日本人K-POPアイドルが続々誕生する理由 全員日本人の「TWICE」も誕生?

■日本人を含むK-POPアイドルグループが目白押し


「日韓不和を尻目に、日本の若者を惹きつけるK-POPのスターダム」――。5月1日、英国に本社を置く通信社ロイターがこんな見出しの記事を伝えた。内容は、K-POPアイドルを夢見る日本人少女たちのレポートだ。そのうち15歳と17歳の少女は、月あたりの費用が最大3000ドルという韓国の専門スクールに留学中。同スクールは毎年約500人の日本人が入学し、韓国語の授業も行っているという。

 オリコン・リサーチによると日本のK-POP市場が最初にピークを迎えたのは、KARAや少女時代がブレイクした2011年の265億8000万円(推定総売上、以下同)。その後は日韓関係悪化のあおりで失速し、2015年には165億1000万円まで縮小。ところが2018年になると、一気に過去最大の274億5000万円まで急拡大した。2017年(175億5000万円)からの伸び率は、56.41%だ。

 日本のK-POP市場をV字復活させた立役者の1つが、男性グループ「防弾少年団」=「BTS」。またもう1つが、2年連続でNHK紅白歌合戦に出演した女性グループ「TWICE」だ。

 2015年デビューの「TWICE」は、メンバー9人のうち3人が日本人。いま韓国では、その成功に続けとばかりに、日本人メンバーを含む女性グループのデビューが相次いでいる。昨年デビューした「NATURE」「公園少女」、今年1月デビューの「Cherry Bullet」などがそうだ。また日韓合同のオーディション企画から生まれた女性グループ「IZ*ONE」(2018年10月活動開始)も、AKB48との兼任メンバーら3人の日本人が加わっている。

 需要と供給がうまくマッチする形で、K-POP市場の注目を集めている日本人メンバーたち。だが、そうしたトレンドの背景には、ほかでもない中国の存在がある。


■SMエンターテインメントの中国戦略


「TWICE」「IZ*ONE」など日本人女性の活躍が特に脚光を浴びているが、K-POP業界で奮闘する日本人男性もいる。男性9人組グループ「NCT 127」のユウタ(中本悠太[23])もその1人だ。彼は2011年、地元の大阪で行われた韓国芸能事務所のオーディションに合格。言葉も分からないまま16歳で単身韓国へ渡り、練習生となった。「NCT 127」メンバーとしてのデビューは、2016年7月だ。

「NCT 127」は、アイドルプロジェクト「NCT」から派生したユニットの1つ。「NCT」全体では計21人のメンバーがいる。出身地は韓国9人、中国7人(うち香港とマカオが各1人)、以下アメリカ、タイ、カナダ、ドイツ、そして日本が各1人ずつ。このメンバーを組み合わせる形で、「NCT 127」のほか複数のユニットが活動する仕組みだ。

「NCT」が所属する芸能事務所は、SMエンターテインメント。「東方神起」「少女時代」「EXO」などトップスターを多数輩出してきた最大手の芸能事務所だ。同社はまた、早くからK-POPアイドルの海外進出を展開してきた草分けでもある。1996年デビューの男性グループ「H.O.T」は中国、そして2000年デビューの女性ソロ歌手BoAは日本で、それぞれ大きな成功を収めた。

 同時に力を入れてきたのが、海外人材の発掘だ。とりわけ同社は、中国人アイドルの育成に力を入れてきた。狙いはもちろん、中国市場の攻略だ。2005年デビューの男性グループ「SUPER JUNIOR」には、中国人のハンギョン(35)が参加(2009年12月に脱退)。2009年デビューの4人組女性グループ「f(x)」は、中国及び台湾系が計2人。そして2012年デビューの男性グループEXOは当初、中国人メンバー4人を擁していた。同社が日本人をデビューさせるのは、現地メディアによるとユウタが最初とされている。


■「韓国人抜き」ユニットで中国市場を攻略?


「NCT」の派生ユニットとして今年1月にデビューした「WayV」は、別名「WeiShen V」。漢字で「威神V」と書く。メンバーは中国、タイ、香港出身の「NCT」メンバーに、新たに「NCT」に加入したマカオとドイツの出身者を加えた7人。つまり「WayV」こと「威神V」に、韓国人は1人もいない。

 SMエンタはなぜ、韓国人抜きのユニットをデビューさせたのか。その背景とされるのが、中国の「限韓令」だ。

「限韓令」とは、中国における韓国製品などのボイコットを指す。理由は、2016年7月に米韓の間で合意された米軍のTHAAD(高高度迎撃ミサイルシステム)配備問題だ。朝鮮半島へのTHAAD配備に強く反発する中国は、韓国に対する報復として企業や製品の締め出し、団体旅行の制限などを続けてきた。

 そこで標的の1つとされているのが、K-POPを含む韓流コンテンツだ。韓国国際文化交流振興院によると、中国における韓国の「放送コンテンツ」の市場規模は、2016年の7817万9000ドルから2017年は6分の1近い1355万5000ドルにまで急減した。

 一部は限定的に緩和されたものの、韓流・K-POPへの「限韓令」はいまも厳しい。中国当局はボイコットを公式に認めていないが、韓国ドラマの放送やK-POPアイドルの公演などは制限されたままだ。

 ただし男性グループ「Wanna One」出身のライ・グァンリン(17)、同じく「GOT7」のジャクソン(25)など、台湾ないし香港出身のK-POPアイドルは、中国での活動を許されている。そうしたなかで作られた「威神V」は、「『限韓令』以後、韓国芸能人の活動が依然として難しい中国を攻略する方策」(『毎日経済新聞』2019年2月1日付)と理解されるわけだ。


■メンバー全員が日本人の「TWICE」が誕生?


 SMエンタに限らずK-POP業界はこれまで、主な海外市場である中国、東南アジア、そして日本からもアイドルを選抜してきた。だがこれまで、日本人の存在感が小さかったのは否めない。

 それが冒頭で述べたような活況に至ったのも、やはり「限韓令」のおかげらしい。現地メディアの言葉を借りると、次の通りだ。「今年に入って、国内の大手芸能事務所が先を争って日本市場の攻略に乗り出している。『限韓令』で事業が不確実な中国に比べ、日本は国内より規模も大きく(略)逃がすことができない市場だ」(『嶺南日報』2017年6月26日付)、「中国での活動が中国人メンバーに限定されるようになったため、最近では日本など他国の練習生たちを活用する例が目に見えて増えている」(『オーマイニュース』2019年3月8日付)。こうした取り組みの甲斐もあってか、K-POP・韓流市場の黒字がようやく「限韓令」以前の水準に戻ったとの報道もあった。

 だがK-POP業界と日本の若者の関係は、単なる中国市場の穴埋めに終わらないようだ。

「TWICE」を世に送り出したのは、SMエンタと1、2を争う芸能事務所JYPエンターテインメント。同社も2018年、全員中国人の男性グループ「BOY STORY」をデビューさせた。これも「限韓令」対策と言われているが、同社のパク・ジニョン代表(47)はさらに飛躍して次のような構想を掲げている。韓国のコンテンツを世界へ輸出するのが第一段階。海外と韓国のアーティストをミックスするのが第二段階。そして人材育成からプロデュースまでを海外で行う第三段階を、これから追求していくという。

 この構想に基づいてパク代表は現在、ソニーミュージックと共同で女性グループ選抜プロジェクト「Nizi Project」を進行中だ。本人の言葉を借りて要約すれば、「メンバー全員が日本人の『TWICE』だと思えばいいでしょう」という。今年7月から日本8都市及びロサンゼルスとハワイでオーディションを開催、2020年にソニー・ミュージックレーベルズからメジャーデビューさせる計画だ。

 国内アーティストの海外進出を超えて、新しいプロデュースの輸出を目指すK-POP業界。日本の若者が韓国人プロデューサーの手で脚光を浴びる機会は、これからますます増えることになりそうだ。

高月靖/ノンフィクション・ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2019年6月4日 掲載

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