育児の悩みって、実は家族由来が多いのかもしれない「坂の途中の家」

 4月からちょこっとテレビに出ている。夕方のニュース番組のエンタメコーナーだが、全国放送ではない。ここ数年、お台場の日雇い労働者として呼ばれるのはありがたい。が、それを観た母は内容には一切触れず、「ひっつめ髪はババ臭い」だの「黒い服ばかり」だのと私の外見のダメ出ししかしない。母という生き物の鬱陶しさに舌打ち百万回だ。

 幸いなことに、義母は人間ができていて、無神経なことは言わないし、カタギじゃない謎の嫁を放置&理解してくれている(と思う)。母がWでしんどかったら発狂するだろうなぁと思いを寄せたのが、WOWOWのドラマ「坂の途中の家」だ。

 主演は柴咲コウ。夫と幼い娘と郊外に住む専業主婦だが、裁判員裁判の補充裁判員に選ばれてから、生活が一変してしまう。生後8カ月の娘を虐待死させた水野美紀の裁判だが、検察側と弁護側の主張が真逆という、裁判員泣かせの案件だ。

 検察側が主張するのは「水野は夫(眞島秀和)よりも収入が高く、ブランド志向のいけ好かない高慢な女で、不妊治療の末、生まれた娘にもまったく愛情を抱かず、虐待を繰り返した鬼畜母」像だ。夫の眞島や義母の倍賞美津子は法廷で、水野が子育てに向かない女という証言を重ねていく。しかも倍賞は証言台から徹底的に水野を詰(なじ)る。実母の長谷川稀世は世間体を重視する世代で、水野から避けられており、孫に会ったこともなかったと嘆く。こうして水野の印象を「愛情の乏しい冷酷無比な女」へと導く。世間の反応も同様だ。

 ところが、だ。柴咲は、水野と自分の境遇が似ていると感じて、我が身を重ね合わせてしまう。悪魔のようにぐずる娘に手を焼いていた柴咲に、夫の田辺誠一は虐待を疑い始める。義母の風吹ジュンも田辺の愚痴を真に受け、料理レシピを送り付けるなど、厄介な善意をまき散らしてくる。実母の高畑淳子は、柴咲を不遇の娘と決めつけて、嫌みと苦言ばかり垂れる。

 次第に、柴咲は法廷での印象とは真逆の水野を妄想し始める。育児に非協力的な夫や教育方針を押し付けてくる義母にモノ言えず、味方がいない孤独な水野の姿を。法廷の空気は鬼畜母水野編、柴咲の脳内では孤独母水野編。このふたつの映像を織り交ぜつつ、「明日は我が身」と不安に苦しむ柴咲の表情もしっかりとらえる。裁判の進捗状況と柴咲の心情の変化を見せていく構成がうまくて引き込まれた。裁判員も育児も経験したことないが、これこそドラマの力だと思う。

 柴咲は裁判のストレスから酒に走ってしまい、田辺からさらに距離を置かれる。育児の悩みって、実は家族由来が多いのかもしれない。

 このドラマを「共感能力が高い人は裁判員に向かない」と捨て置いてはいけない。悩むのは柴咲だけではないからだ。裁判員の伊藤歩や松澤匠も、裁判官の桜井ユキも、我が身と重ねて多少なりとも影響される。毎回、水野に関して無責任なコメントをする知人や隣人の映像も挟むのだが、そこもゾワゾワ。多重構造の妙、本気で推す秀作である。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

「週刊新潮」2019年5月30日号 掲載

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