「きのう何食べた?」ケンジはおおらかな大型犬 内野聖陽が見せる絶妙な乙女力

 西島秀俊(48)と内野聖陽(50)が演じるゲイカップルの哀歓と日々の食卓を描くテレビ東京の「ドラマ24 きのう何食べた?」(金曜深夜0時12分)の人気が高まるばかりだ。深夜ドラマなので視聴率は3%前後(ビデオリサーチ調べ、関東地区)に過ぎないが、見逃し配信の再生回数は毎回100万回を突破。記録的だ。SNS上もこのドラマの話題で溢れている。見どころの多いドラマだが、とくに見逃せないのは少しオネエっぽい内野の演技だ。

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 原作は「モーニング」(講談社)に連載中の同名漫画。原作を読んだうえで役づくりに入ったという内野はこう語っている。

「漫画は声がないので、どうしゃべったらいいのか、原作のセリフや表情を参考に探りながらやっています。一番繊細に考えなければいけないのが“オネエ度”ですね」(番組ホームページより)

 この役に強く引かれたそうだ。

「同性愛者の役は昔舞台で一度やったことはありますが映像ではほぼ初めてですので、これは面白そうだ、『ゲイになった自分の姿を見てみたい!』と思いました(笑)」(同)

 ドラマでは西島演じる弁護士の史朗(通称・シロさん)と美容師の賢二(通称・ケンジ)の日常と愛の形が描かれる。2人は2LDKのアパートで同居中である。

 シロさんは自分がゲイであることをカミングアウトしていないこともあって、ときにケンジに素っ気なかったり、冷たかったりする。一方のケンジはというと、ストレートにシロさんへの思いを表す。愛情を全開にしてぶつける。そんなケンジの“乙女力”と内野の演技への称賛がSNS上に溢れている。

 6月7日放送回も内野は魅せた。シロさんが「おまえ、もうすぐ誕生日だろ。俺とおそろいで指輪買ってやるって言ったら、どうする」と口にすると、内野扮するケンジは、喜びのあまり全身が硬直。食べていた梅わさび茶漬けを喉に詰まらせ、やがては「ウェーン」と泣き始めてしまう。見事なまでの乙女力だった。

 内野が見せる乙女力はこれにとどまらない。いざ誕生日を迎え、食事中にシロさんが「はい、これ」と無造作に指輪を手渡すと、「ダメ〜。こういうのは食後に堪能しないと」と思いっきり拗ねるのだ。ケンジはかわいらしい人なのである。シロさんも本当はケンジが愛おしいのだが、照れもあって、それをあまり表に出さない。

 2人の日常が淡々と描かれているだけなのに、見ていると心がほのかに温まる。男女のラブストーリーは奇をてらったものが増え、ピュアなものが少なくなったせいもあるかもしれない。世話焼きで料理上手のシロさんが毎回作る料理の場面もまたいい。おいしそうだし、マネして作ってみたくなる。とはいえ、やはり目を引くのは内野の演技だ。

 内野本人が「ぜひやりたい」(番組HPより)と思ったそうだが、驚いた人も少なくないだろう。なにしろ内野は“大河俳優”なのである。2007年の「風林火山」に主演し、甲斐武田氏の軍師・山本勘助に扮した。失礼ながら、現在の「いだてん」と違って人気作で、平均視聴率は18.7%を記録した。国民的ドラマと呼ばれるのにふさわしかった。

 テレビ朝日「臨場」(2009年、2010年)で演じた男気と情に満ちた検視官・倉石も大人気となった。TBS「JIN-仁-」(2009年、2011年)での奔放な坂本龍馬役も大好評で、視聴者から「死なせないで」と嘆願する声が上がったくらい。同「ブラックペアン」(2018年)では一転、クールな医学部教授を好演した。

 次々と新しい役に挑んでいるように映る。実際、本人も過去のインタビューで、同じような役をやりたくない、と語っている。傍から見ると、「折角の当たり役を続けないとはもったいない」と思ってしまうが、同じ役を避けたがる俳優は決して珍しくない。

 演技がうまいと言われる人ほど、自分の可能性を試すため、新しい役に挑みたくなるようだ。やはり演技がうまいと誰もが認める堺雅人(45)も「半沢直樹」の続編を6年間も断り続けた。

 内野は貪欲に新しい役に挑み、それを自分のものにし続けている。俳優になるべくして生まれてきた男のように映る。だが、早稲田大政経学部在学中にマスコミ受験セミナーに通っていた。演劇活動もしていたが、卒業後はジャーナリストになるつもりだったのだ。早大政経出身のマスコミ人は数多いので、「内野聖陽記者」が生まれていても不思議ではなかった。


■「うまい俳優はみんな頭がいい」


 もっとも、内野は途中でセミナーの仲間に「俺は俳優になる」と宣言する。そして本当にセミナーを辞めてしまう。仲間たちは「俳優なんて、成功するかどうか分からないぞ」と止めたそうだが、内野は自分の信念を通し、文学座研究所に入った。その後の内野の成功は誰もが知るとおり。内野が俳優になることを止めたセミナーの仲間は不明を恥じたそうだ。

 内野も堺も同じ役をやりたがらないが、早大出身という共通点がある。堺は第一文学部を中退した。多くのプロデューサーや演劇評論家らは「うまい俳優はみんな頭がいい」と口にするが、この2人もやはり頭がいいのである。

 誤解してほしくないが、学歴のことではない。たまたま2人は早大に進んだが、プロデューサーらが言うのは地頭のことだ。役について深く考えられる力がないと、別人格を演じきるのは難しいのだろう。

 たとえば内野は、ケンジのかわいらしさを体現することについて、こう語っている。

「男性でも女性でも心から100%、思い切り泣いていたり、思い切り拗ねてたり、そういう瞬間は『かわいいな。こいつ』と思うじゃないですか。ですので、シロさんと対するときは、100%ストレートに出す、ということを意識しています」(番組ホームページより)

 深く考え抜いて演技している表れに違いない。

 こうも語っている。

「1円にこだわる細かいシロさんに対し、ケンジの一番のポイントは大らかであること。大型犬みたいな感覚でシロさんのそばにいれば、エサも与えてくれるかな(笑)という感じでいます」(同)

 さらっと言っているが、役づくりにあたって、自分が犬になる想像までする俳優は、そういないのではないか。SNS上には「最強ヒロイン」と絶賛する声もあるが、俳優・内野にしてみたら、「してやったり」だろう。

 ちなみに、このドラマはシロさんとケンジの食事のシーンが多い。原作のとおりだ。「おや」と思わせるのは撮り方。テーブルの真横から、かなり引いて撮っている。ありそうでない撮り方である。単調に見えてしまうからだ。

 これに似た撮り方を好んだのは大監督・小津安二郎(1903〜63)。やはり食事のシーンを大切にした。その小津は監督人生の大半を松竹大船撮影所で過ごした。このドラマの制作は松竹。意識しているのか…。うがちすぎかも知れないが、内野の演技をはじめ、見どころ満載である。

高堀冬彦/ライター・エディター

週刊新潮WEB取材班編集

2019年6月14日 掲載

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