東野幸治が描く“三浦マイルド伝説”「『吉本にとって自分は必要のない芸人なんだ』と痛感した瞬間」

 東野幸治が仲間たちの秘話をつづる連載「この素晴らしき世界」。今週のタイトルは「お笑いに溺愛された男、三浦マイルド君(2)」。

 ***

 2013年に見事R-1ぐらんぷりで優勝した、ピン芸人・三浦マイルド君の話の続きです。

 予選で見事お客さんのハートを掴んだ後、決勝では、道路交通警備のアルバイトで知り合ったニシオカさんというオジサンの言葉を使ったネタで勝負しました。

「一生懸命仕事しても、手ぇ抜いて仕事しても、もらえるお金一緒やで〜」

「高速道路の警備はな、命の危険が伴うから危険手当が2千円もらえるねん。これ、どういうことかわかるか? ワシらの命の値段、2千円ってことやで!」

 会場が笑いに包まれます。他にも「市民税なんて払ったことないわ!」「タイの女の子が一番優しいわ〜」など、実在の人物だという面白さも重なりまたしても見事にハマりました。お客さんと審査員の芸人達、みんなが大爆笑。見た目の可笑しさだけでなく、お笑いの才能自体もあることを芸人仲間も以前から認めていましたが、その日の彼は圧倒的に面白かったのです。そして、一夜にして人生が変わりました。

 優勝賞金は500万円。女手一つで苦労して育ててくれた母親に感謝の気持ちを込めて100万円渡しました。50万円は養護施設に寄付したそうです。本当に心優しい三浦マイルド君です。

 そして残りの350万円は食事と酒、そして風俗に無計画に散財してあっという間になくなってしまいました。人に対する優しさも人一倍なら、性欲も人一倍な三浦マイルド君です。

 優勝直後、三浦マイルド君に仕事が殺到しました。もちろんすぐにアルバイトは辞めました。月収は一気に60万円に跳ね上がりました。が、大きな声で絶叫するネタを披露し続けていると、すぐに声がガラガラになり、ネタの肝である広島弁の可愛らしさが伝わりにくくなってしまいウケない……当然のように月を追うごとに仕事が減っていきます。そして、ウケなければウケないほど絶叫する声は大きくなり、三浦マイルド君の広島弁だけがスタジオに響き渡るのです。

「わしの母ちゃん、ええとこずき(八方美人)じゃけぇ、宗教4つ入っとるんじゃ?」

 こんなセリフを叫んだ後の沈黙は、まさに地獄です。

 優勝から1年後、月収は15万円にまで減っているなか、三浦マイルド君は東京進出を果たします。が、当然、時すでに遅し。なぜすぐに東京進出しなかったのかといえば、「お笑い芸人になって13年、育ててくれた大阪のお客さんに恩返しをしたい」ため、1年間は大阪を中心に活動すると決めていたそうです。根が真面目な彼らしい考えです。

 上京して半年後、ある月のスケジュールがメールで送られてくると、予定が真っ白でした。つまりその月の仕事はゼロ。「吉本にとって三浦マイルドは必要ない芸人なんだ」と痛感した瞬間でした。その後も仕事は、ある月でも4、5本。ネタを見せる舞台だけで営業の仕事すら回ってきません。

 R-1優勝前の生活より、精神的に悲惨な日々が待っていました。「帰ってたまるか!」という意地だけでしがみついていたそうです。母親に格好良く渡した100万円も、そっくりそのまま返してもらいました。

 酒を飲んでは愚痴を垂れ流す後ろ向きな毎日。そこには、R-1優勝者の覇気は全くありません。

「大阪に帰るのはカッコ悪いことじゃない。向き不向きもあるし」と言われたこともありましたが、「帰ってたまるか!」と心の中で叫び返していました。声には出さず、心の中だけで。やはりそこは根が優しい三浦マイルド君です。(続く)

東野幸治(ひがしの・こうじ)
1967年生まれ。兵庫県出身。東西問わずテレビを中心に活躍中。著書に『泥の家族』『この間。』がある。

「週刊新潮」2019年6月27日号 掲載

関連記事(外部サイト)