かしらに、また書いてくださいよと言ってもらえる現状は凄く嬉しい。でも、それとテレビ云々とはまた別の話です。

 勿論、今の時代はテレビ以外にもYouTubeとか活躍の場はいっぱいある。

 でもかつて、テレビテレビと血眼になっていた人間として、シラーっと『そういう時代じゃない』と嘯くのは僕的には気色が悪い。負けは負け。それでいいと思ってます。

 負けだと感じないことが幸せだとは思わない」

 浮き沈みの激しい山田さんの人生をグラフで表現すると…。

「もう自ら潜ってた時期もありましたからね〜。子供の頃、中学受験に成功したあたりまでは高め安定。で引きこもりになって地下に潜る(詳しくは『ひきこもり漂流記』角川文庫、参照)。2008年に「髭男爵」としてブレイクしたのが、仕事人としてはやっぱり頂点かな。

 2009年の夏くらいから仕事が減ってきて、ぐ〜んと下がって、まぁここ何年かはたまにいいこともあるけど。娘も授かりましたし。これが人生の頂点かもしれません。

 今は富士山の5合目より下くらいでしょうか」

 あと半分以上、なにかで埋めないとピーク時に戻れないじゃないですか!

「いや、もう今はそんなに高いところまで登らなくてもいいと思ってます。登ったら登ったで酸素薄くて、しんどいことも知ってるんで。

 それにもう絶対富士山頂には立てないっていう自覚もある。

 そもそも、あれは高尾山だった気もするし。

 40何年生きてきて、自分の才能の天井を把握できてないっていう方がマズイんじゃないでしょうか。

 その点、僕はもう正確に分かっている。

 なので、たまに誰かが僕に何かして欲しいと頼んでくる、今くらいの感じがいい」

 ピークを経験した山田さんだからこそ、たどり着いた境地なのかもしれない。


■もう娘もね、存在はかぎつけてるんです


 山田さんだけでなく、誰の日常にも起こる「不本意なこと」。「やっぱりだめか」と落ち込むようなことが起こっても、それを楽しむ秘訣があるとか。

「不本意な状況に置かれた時は、それを笑えるようにネタ化出来るのが一番いい。

 それが無理ならミュートする。全てを薄目で見る(笑)。しんどかったら嫌なこと不本意なことには目を背けていいし、逃げていい。というかそうするのが結局一番いい気がする。

 本にも書きましたが、僕の人生は「やっぱりダメか」の連続。

 でも、『だめか〜……』と思えるということは、『一応何かはした』ということだし、『やっぱりダメか』じゃなくなるときが来るかもしれない。

 まあ、それを楽しみに生きるのも悪くない。来ないまま死ぬかもしれませんが(笑)

 無責任ですが、自分を諦めてあげるというのは大事です。

 なりたい自分になれなかったけど、生きていいし、生きていくべきだろうなと思う。

 何も人生のハードルを無理して自ら上げる必要も義務も我々にはない」

 そんな山田さんにも実は悩みが。今年小学校に上がる娘さんに自身の職業を内緒にしているのだ。「いつの日か娘さんに『あんたルネッサンスやろ!』と突っ込まれたらどうするんですか?」なんて意地の悪い質問をしたら、いつも歯切れのよい山田さんが急にしどろもどろに。

「それはねぇ。どうすればいいんですかねぇ(笑)。もう娘もね、存在はかぎつけてるんです、僕が否定してるだけで。去年娘も大好きでずっと観ているアニメ『プリキュアシリーズ』の声優をやらせてもらった。あのときに言えれば良かったんですけど。あれチャンスだったんですけどねぇ。ずっと嘘ついてるっていうのも、子供の人格形成に良くないような気もしますしね……。

 なんというか『一発屋である』という苦い価値観を娘に説明する、理解させるっていうのがねぇ、心苦しい。そこで二の足を踏んでしまう。う〜ん、だから……小4くらいかなぁ。遅くとも中学に上がる前にはね……」

 隣で話を聞いていたマネージャー氏が「そのときまでに、文学賞でもとればいいじゃないですか」なんて無責任なことを言い出したが、実は本人にも新たなる分野での野望があるらしい。

「いや、まず“でも”が失礼! 怒られるわ!! まあ、真面目に言うと、今年は小説は書こうかなと思ってます。一度失敗した中年世代が頑張るような、おじさんが元気になれるような話が書ければいいなぁと。もう完全に、池井戸潤さんの世界観ですが(笑)。

 タレントとしては、『野望は直木賞です!』とか威勢よく言うべきなんでしょうが、僕の人生にはそういう本意な出来事は起こりそうにないですね〜……。

 まあ、『なにか書いてくれませんか』って編集者の方が言ってくれてるうちに頑張ります。でないと、またいつ『消えた』、『死んだ』と言われるか分からないですから(笑)」 

デイリー新潮編集部

2019年3月8日 掲載

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