佐藤浩市「空母いぶき」炎上騒動、総理大臣役経験アリの石坂浩二はどう見たか?

■百田尚樹に“三流”と指弾された「佐藤浩市」名演の見所(2/2)


 映画「空母いぶき」をめぐり、首相を演じる佐藤浩市(58)のインタビューが、炎上を招いた理由は主に2つある。“体制側を演じるのに抵抗感がある”との発言、そして原作漫画のキャラを「嘔吐」から「下痢」に悩む設定に変えた“アレンジ”が、安倍総理を揶揄したのではないかと指摘されたためだ。

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 作家の百田尚樹、ホリエモン、小林よしのりの各氏らを巻き込んだこの騒動。意見を整理すれば、「権力批判は結構」だが、「役を利用することの是非」が論点となっている。この点、俳優に伺ってみたいところだが、中でも“最適”と言える方がいる。石坂浩二氏はこれまで数多の映画やドラマに出演してきた。その中で、首相、将軍、高級軍人の役をこなしている。まさに佐藤が「抵抗感」がある、と述べた体制側の役――。

「あくまで自分の体験を述べますが……」

 と「やすらぎの刻(とき)」のロケ現場で取材に応じてくれた、石坂氏ご本人。

「私は『日本沈没』という作品で総理大臣役を演じさせていただきました。特に抵抗感はありませんでした。私の場合、役で拘るところは体制側とか何とかというよりも、そのドラマの狙いや面白さそのものだと思っています。個人として、思想的に違うと思う役柄でも、その人を人間として描けるのであればそれで良いのではないか、と」

 続けて、

「私自身は、役者は脚本に、出来うる限り忠実であるべきじゃないか、と思っています。役者はその中で何を表現すべきか考え、その上でなら、少しは自分自身の解釈を込めるということがあってもよいかもしれませんが」

 と、「やすらぎ」で演じる脚本家そのものの穏やかな口調で述べるのである。


■橋田壽賀子が考える“政治的”


 脚本家の橋田壽賀子さんは終戦を20歳で迎えた。

「役者さんが政治的な主張をされるのは結構なことだと思いますよ。私もドラマで時に政治のゆがみを書いてきたつもりですから」

 としてこう述べる。

「ただねえ、政治的なメッセージをそのままドラマに持ち込んだことはないわね。いきなり政治を語るのではなく、もっと自分のわかる話、生活に根差した話を書いていって積み重ねの上にそれを描くの。私が書くのは平凡な家庭だけ。普通の家庭に政治がどのように忍び込んでくるのか、狂わせるのかというところに興味がある。身の丈に合ったやり方なのよ。ドラマに絡めて政治そのものを大上段に語ったことはありません」

 佐藤の発言についても、

「嘔吐でも下痢でもどっちでもいいんじゃないですかね。お受けになられた以上、口からでもお尻からでも何でもおやりになった方がよろしかったのでは」

 と笑うのである。

 確かに“粋な芸”とはさりげなく見せるもの。事前に大仰に“大義”を述べるのではなく、劇場を出た後で観客がふと役者のそれに気付く――それがホントの「職人技」ということか。


■体制的な内容


「僕は佐藤さんは好きな役者なんだけどね」

 と言うのは、風刺画の巨匠・イラストレーターの山藤章二氏である。

「上級な批判、風刺というのは、悪口の中にもリスペクトをどれだけ込められるかが腕の見せ所。描かれた本人がクスッと笑ってしまうのが一番望ましい。昔、郵便ポストに目鼻をつけ、くしゃくしゃのセーターを載せて“小泉純一郎さん”とやったら本人はとても喜んでいましたよ。怒らせてしまったり、傷つけてしまったりするのは、相手への同情を招いて話を湿っぽくさせてしまうんだよね」

 そして、

「総理大臣という役職に抵抗感があると述べた気持ちはわかる。ただ、それをそのまま口に出してしまうのは、いかにも、という感じがするな。それが演技にも出ちゃって勿体ないよ。人柄と真逆の役を演じた方が役者として懐も深くなるし、虚の世界も遊び尽くしてやろうという気構えがあった方がきっと大物になるよね」

 結論は、

「佐藤さんはいささか青臭いことを言っているなあ」

 まぁ、それが佐藤の魅力とも言えなくはないが……。

 縷々述べてきたが、ともあれ、この騒動で映画に注目が集まったのは事実。佐藤の演技がおおいに気になるところで、劇場に足を運ぼうという気にもなるが、

「いやいや、映画はそんなものじゃないですよ」

 と種明かしをするのは、既に試写会で「いぶき」を鑑賞した、映画評論家の北川れい子さん。

「確かにトイレのシーンもありましたがとても自然だし、ストレスに弱い設定とも思えなかった。話自体も自衛隊の活躍がメインで、どちらかと言えば体制的な内容。どうしてああいう言い方をしたのかしらね」

 大山鳴動して何とやら。

 事の真相は、佐藤がインタビューでついつい尖(とんが)った話をしただけ、ということなのか。もしくは、炎上狙いの“名演”か。

 いずれにせよ、舌っ足らずで人々を戸惑わせた“迷演”の誹りは免れないが。

「週刊新潮」2019年5月30日号 掲載

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