現役放射線技師、窪田正孝「ラジエーションハウス」の"ホワイトな職場環境"に違和感

記事まとめ

  • 現役放射線技師が人気ドラマ「ラジエーションハウス」に違和感を抱いているという
  • 現役技師によると、実際はドラマと違い、昼食を食べる暇すらないほど激務のよう
  • また、検査や治療などを進める権限はなく、もどかしさを感じることが多いとのこと

窪田正孝「ラジエーションハウス」のここがヘン! 現役放射線技師が本音で語る実情

 2019年4月より放送されている月9ドラマ『ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜』(フジテレビ系)は、最終回が近づくにつれ平均視聴率が13%を超え始めた人気作。天才放射線技師に扮した窪田正孝が、知識や技術を駆使して様々な病気を発見していくというストーリーだ。この作品、現役の放射線技師が観れば、命の大切さ云々のメッセージよりも、そのホワイトな職場環境に目が行くのだとか。

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 ドラマでは、昼の休憩時、横並びのデスクに技師がずらりと勢揃いし、全員で食事をとるといった、のどかなシーンもある。しかし、実際の放射線技師は、昼食を食べる暇すらないほど激務なようだ。

 診療放射線技師とは、医師の指示を受け、検査や治療のためにX線などを人体に照射する医療技術者のことである。「エックス線技師」や「レントゲン技師」などと呼ばれることもある。

 平成27(2015)年度給与実態調査(公益社団法人日本診療放射線技師会 調査委員会)のデータによれば、ドラマの主人公(29歳)と同年代(28〜31歳)の放射線技師の平均給与月額は、約31万円。この数字を聞くと、読者の中には「ドラマぐらいホワイトな職場環境で、この給与ならアリでは」と思われる人は多いかもしれない。

 しかし、首都圏の病院に勤務する現役の放射線技師・飯塚英明さん(仮名、41歳男性)は、ドラマと現実とのギャップに困惑を隠せない様子だ。

「うちの病院では、夜遅くまでぶっ通しでCT・MRI検査機器のオペレーションにあたっています。形式的に昼休憩の時間は空けてありますが、午前中に時間が押した分の検査や、救急患者の検査に充てるため、昼もほぼ埋まっている状況。そのため、昼食をとれないこともしょっちゅうあります。検査の予約が2週間先までびっしり入っているので、そうでもしないと追いつきません」

 飯塚さんと同じ病院に勤務する小谷芳雄さん(仮名、30歳男性)も、ドラマ内での放射線技師の待遇に違和感があるという。

「ドラマだと当直以外の技師は陽が明るいうちに帰っていますけど、まぁ無理ですね。検査自体は夜8時に終わっても、画像処理で9〜10時を回り、そのあとは研究会の発表の準備もあります。自分の研究だけでなく、後輩が作った資料の確認もこなさないといけないため、日付をまたぐこともザラ。病院は休日診療を増やす方針だし、なかなかハードな職場です。同期の放射線技師はみんな転職してしまい、いま病院に残っているのは僕1人だけですね……」

 職場に嫌気がさした放射線技師の中には、医療機器メーカーの営業になる人もいたという。


■権限を持たない放射線技師のジレンマ


 乳がん検診がテーマだった第3話では、内山理名が扮する患者がマンモグラフィ(乳房X線検査)を受けるというシーンがあった。一度は放射線科の医師から「異常なし」と診断されたものの、窪田が扮する主人公は検査画像に違和感を覚える。そこで彼は超音波検査(エコー)やMRI検査を行い、乳がんが発見されるというストーリーだった。

 実際に、放射線技師の判断で再検査を促して緊急検査を行うことなどあるのだろうか。

「何があるかわからない段階でMRI検査までやるということは、まずありえません。MRI検査は、腫瘍やがんがあるとほぼ確定した状況で、それがどこまで広がっているかを詳細に確かめるための検査なので、ドラマのように簡単にできるわけがありません。実際は、すべての医療行為を行える医師と違って、技師は検査や治療のGOサインを出す権限は持っていないため、もどかしさを感じることが多いです」(飯塚さん)

 第3話では、「練習」と称して、女性放射線技師が私用でマンモグラフィと超音波検査を行うシーンもあったが、これについても異論があるそうだ。

「技師同士で練習することは、超音波検査なら空きがあれば可能かもしれませんが、X線やCTといった被曝をともなう検査はまず無理。機器の利用には申請が必須ですし、検査データの持ち出しもNGです」(小谷さん)

 もっとも、ドラマが間違いばかりというわけではない。たとえば、放射線科部長の指示により、研究費を出している製薬会社会長の脳ドック検査を優先的に行うくだりがあった第2話。この描写については、2人とも「私立病院だと、関係者をVIP優遇するのはよくある話」と口を揃えた。


■特殊な性癖所持者との遭遇や壮絶な現場も


 放射線科では、予約制の検査のほか、救急で運ばれてくる患者も担当する。2人に救急現場での印象的なエピソードについて聞いてみると……。

「入職して間もない若手時代、腹痛で救急に来た男性患者さんのお腹の中にスプレー缶が写っていました。おそらくは、特殊なプレイをしていてスプレー缶がお尻から奥まで入ってしまったんだと思います。実はこういうちょっと恥ずかしい事案って、結構、多いんです」(飯塚さん)

「若手は救急の現場に回されることが多いのですが、交通事故で運ばれる患者さんの対応は、やっぱり壮絶。車の事故はまだマシだけど、特にバイク事故はやばいです。レントゲンを撮るために脚を持ち上げようとしたら、皮1枚で繋がっていて、ぶらーん……なんてことも。そういう光景を何回も目にして、バイクに乗れなくなったという人もいます」(小谷さん)

 しかし2人は、「仕事がきつい」と口にしながらも、放射線技師という仕事にはやりがいを感じているそうだ。

「治療の前後で患者さんから『ありがとう』と言ってもらえたときに、やりがいを感じるし、より良い治療に向けて研究のモチベーションも上がります」(小谷さん)

「医師は医療行為全般の資格を持っているけれど、隅々まで把握しているわけではありません。そこで我々がより確実な検査方法を医師に提案したり、様々な職種の人間が専門分野で補い合うことで、持ちつ持たれつでやっています」(飯塚さん)

 仕事にかける熱い思いは主人公と同じようだが、とにかくドラマ以上に現場の実態は過酷なようだ。

取材・文/五木源(清談社)

週刊新潮WEB取材班編集

2019年6月17日 掲載

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