カワイイ以外の武器を一切持たない丸腰女優の深田恭子に幸あれ「ルパンの娘」

「キャッツ・アイ」と「ロミオとジュリエット」を足したようなもんでしょ、とタカをくくっていた。泥棒一家の娘と警察一家の息子の恋を描く「ルパンの娘」だ。

 ひと言で表すなら「潔い」。コメディーに長けているとはあまり思えないキャスティングなのだが、全員全力で失笑される覚悟がある。笑わせる気骨ではなく、笑われる覚悟。ちょっと面白いことを自発的にできる俳優だと、どうしても「どや感」が出る。ところが、このチームには誰一人としてどや感がない。自分が面白いと思っていないからだ。今期の中で、もしかしたら一番笑える作品ではないか。フジテレビ内のポスターを見るたびに笑っているので。

 泥棒一家の娘を演じるのは深田恭子。とにかくカワイイ。表情筋が1ミリも動かなくてもカワイイ。たとえ「スポーツジムに通う金持ちの熟女が着ていそうなピンクの別珍ジャージ」っぽい泥棒スーツでもカワイイ。腹部のビラビラは体型隠しと思っていたのだが、アクションシーンにいろいろな意味で必須なのだと悟った。深キョンのアクションシーンはすごい(編集技術が)。カワイイ以外の武器を一切持たず、ある意味で、丸腰女優の深キョンに幸あれ。

 私を最も失笑させたのは、深キョンの両親を演じる渡部篤郎と小沢真珠だ。このふたりが、笑われるよう真摯に取り組んでいるのが逆に可笑(おか)しくて。イチャイチャしているのに心ここにあらずというか、膜を一枚隔てている感じにも頬が緩む。

 掏摸(すり)の祖父は麿赤兒、鍵師の祖母はどんぐり、引きこもりハッカーの兄は栗原類。演技力云々ではなく、強烈なインパクト要員として各々が重役を担っている。そういえば、幼馴染のこれまた泥棒が大貫勇輔で、なぜかミュージカルパートを担う。外連味(けれんみ)とエンタメと馬鹿馬鹿しさに舵を切りまくった「潔さ」にブラボー。

 で、深キョンの恋人が瀬戸康史。よりによって窃盗を扱う3課の刑事だ。家族は全員警察官で、結婚どころか交際すら認めてもらえず。一家の悲願でもある「警視庁捜査1課」に入れれば、と条件をつけられてしまう。本当の意味での華麗なアクションを泥棒一家には期待できない分、瀬戸が担う。でも案外ぬけさくなので、敏腕刑事とは言い難い。毎回白目むくし。

 泥棒のほうは実に手間暇かけて豪奢に描かれているが、警察のほうは笑っちゃうほどぞんざいだ。瀬戸が属する3課も、上司がまさかの加藤諒だけ。狭い部屋の片隅で捜査会議を済ませている。日本のドラマ界は警察モノが多すぎるため、少しでも新奇性のある警察組織の職場像を作り出そうと各局が必死なのに、このドラマでは究極のダウンサイジング。この割愛と縮小の具合も「潔い」。

 陰惨な場面も複雑な構図もない。対象年齢5歳〜、安心してお子さんと観られます。ディズニー・ピクサー・ルパンの娘、みたいな。ま、大人のニーズに応える惹句にするならば、毒親からの卒業とか、家業を継ぎたくない子供の抵抗とか、万引き家族はよくても泥棒家族はどうなんだ、とかね。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

「週刊新潮」2019年8月1日号 掲載

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