お小遣い月3万円、専業主婦妻の実家のそばに家を建てた31歳イクメンサラリーマンの思考回路

 ごく一般的な、私(1987年生まれ)と同年代の男性は何を考えているのか。この謎を解くべく、前回は男子校出身でありながら現在はフェミニズム系の本を手掛けている編集者を取材した。しかし、彼の場合は私と同じメディア業界の人でもあり、世間のサラリーマンとは少しかけ離れている部分もあるかもしれない。

 ということで今回は、建設会社に勤める寺山裕也さん(31歳・仮名)に話を聞いた。寺山さんは主に図面を描き、建設現場に出て図面を見ながら職人さんに指示を出す仕事をしている。この日は現場帰りに取材に協力してくれた。

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■情緒不安定気味の女性に好かれがち


 寺山さんは3年前に結婚。友人の結婚式の二次会で知り合った女性の顔が好みで交際。結婚へ至った。映画やマンガなどでは結婚式の二次会で出会って交際というパターンは鉄板だが、現実にもあり得るようだ。今は2歳になる娘もいる。そしてつい最近、家を建てたばかりだという。

「職業柄、自分で図面を描いて理想を詰め込んだ家が建ったので、すごく快適に暮らしています。建設中は週に1度は自分の家の出来具合を見に行って『そこ、床暖の位置違う!』など細かく指示していたので、請け負った職人さんたちは気を抜けなかったと思います(笑)」

 同い年で既に家を購入していることにちょっとした衝撃を受けたが、たいていの場合住宅ローンは35年なので、若いうちに購入しておいたほうが老後は安心だ。そして、結婚をして子どもももうけて家も建てて、という、一昔前の多くの日本人が抱いていたであろう「理想の人生」に近いものを感じ取った。

 寺山さんは高校卒業後、理系の大学に進学。理系なので男女比率的に圧倒的に男性が多い上、勉強で忙しかった。たまに休みができると輩仲間(男性同士の仲間)で海やスノボに出かけた。基本的に女っ気はなかったものの、バイト先では彼女ができた。

 寺山さんは物腰が柔らかく優しい雰囲気をまとっている。そのためか、少し情緒不安定気味の女性に好かれることが多いようだ。社会人になってすぐの頃交際していた彼女は、リーマンショックの影響で就職ができずフリーターで、その不安を寺山さんにぶつけることもあった。

「突然不機嫌になるんです。それで、『私がなぜ怒っているか考えて』と言われ、一晩中電話をしながら考えても全く分からない。分からないまま朝を迎え、寝ていない状態で仕事に行く日が何度もあってつらかったです。それからしばらくして彼女は就職できたのですが、破局もしました」

 女性が突然不機嫌になる。これは多くの男性が疑問を持つ課題であるが、女性側は突然不機嫌になっているわけではない。ちょいちょい不満のサインを発しているものの、それを男性が汲み取れておらず、積もりに積もったものが爆発してしまうパターンが多いのではないだろうか。こういうとき、激しく言い合いにならず、真面目に一晩考えてしまうところが、彼の優しさでもあり、女性を余計苛立たせてしまう要因なのかもしれない。


■デート代は男性側が全額負担


 寺山さんは現在の若者にしては珍しく30歳までに結婚したいと考えていた男性だ。

「漠然と30までに結婚したい、子どもが欲しいという思いがありました。そんなとき今の妻と出会い28歳で結婚。特に合う趣味もないのですが、一緒にいて楽しいんです。好きな映画のジャンルも違うので、映画デートの際は、彼女が好きな映画のシリーズを事前に全部一人で観て準備を整え、完結編を二人で劇場に観に行って話を合わせました。基本的にデート代は全部僕が出していましたが、さすがにディズニーランドのチケットはそれぞれ買いました」
 
 また、寺山さんも妻も一人暮らしをしたことがなく当時はお互い実家住まいだった。実家暮らしだと夜の営みがはばかられる。月に3回はラブホテルに行き、ホテル代やガソリン代、高速代も寺山さんが持った。

 彼女と話を合わせるために映画のシリーズをチェックしたり、デート代を負担したりと、なかなか涙ぐましい努力だ。

「妻の家庭は自営業で家族の仲が良く、常に家族と顔を合わせられる環境です。だから、僕みたいなサラリーマンの生活が理解できなかったようで、最初の頃は『なぜ早く帰って来られないのか』『そんな会社辞めてほしい』とまで言われてしまい、かなり圧を感じていました。そして、この子は寂しがり屋だから実家を離れるとダメなタイプだと思い、結婚してから住んだアパートも、今住んでいる家も彼女の実家のすぐそばです。

 そして、子どもが生まれたことにより今まで僕に全て向かってきていた圧が子どもに向かっていって分散されたので、だいぶプレッシャーはなくなりました。でも、妻は専業主婦なのでやはり寂しいようで『昼間のLINEが少ない』と言われることもあります。だから、僕も上司に『家庭の事情で夜7時までには帰らせてほしい』と申し出て、今は早く帰れる日が多くなりました」

 彼は出産にも立ち会った。予定日になってもなかなか生まれず陣痛促進剤を打った。妻は想像を絶する叫び声を上げ、壮絶なお産となった。子どもの写真を「可愛いんですよ〜」と頬を緩ませながら見せてくれる寺山さんはパパの顔だった。スマホの画面の中では寺山さんによく似た女の子が笑っていた。


■通帳もカードも持たせてもらえない


 現在の寺山さんはお小遣い制だ。その額月3万円。妻がお弁当を作ってくれていた時期もあったが、今は子どもの世話で忙しいので、お昼代も含めて3万円だ。しかも、当初は手取りの10%である2万5千円スタートだったらしい。あまりの少なさに絶句してしまったが、どうやら月3万円というのはサラリーマンの間では平均的な金額とのことだ。

「今は現場が都心部なのでお昼を食べに定食屋に入ると900円くらいかかるんです。ワンコインで済ませるとなると牛丼屋くらいしかない。はっきり言ってつらいです。世の男性はどうやって3万円の中でお小遣いをやりくりしているのか不思議です。僕の場合、大半は食費に消え、後は500円玉貯金をして欲しいものを買います。こないだは貯めたお金でワイヤレスイヤホンを買いました。

 子どもができるまではこの3万円のお小遣いの中から妻へ記念日のプレゼントを贈っていました。具体的な金額は言われなかったのですが、当時彼女が欲しいと言っていたネックレスがちょうど、僕の財布の中の全財産とぴったりだったんです。どうやって僕の所持金を調べたんだろうと不思議になるくらいでした。でも、子どもができてからは、高価なものはもうやめようと、毎月1日の結婚記念日にはケーキを買って帰ります」

 サラリーマン、つらすぎる……。私の家は両親とも財布が別だったのもあり、これが正直な感想だ。そして、貴金属をねだることのできる彼の妻が羨ましくもある。私は人に何かをねだるのが苦手だ。特に貴金属なんて自分にはもったいないと思ってしまう。

 彼は仕事をこなし、なるべく残業も避けて帰宅し、子どもの面倒も見る。生まれてすぐの頃は夜泣きもあった。深夜2時に赤子を抱っこして近所を散歩して、その間に細切れ睡眠しか取れていない妻を休ませた。

「噂には聞いていたけど、これがあの夜泣きか〜と思いました。そんな生活が1年ほど続きました。いや〜、世の中の男性、すごいなと。睡眠不足で翌日の仕事がきついんですよね……」

 いや、夜泣きの世話をしていない男性のほうが多いはずと指摘すると一言、「うちはそれが許されないから」と言い放った。完全に妻の尻に敷かれている印象を受けるが、妻が財布を握っているおかげで家を建てられたと寺山さんは語る。

「妻はやりくり上手なんです。僕は独身時代、好き勝手にお金を使っていましたが、妻はきちんと貯金していました。だから一緒に暮らすことになったとき、引っ越し代や家具・家電代でほとんどお金がなくなってしまい『私はこれだけ貯めていたのにあなたは貯めてなかったの?』と怒られてしまいました。

 また以前、勝手に通帳を作ったら怒られてしまったので、結婚前にへそくり用の隠し口座を作っておくべきだったなと……。カードも持たせてもらえないので、ネットで買い物もできないし、現金がないときは本当に困りますね」


■何も考えずに受け入れる・受け流す?


 前回の原口さんへの取材では主にフェミニズムに関して尋ねたが、寺山さんは東大生による強制わいせつ事件も詳しくは知らず、先日ネット上で話題になった、レペゼン地球のDJ社長によるセクハラネタ騒動も知らなかった。おそらく、私が身を置いているメディア業界が敏感なだけで、一般的なサラリーマンは仕事と家庭のことで精一杯なのかもしれない。

 とは言え、企業と男女における問題が無関係なわけではない。建築現場には簡易トイレが設置されてあるが、お世辞にも綺麗だとは言えず、寺山さんはできるだけコンビニのトイレを使用している。圧倒的に男性が多い環境で更衣室もないので、今後女性の部下が入ってきたときの対応をどうしようか悩み中だ。

「現場はそんなに優しいことを言っていられる環境ではありません。だから、どこまで女性の部下に厳しく言っていいのか戸惑います……。また、大手の現場だと最近は『女性にも配慮しましょう』と、更衣室があったりトイレもウォシュレット付きだったりしますが、それはごく一部の現場です。女性の現場監督はまだまだ少ないです。女性を入れるならまずトイレから改善すべきだと思います」

 家庭のことは妻任せのような昭和の男性ではなく、寺山さんは世の男性以上に育児に協力的だ。家に早く帰れるよう上司に交渉したことにも驚いたが、これは昨今の働き方改革が影響している可能性もある。

 しかし、妻の実家のそばに家を建て、寂しがり屋の妻のガス抜きをしていることが、前回取材した原口さんと同じく、思考の停止や楽な方へ身を任せているようにも思える。これが悪いことだと一概には言い切れないが、何も考えずに受け入れる・受け流す態勢が個人的に引っかかった。寺山さんはこのサイクルでうまく回っているが、女性によっては「もっと考えて」と不満を持つ人もいそうだ。

 同年代の二人の男性の話を聞き、意外と保守的でありながら逃げ道を作っている傾向があることが分かった。ただし、これは私がマッチョイズムに毒されているだけかもしれない。

 同年代でたった二人の男性の話しか聞いていないため断言はできないが、男女は完全にわかり合うことはできない。だからこそ男性学も女性学も、もっと世の人は知るべきだと感じた。

 そうすれば、男女とも生きやすい世界が見えてきそうだが、それはそう簡単ではないことを、先進国なのに低いジェンダーギャップ指数、ジャーナリストの伊藤詩織さんへの性暴力事件がもみ消された件、カネカの男性社員が育休明けに転勤を命じられた騒動などが物語っている。

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姫野桂(ひめの けい)宮崎県宮崎市出身。1987年生まれ。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをして編集業務を学ぶ。現在は週刊誌やWebで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好き過ぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)。ツイッター:@himeno_kei

2019年8月30日 掲載

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