老後2千万円問題は「他人事」じゃない! いま取るべきたった2つのアクション

■「今の自分の支出」と「老後の支出傾向」


 年金、住まい、資産運用……そろそろ真剣に「定年後のお金」について考えないといけない、そんな現役世代の人たちに、創立17年のお金の学校「ファイナンシャルアカデミー」(https://www.f-academy.jp/)の講師陣が定年後の設計方法をわかりやすく指南します。第6回の講師は引き続き、某大手証券会社出身でファイナンシャルプランナーでもある小野原薫先生。
 今回は特別版としてスタッフが聞き役となり、「老後2千万円問題。いま取るべきたった2つのアクション」と題してお送りします。

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――老後2千万円問題に世間の関心が集まる中、「老後に2千万円は本当に必要か緊急会議」というセミナーで講師もされた小野原先生。今日はその時に伝えた内容も踏まえながら、読者の皆さんが老後資金準備のために今すぐすべきアクションについて、お話を聞きたいと思います。

小野原先生:「老後2千万円問題」の報道をご覧になられて、きっとお一人お一人、色々な感情を持たれたのではないかと思います。私が強く感じたことは、この問題を「自分ごと」にする必要性です。20年後、30年後の「自分の」未来のために、この問題と一人一人が向き合うことが重要だと考えています。ところで、今の公的年金制度の大もとができたのって、いつだかご存知ですか?

――うーん、結構昔なのは想像できるんですが…。

小野原先生:1961年、今から58年前、実は半世紀以上も前にできた制度なんです。当時の年金支給開始年齢は今より早くて60歳だったんですが、その頃の日本人の平均寿命って、どれくらいだったか想像つきますか?

――今より短かったんでしょうが…。

小野原先生:男性で約66歳、女性で約70歳です。ざっくりとした表現ですが、男性だったら60歳に仕事をやめて、6年間年金をもらったら、もう寿命を迎える。そういう時代に成り立つ仕組みとして今の年金制度はスタートしたんです。でも今はどうでしょう? 人生100年時代なんて言われていますよね。日本人の寿命はどうなっていますか?

――もっと延びてます。

小野原先生:そうですよね。現在60歳の人の平均余命は男性で約24歳、女性で約29歳。つまり今60歳の男性なら84歳まで、女性なら89歳まで半分の人は生きるという計算です。半分の人ですから、当然もっと長く生きる方も中にはいらっしゃる、そんな時代に1961年に設計した制度が果たしてフィットするのでしょうか。

――いや、しないですね。

小野原先生:そうなんです。自助努力が必要なのは明らかなことなんです。これは別に今回初めて言われたことではなく、もう随分前からわかっていたことです。

――確かにそうですね。ではこの問題にどう対処していけばいいんでしょうか? 実際のところ、いくら必要なんでしょうか。

小野原先生:金額については「個人個人によって異なる」としか言いようがありません。先日のセミナーでは全員に試算をしてもらいましたが、実際に2千万円より少なくていい人もいれば、多く必要だという方もいらっしゃいました。

――どうやって試算すればいいか教えてもらえますか?

小野原先生:概算にはなりますが、「老後の収入」−「老後の支出」で「不足額」をまず調べます。月々で試算したのであれば、それに12をかけて1年間の不足金額にしてみましょう。そこに、65歳以降自分が生きるであろう年数をかければ、自分で用意すべき老後資金が出るはずです。ここで話している、「収入」も「支出」も「自分の寿命」も、全て予想でしかないのですが、まずは大まかに知ることに意味があります。

――一つ一つ確認していいですか? 「老後の収入」って年金のことですよね?

小野原先生:そうですね。老後の収入の柱はまず「公的年金」、そこに加えてお勤め先によっては「企業年金」、人によっては「個人年金保険」なども加わります。公的年金としてもらえる金額についてはよく質問をいただくのですが、これについては「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で調べるのが便利です。正直なところ、ご自身の収入や加入期間、家族構成などで公的年金の金額は大きく変わるのでこれらも概算でしかありませんが、まずはだいたいでいいので年金額は知っておいてほしいですね。

――そうですよね。もらえる金額がわからないことには、足りない金額もわからないわけで。そして「支出」についてですが…。

小野原先生:この「支出」との付き合い方が、とにかく重要になります。というのも、簡単に増やすことができない「収入」に比べて、「支出」は比較的自分でコントロールしやすいものです。今回の報告書の中には、夫65歳、妻60歳の無職世帯の支出例が載っていましたが、この例は持ち家前提ですし、ライフスタイルも多様化している今、やはりお一人お一人が自分のケースに落とし込んで考える必要があると考えています。

――私の場合、賃貸の1人暮らしですし。

小野原先生:そうですそうです。そうなるとこの報告書のパターン、全然当てはまらないですよね。

――そうなんですよ。「老後」の支出ってどう考えていけばいいんでしょうか?

小野原先生:老後の支出を考える上で参考にしたいのは「今の自分の支出」と「老後の支出傾向」です。この2つを踏まえると、ある程度までは老後の支出がシミュレーションできます。ちなみにご自身の毎月の支出、ちゃんと把握されてますか?

――うーん、ざっくりですかね〜。

小野原先生:現役世代の方だと、赤字にならなければいいやという感覚の方や、奥様に家計は任せっきりという方もいらっしゃるかもしれません。ただ「自分の支出の傾向」がわからないことには、その次の「見直す」というステップにも進めないので、ぜひ今回の問題を機にご自身の支出状況を知っていただきたいですね。

――ちなみに「老後の支出傾向」というのはどういったものなんですか?

小野原先生:このリストは現役期と比べた時、老後の支出の何がどう変化しやすいのかをまとめたものです。個人差があることは大前提になりますが、シミュレーションする上で参考になるので、少し紹介しますね。

〈減る可能性があるもの〉
・教育費
・保険費
・住宅費

〈付き合い方で大きく変わるもの〉
・自動車関連費

〈意外と減らないもの〉
・食費

〈増える可能性があるもの〉
・趣味娯楽費
・交際費
・医療費

――興味深いですね。

■老後の資産形成の第一歩は「支出」とうまくつきあうこと


小野原先生:少し補足しましょう。まず「減る可能性があるもの」について。教育費は、お子さんの独立と共にかからなくなる傾向に。ただしお孫さんへの援助などで引き続きかさむ方も中にはいらっしゃいます。
 保険費は、払い込みが終わればかからなくなりますが、これは商品次第ですね。

 そして住宅費。住宅ローンを完済すれば一気に負担はなくなります。といっても固定資産税やマンションなら管理修繕費などはお忘れなく。ただ住宅費は老人ホームに入られたりすると今より高くなるケースも十分ありえます。

――一人ものの私は、終のすみかは老人ホームが有力候補。選ぶ施設によっては今よりかかる可能性もありますね。

小野原先生:そうなんです。次に「付き合い方で大きく変わるもの」として自動車関連費があります。要するに「いつまで車を持つか」という話ですね。住んでいる地域にもよるでしょうが、シェアサービスやタクシーを利用してこの部分を大幅にコストダウンさせることは可能だとは思います。

――そして「食費」は意外と減らないんですね。これ、ちょっと予想外です。

小野原先生:確かに食べる量は減っていくかと思いますが、健康を考えてオーガニック食品を選んだり、サプリを取り入れたり。「少しだけいいものを」という思考になる方もいらっしゃると思います。そして一度上げてしまったクオリティは、なかなか下げにくいのが事実です。

――最後に「老後だからこそ増えるもの」もあるんですね。

小野原先生:はい。現役世代と違って時間にゆとりのある老後。趣味に費やす時間とお金が増えるのは想像できますよね。次に交際費。会社という日々通う場所がなくなった方たちが、自分の「居場所」を求めて同窓会やら同期会やら何かとかこつけて飲み会に集まる、これもなんとなく想像できますよね。また遠方に住んでいらっしゃる知人のお見舞いに行くとか、お葬式に出るとか、そういった種類の交際費が増える傾向もあります。
 そして医療費。調子の悪いところがあちこち出てきては病院に行ったり、薬を買ったり。これも簡単に想像できると思います。

――漠然と老後は支出が減るのかなと思っていましたが、単純に減るわけではなさそうですね。

小野原先生:そうですね。きちんと老後の支出傾向を知って、対策をする必要がありますね。

――ここまで聞くと、入ってくる収入額も異なるし支出額も異なるし、となると、一人一人必要な老後資金が違ってくるのも納得です。

小野原先生:そうですね。一人歩きしてしまっている金額に対してどうこう考えるのではなく、ご自身にとっていくら必要かをざっくりでもいいので一度把握してみてほしいと思います。

――では、必要な老後資金を把握したとして、今からできることってなんでしょうか?

小野原先生:資産形成については今まででの連載でもお伝えしてきましたので、今日は多くの人が今すぐアクションできる内容をお伝えしますね。

――ぜひ!

小野原先生:老後の資産形成の第一歩は「支出」とうまくつきあうことなんです。そのためのファーストステップは「今の支出を知る」こと。とっくに出来てるよ!という方は具体的な資産形成を考えられたらいいのですが、実は毎月の支出すら把握できていないという方は、まずは1カ月でいいので家計簿をつけてほしいです。方法はアプリでも手書きでもいいですよ。

――家計簿ですか。でも1カ月とはいえ、実際に続けるのって結構きついように思うんですが。

小野原先生:そういう方は、1カ月間、ひたすらレシートを集め続けてみてください。多少、もらい忘れがあっても構いません。もらったレシートは1カ月、ただ封筒か何かにため続けてください。そして1カ月の終わりに、1回だけ費目にわけて集計をするんです。この作業の目的は「どんなものに」「いくらぐらい使っているか」という「自分の支出傾向」を知ることです。1円単位の帳尻をあわせることが目的ではないので
大まかで構わないですし、費目も自分なりに決めてもらっていいです。例えば「タバコ代」「喫茶店代」とか。そうすると、自分が何にどれぐらい使っているかということを認識できるんです。長い老後のために、自分の支出傾向を知る。これがまず第一に行ってほしいことです。

――耳が痛いですが、自分もやってみようと思います。

小野原先生:そしてその後で行うべき2つ目のことが「支出の見直し」です。これは何も、全てのものに対してケチケチ節約しなさいということではありません。見直しの鉄則は「小さいものより大きいものから」「流動費より固定費から」。ランチで毎回、節約を意識して食べたいものが食べられないって少し辛いですよね。ですので、金額の大きな住宅関連費用や保険代から見直すことをおすすめします。特に生命保険代はお子さんが独立された後でしたらそこまでかける必要がないというものもあるかもしれません。

――その他にも見直せるポイントはありますか?

小野原先生:金額はそこまで大きくないかもしれませんが、携帯電話の基本使用料や不要なオプション代、通っていないスポーツクラブ代、読んでいないのに定期購読している書籍代なども見直し対象ですね。探せば結構あると思いますよ。見直すこと自体は少し面倒ですが、一度見直してしまえば後は何のストレスも感じずに支出をおさえられるわけですし、たとえ数百円であってもそれが長い期間になれば大きな金額になります。「確かに…」と思った方は、ぜひ今日、行っていただきたいです。少しでも早めに支出を見直せば、その分で貯蓄ができ、そのお金で新たに資産形成もできますしね!

〈今日のまなび〉
・老後2千万円問題は「自分ごと」として捉えることが大切
・老後の資産形成、すぐに行うべきことは「今の支出を知ること」
・その後で行う「支出の見直し」は、大きいもの&固定費から

ファイナンシャルアカデミー
お金の教養を身につけるための総合マネースクールとして2002に創立。東京校・大阪校・ニューヨーク校・WEB受講を通じて16年間で延べ約50万人が、貯蓄や家計管理といった身近なお金から、資産運用、社会を豊かにするお金の使い方までを学習。初心者向けの定番「お金の教養講座」https://www.f-academy.jp/school/kyouyousemi.htmlや40、50代に特化した「定年後設計スクール無料体験会」https://www.f-academy.jp/school/retirement.htmlが人気。

小野原 薫(おのはら かおる)
ファイナンシャルアカデミー認定講師、ファイナンシャルプランナー、相続診断士。大手証券会社勤務時代に、一受講生としてファイナンシャルアカデミーの講座を受け、中立的な金融経済教育の必要性を強く感じ同社の講師に転身。現在は成人向けの「お金の教養講座」や「投資信託スクール」の入門講座を担当する他、高校での出張授業など若年層への金融経済教育も積極的に行なっている。明るく誰にでもわかりやすい講義が好評。

2019年6月24日 掲載

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