窪田正孝「ラジエーションハウス」は好調でも、フジ「月9」がいまだに抱える問題点

 今クールのフジテレビ“月9”(月曜・21時〜)枠は、窪田正孝主演「ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜」が絶好調。このところの世帯視聴率も二桁続きで、“月9”復調と評価する声が増えている。

 確かに去年冬クール「海月姫」までは、6%台まで落ちることが多かった。その数字と比べると格段に伸びている。ところが年層別の個人視聴率を精査すると、残念ながら復調とは言えない状況が見えてくる。

 何が課題か、追ってみた。

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■世帯視聴率復調!?


 17冬から18年冬の“月9”は、「突然ですが、明日結婚します」(西内まりあ主演・17年冬)、「民衆の敵」(篠原涼子主演・17年秋)、「海月姫」(芳根京子主演・18年冬)などで6%台を続発し、低迷の極みにあった。

 それでも15〜16年頃は、「ようこそ、わが家へ」(相葉雅紀主演・15年春)、「恋仲」(福士蒼汰主演・15年夏)、「5→9〜私に恋したお坊さん〜」(石原さとみ&山下智久主演・15年秋)、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(有村架純&高良健吾主演・16年冬)の4本が、世帯視聴率の平均で11.2%と堅調だった。

 この世帯視聴率では、「コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-3rd season」(山下智久主演・17年夏)だけが14.8%と例外的に高いが、これを除くと16年春から18年冬まで一桁に低迷し続けた。しかも上記3本が6%台と、“月9”史上最悪の時期を迎えていた。

 ところが「絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜」(沢村一樹主演・18年夏)、「SUITS/スーツ」(織田裕二主演・18年秋)、「トレース〜科捜研の男〜」(錦戸亮主演・19年冬)、「ラジエーションハウス」と二桁が続いている。今のところ平均は11%ある。世帯視聴率では、ほぼ15〜16年の水準に戻した格好だ。ただし年層別個人視聴率で精査すると、“月9”は復調したと言いきれない状況が見えてくる。

■年層別個人視聴率の真実


 世帯で11.2%だった15〜16年の4本。FT(女性13〜19歳)の平均個人視聴率は5.0%だった。ところがその後、2〜3%台が続発し、世帯が復調したこの1年も3.5%に留まっている。

 かつてフジ“月9”はF1(女性20〜34歳)で圧倒的な強さを誇っていた。この層で見ても、15〜16年の4本は5.1%だったが、その後やはり2〜3%台に低迷し、この1年はやや戻したが平均4.1%止まりとなっている。

 F2(女35〜49歳)でも、15〜16年の6.2%は、2〜3%台を経て、この1年は5.4%までしか戻していない。世帯視聴率は15〜16年の水準に戻したにも関わらず、若年層では十分戻っていないのが実態だ。

 では、世帯視聴率復調の主役は誰か。実は50歳以上の中高年である。

 F3−(女性50〜64歳)では、8.1%が9.7%と3年前を1.6%上回った。F3+(女65歳以上)に至っては、3.6%が7.7%と2倍以上に伸びている。飛躍的に上昇した高齢層で、“月9”の世帯視聴率は元気を取り戻していたのである。

「絶対零度」は刑事モノ、「SUITS/スーツ」は弁護士モノ、「トレース」は刑事&医療モノ、そして「ラジエーションハウス」は医療モノだ。つまり“月9”のこの1年は、高視聴率ドラマ路線を選択し、世帯視聴率を確保していた。いわば「相棒」「科捜研の女」「ドクターX」などで高視聴率を稼ぐテレ朝路線に近づいていた。

ただしこの方式では、中高年に見てもらい世帯視聴率を稼げても、若年層は簡単には惹き付けられないのである。


■「ラジハ」に見る新たな可能性


 ただしこの1年の4本では、今クールの「ラジハ」に新たな可能性を感じる。大枠は医療モノとなるが、同ジャンルを得意とするフジの創意工夫が見られる。また同局得意の恋愛要素を巧妙に塗してある点が面白い。

「テレビ視聴しつ」(eight社)の満足度調査によると、4月度の満足度は3.80と4月スタートの民放プライム帯放送のドラマは、「科捜研の女」と並ぶ同率3位の高位置につけている。

 視聴者の感想に、好調の理由が垣間見える。

「手術で人を助けるヒーロー的なドラマには飽きたので、放射線科は初めてで目新しい」(57歳女性)

「レントゲン技師の仕事にとても興味を持った」(28歳男性)

「放射線科の裏側が見れて面白い!」(21歳女性)

「放射線技師をメインにしたものが初めてなので面白かった」(18歳男性)

 医療ドラマと言えば「ドクターX」など“外科医”の活躍を描く作品が多い。ところが「ラジハ」は、放射線技師が主人公という設定が視聴者から好評を得ている。しかも医療ドラマの見せ場と言っていい血が出る手術シーンがない点が、これまで医療ドラマを敬遠していた視聴者を新たに取り込んでいるようだ。

「医療系のドラマは苦手だったのですが、グロくないので見れます」(14歳女性)

 フジと言えば医療ドラマという「テレビ視聴しつ」の大石庸平室長は、同ドラマを次のように評価する。

「昨年放送の山崎賢人主演『グッドドクター』は満足度4.38(クール平均)と、年間トップの高満足度を記録した。2017年に第3シリーズが放送され、昨年公開された劇場版で18年の実写映画ナンバー1の大ヒットとなった『コード・ブルー−ドクターヘリ緊急救命−』も、好業績を残した。他にも『振り返ればやつがいる』(1993年)、『ナースのお仕事』(96〜2014年)、『白い巨塔』(03年)、『救命病棟24時』(99〜13年)、『Dr.コトー診療所』(03〜06年)、『医龍』(06〜14年)と、フジテレビが手掛けた医療ドラマには平成を代表する名作ばかり。しかも今作は、『ショムニ』や『HERO』などを手掛けた鈴木雅之監督が演出を務めており、個性豊かなキャラクターたちの群像劇としてのエッセンスも加わり、令和最初のフジ医療ドラマの名作になるでしょう」

 確かに「ラジハ」は、中盤以降に盛り上がっている。世帯視聴率が4話で一旦一桁となったが、5話以降は二桁を取り戻し、特に6話は13.2%とシリーズ最高を記録した。

 F3+の個人視聴率は下降傾向にあるが、ドラマにうるさいF3−は尻上がり。さらにF1など若年層も中盤以降で高くなっている点に希望を感じる。

 5話では、威能(丸山智己)が遺体の死因究明を重視する姿勢に焦点が当てられた。6話では、杏(本田翼)にとっての初めてのIVR手術を、ラジハの技師全員がサポートする様子が描かれた。そして7話では、初めて一人で当直した裕乃(広瀬アリス)を、的確にサポートした軒下(浜野健太)の意外な一面が描写された。

 ラジハのチームワークや、個々人の恋愛感情が絶妙なバランスで表現されている。若年層やドラマ好きのスイートスポットに届き始めているようだ。

 恋愛モノがかつてのような支持を集めなくなったように見える“月9”。この1年は、ドラマの定石で世帯視聴率を取り戻しつつある。加えて「ラジハ」では、強力な大枠に人間関係の妙を絡ませることで、若年層にも支持を広げるきっかけをつかみ始めたかも知れない。

 こうした試行錯誤を経て、かつてのような元気が“月9”が戻ってくることを期待したい。

鈴木祐司(次世代メディア研究所代表、メディア・アナリスト)
1982年にNHK入局。主にドキュメンタリー番組の制作を担当。2003年より解説委員(専門分野はIT・デジタル)。編成局に移ると、大河などドラマのダイジェスト「5分でわかる〜」を業界に先駆けて実施したほか、各種番組のミニ動画をネット配信し視聴率UPに取り組んだ。2014年独立、次世代メディア研究所代表・メディアアナリストとして活動。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年5月27日 掲載

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