相棒、トレース、メゾポリ…視聴率だけではわからない「刑事ドラマ」本当の評価を分析

 いつになく1月クールは刑事ドラマが多かった。

 定番の水谷豊(66歳)主演「相棒」(テレビ朝日系)をはじめ、沢村一樹(51)「刑事ゼロ」(同)、北大路欣也(76)「記憶捜査〜新宿東署事件ファイル〜」(テレビ東京系)、錦戸亮(34)「トレース〜科捜研の男〜」(フジテレビ系)、高畑充希(27)「メゾン・ド・ポリス」(TBS系)と5本もあった。

 といっても18年度は、春から秋クールまで4本ずつ刑事モノがあったので、テレビの中では年がら年中、たくさんの人が殺されている。それに1月クールでは、弁護士モノも3本あったためか、画面の中ではやたらと事件や争いが起こっていた印象だ。

 で、肝心の視聴者の反応だが、視聴データでは、個人視聴率・集中度・満足度といった三拍子の揃う作品がなかった。数が多すぎて、刑事ドラマ市場はレッドオーシャンの様相を呈しているようだ。何が問題なのか、データで検証してみた。

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■個人視聴率での明暗


 まず5本の刑事ドラマを、男女年層別の視聴率で比べてみよう。

「相棒」の世帯視聴率は、秋冬の2クール平均が15.3%と、今期全ドラマの中で断トツだった。ところが関東2千世帯5千人超の視聴率を調べているスイッチ・メディア・ラボによれば、荒稼ぎしているのは男女65歳以上の高齢者で、49歳以下ではさほど見られていない(図1)。広告主から見れば、世帯視聴率の割にCM出稿したいと思わせるような番組になっていない。

 テレビ朝日はGP帯(夜7〜11時)に週3本ドラマ枠を持つ。うち2枠は刑事モノやミステリーと事件モノと決まっている。今クールは「相棒」と「刑事ゼロ」だったが、沢村一樹と瀧本美織コンビが活躍した「刑事ゼロ」も、世帯視聴率こそ11.3%と、刑事モノ5ドラマの中では「相棒」に次いで好調だった。

 ところが数字を稼いだのは、やはり男女65歳以上の高齢者。男女とも50〜64歳では4位に後退し、49歳以下に至ってはあまり見られていない。世帯視聴率も性年齢別個人視聴率も、いわば「相棒」が小ぶりになった格好で、やはり広告主からするとあまり魅力的に映らない。

 主人公を76歳の北大路欣也が務めた「記憶捜査」だと、レーダーチャートはさらに極端になった。男女65歳以上は3位でまずまず。ところが50〜64歳では2〜3%台、35〜49歳は1%台、10〜20歳代では1%以下で、いずれの層も最下位だった。

 一方「トレース」「メゾン・ド・ポリス」のレーダーチャートは、共にバランスが良い。世帯視聴率で2桁を維持し、しかも若年層から高齢層まで、まんべんなく見られた。特に錦戸亮と新木優子のコンビが際立った「トレース」は、男女とも49歳以下の全層でトップだった。広告主にとって、最も魅力的な枠となった。

■ドラマへの集中度


 ただし各回を直近3話と併せて、4話連続で見ていた人の数で見ると、年齢層のバランスとは異なる風景が見えてくる。

“欠かさず見る”タイプの視聴者が最も多いのは「相棒」だ。ネットにつながる関東地区約30万台のテレビの視聴実態をしらべるインテージ「Media Gauge」によれば、2〜3月では毎話6千人ほどが「相棒」にハマっていた。他4ドラマを圧倒している(図2)。

 同ドラマは1話完結型だ。このタイプは途中を見逃しても、話がわからなくならないので、安定した視聴率につながりやすい。今や1話完結型の連続ドラマが大半となっているゆえんだ。

 その代わり視聴者も、ドラマへの執着が強くなりにくい。「暇だったら見よう」程度のスタンスとなってしまうのが欠点だ。

 それでも「相棒」の場合、多くの視聴者がハマっていたのはさすがだった。ただし男女年層別データで見た通り、65歳以上の高齢者が大半だった。しかも、そんな視聴者が回を追って増えていない。視聴者層が固定的になってしまっているのだろう。

 一方「トレース」は、“集中”視聴者が回を追うごとに増えた。若年層が徐々にハマって行ったと推測される。設定およびストーリー展開が、若者向けとして成功していたのかも知れない。

 逆に「メゾン・ド・ポリス」では、課題が顕在化した。“集中”視聴者が次第に減ってしまったのである。多くの人を熱中させるほどの吸引力に欠ける物語だったと言わざるを得ない。

■ドラマの満足度


「メゾン・ド・ポリス」の課題は、エイト社「テレビ視聴しつ」の視聴満足度調査でも裏付けられる。ドラマ序盤の1月と、中盤から後半に入った2月に、実際にドラマを視聴した人々に、5段階評価で満足度を聞いたものである。一般的には連続ドラマでは、中後半に進むほど満足度は高まる傾向にある。満足度を低く付けた人は見なくなるからで、『相棒』などの他4本が上昇している通りだ(図3)。

 ところが「メゾン・ド・ポリス」だけ、わずかだが評価が低くなってしまった。当初は退職刑事のシェアハウスという設定や、新人の女性刑事がおっさんたちと協力して事件を解決する展開など、新しい切り口を評価する声も少なくなかった。ところが回を追うごとに、否定的な意見が増えてしまったのだ。

「毎週見たいと思うほどではない」女19歳・満足度3

「高畑さんが出ているので見ているが、あまり中身のないドラマ」男66歳・満足度3

「少し飽きてきた」女61歳・満足度2

「主役の過去に絡ませるいつものパターン」女67歳・満足度3

「気楽に見れるが物足りない」男47歳・満足度2

 刑事モノがたくさん放送されているためか、他の刑事モノと比較する目の肥えた視聴者が少なくない。

 また「トレース」も、序盤も中盤も満足度が低いままだった。「科捜研の女」に似せた設定や2時間ドラマにありがちな要素に対して、厳しい意見が目立った。

「船越の昼ドラ芝居が悪い意味で耳に残ってしまう」女30歳・満足度2

「古い」男31歳・満足度3

「ドラマ特有のとんでも展開が無理やりすぎて微妙」女23歳・満足度3

「アンナチュラルのフォロワー感が否めない」男19歳・満足度4

「ストーリーに斬新さがない」女21歳・満足度3

 以上のように世帯視聴率2桁、若年層も多い、しかもハマる視聴者が回を追うごとに増えていたにもかかわらず、「トレース」には厳しい声が多数寄せられ、満足度も低いままとなった。

 やはり刑事ドラマは、多くの作品がしのぎを削るレッドオーシャンのようだ。確かに刑事ドラマは、殺人など非日常という刺激、犯人は誰かという謎解き、どう犯人を追い詰めるかという知的好奇心、犯人がなぜ犯行に至ったのかという下司な勘ぐりなどの要素があり、視聴率を稼ぎやすい。ただし見たことのあるような設定・ストーリー展開など、過去の刑事ドラマと似たものになりやすく、新鮮さや感動に欠けがちだ。

 逆に刑事ドラマで大ヒットした作品を振り返ると、レッドオーシャンで傑出するための共通点が見えてくる。

 1997年に第1シリーズが放送され、その後スペシャルや映画などが何本も製作された「踊る大捜査線」が典型例だろう。アンチ「太陽にほえろ!」の発想で、刑事をニックネームで呼ばない、聞き込みシーンで音楽を流さない、犯人に感情移入しないなどの禁じ手を設けて作られたという。結果的に警察といえどもサラリーマン組織という新しさで、多くの視聴者を虜にした。

 最近では、去年冬クールの「アンナチュラル」がある。「日本における不自然死の8割以上は、解剖されずに適当な死因を付けられている」という実態からスタートする切り口は斬新だった。しかも死体解剖の直後に、石原さとみと市川実日子が冗談を言い合う女子トークが展開されるという意外性もあった。

「アンナチュラル」の満足度調査では、高い評価を付けた人の意見に「今までにない」「意外な展開」などが目立った。「踊る大捜査線」と同じように、新たな地平を切り拓いた努力に視聴者は高い評価を与えたようだ。

 過去の類似作に「より掘り下げた」「付加価値を付けた」「人気俳優を起用した」程度では、仮に視聴率をそこそこ獲り、若年層を取り込めたとしても、大化けとはいかないようだ。

 これまでに類似作が多いだけに、「今までにない」「意外な展開」を捻出するのは容易でないだろう。それでも、その難問をクリアした作品だけが、バランス良く視聴者からの評価を得る。

 レッドオーシャンから、ぶっちぎりの話題作が登場するのを期待したい。

鈴木祐司(次世代メディア研究所代表、メディア・アナリスト)
1982年にNHK入局。主にドキュメンタリー番組の制作を担当。2003年より解説委員(専門分野はIT・デジタル)。編成局に移ると、大河などドラマのダイジェスト「5分でわかる〜」を業界に先駆けて実施したほか、各種番組のミニ動画をネット配信し視聴率UPに取り組んだ。2014年独立、次世代メディア研究所代表・メディアアナリストとして活動。

週刊新潮WEB取材班

2019年3月28日 掲載

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