陣内孝則、松重豊、鈴木浩介… 福岡の名門私立高校が人気俳優を次々輩出する理由

 卒業生が難関大に進む割合の高い高校の特徴は、誰にでも簡単に説明できるだろう。入学者の偏差値が高く、授業内容が充実している高校ということだ。では、卒業生に俳優が多い高校の特徴は何か? 陣内孝則(61)、松重豊(56)、鈴木浩介(44)、井上芳雄(40)を輩出した西南学院高(福岡市)を考察してみると、どんな高校が俳優を生みやすいのかが浮かび上がってくる。

 ***

 バンド「ザ・ロッカーズ」のボーカルからトレンディードラマの主演俳優となり、その後も活躍する陣内孝則、『孤独のグルメ』(テレビ東京)で大ブレイクした松重豊、さまざまなドラマを確かな演技で支えるパイプレーヤーの鈴木浩介、ミュージカル界のトップスター・井上芳雄。この4人は同じ高校で青春期を過ごした。福岡市の西南学院高だ。

 第一線で活躍する俳優のOBが4人。首都圏以外の高校ではトップクラスと言っていい。

 首都圏を含めてカウントしても、芸能活動がしやすいクラス(トレイトコース=旧芸能活動コース)を設けている堀越高校(東京)と、2003年に廃止された定時制課程が芸能人に通いやすかった明大附属中野高校(同)を除くと、上位に入る。

 過去には次々とスターが出た慶応義塾高(横浜市)からは俳優が生まれにくくなっている。故人には石原裕次郎さん、川口浩さん、日下武史さんらがいるが、現役組は加山雄三(82)、石坂浩二(78)、石原良純(57)、平沼成基(39)くらい。アイドルにまで範囲を広げても「嵐」の櫻井翔(37)が加わるだけだ。

 同じく、かつては故・フランキー堺さんや故・小沢昭一さん、故・加藤武さん、故・神山繁さん、故・仲谷昇さんらを輩出した麻布高(同)も、今はナレーションの名手でもある久米明(95)くらいしか見当たらない。

 一方、西南学院高OBの活躍はめざましい。なぜなのか?

 まず西南学院高の全体像を見てみよう。中高一貫校であるものの、高校からの入学も可能で、1学年の定員は400人強。男女共学だが、それは1994年からで、陣内、松重、鈴木の時代は男子校だった。

 普通科のみで、高校入試の偏差値は70だから、トップレベルの進学高と呼べる。卒業生はほぼ100%進学する。

 2019年度入試では28人が地元の九州大に合格。一方で東京志向も強く、同年度入試では早大と慶大に計27人が合格したのを始め、国公立大や有名私大にも多数合格している。また、九州屈指の名門私大で系列校である西南学院大にも毎年150人程度が合格する(いずれも同校ホームページのデータより)。

 進学先を東京の大学にする卒業生が多い理由を、陣内や松重とほぼ同時代に西南学院高で過ごした50代OBが語る。

「だいたい1学年の半分が東京の大学に進みました。『好きなことをやるなら、同じ志を持つ者や情報が集まっている東京がいい』と考える生徒の上京が目立った。ウチの学校は制服こそあるものの、何事にも自由で、家でやらなくてはならない課題もなかったから、高校の時点で勉強以外のやりたいことを見つける生徒が多かった。それを思い切りやるなら、東京の大学がいいというわけです」(西南学院高の50代OB)

 高校生の時点でやりたいことが決められる自由や時間があるのは、大きなポイントだろう。

 陣内は高校時代から5年間、ザ・ロッカーズのボーカルとしてライブハウスのステージに立っていた。それを見た音楽プロデューサーにスカウトされ、上京を勧められた。

 在学中にライブハウスのステージに立ってはいけないと決められている高校もある。また、課題や補習に追われ、バンド活動どころではないという高校もあるに違いない。

 その点、陣内は恵まれていた。

「私は陣内さんより数年後輩ですが、教師が授業中に『うちの学校にいたころの陣内君は格好良かった』という思い出話をしてくれたことがあります。非難することはなかった」(同・西南学院高の50代OB)

 松重の場合、高校時代は映画監督を志していた。福岡市からは『高校大パニック』で映画界に衝撃を与えた石井聰亙(現在は岳龍、62歳)らが出ており、彼らに刺激を受けたからだったという。

 進学先の明治大文学部演劇学専攻でも映画を学ぶつもりだったが、上京してから見た「天井桟敷」などの芝居が面白く、進路を俳優に移す。進む道は変わったが、表現者になることは高校時代から決めていた。やはり進路を決める自由と時間があった。

 同じ地方の進学高でも、教師たちが進学実績を気にして、地元国立大への進学を強く勧める高校は少なくない。

 また、「とにかく安定を」と自分の考えを押し付け、やはり地元国立大を推す教師もいる。生徒の価値観や個性を押し潰してしまうような高校からは俳優が生まれにくいだろう。

 鈴木は高校時代には陸上部に所属し、短距離走に打ち込んだ。インターハイ(全国高校総合体育大会)に出場するほどの選手だったが、青山学院大経営学部に入学すると、演劇に傾倒し、休学。俳優養成所の「青年座研究所」に入りした。

 大学を休学してまで俳優養成所に入るケースはそう多くはないだろう。それを許す親も少ないのではないか。

 再び西南学院高OBが語る。

「福岡市は自営業者の割合が高く、そのせいか親も子も『自分ができること、やりたいこと』を突き詰めようとする人が多い。だから、やりたいことをとことんやるのなら、休学したっていいと考える人も決して珍しくないと思う。人と違ったことをやりたがらないサラリーマンの多い地域とは考え方が違う」(同・西南学院高の50代OB)

 つまり、西南学院高のある福岡市の気風が保守的でないのも、同校出身者に俳優が多い理由と結びついているというわけだ。

 実際、同校出身者以外でも福岡市出身の俳優・女優、ミュージシャンは多い。

 俳優と女優は「海援隊」のリーダーでもある武田鉄矢(70)、池松壮亮(29)、牧瀬里穂(47)、橋本環奈(20)ら。タレントはタモリ(74)、カンニング竹山(48)たちがそうだ。ミュージシャンには財津和夫(71)、甲斐よしひろ(66)たちがいる。


■地頭の良さ


 西南学院高の話に戻る。井上の場合、高校時代は脇目も振らずにダンスやピアノのレッスンに没頭したという。卒業後は米国に1年間滞在し、本場のミュージカルなどを見た後 、東京芸大学声楽科へ。

 そして、在学中の2000年、ミュージカル「エリザベート」の皇太子ルドルフ役でデビューを飾ると、これが大評判となり、たちまちスターとなっていく。

 井上もまた高校生にありがちな道を歩いたとは言えない。それを許す西南学院高から俳優が生まれやすいのは自然なことなのかもしれない。

 また、進学高であるところも大きなポイントに違いない。俳優にとって大切なのは「一声、二顔、三姿(1番目は声で2番目は顔、3番目は姿)」と古くから言われるが、演出家たちは「なにより大切なのは頭の良さ」だと説く。

 学歴が問題なのではない。むしろ学歴は関係ない。問われるのは「地頭」の良さだ。

 なぜ、地頭の良さが重んじられるかというと、脚本を深く理解し、演じる役の人物像をつくり上げるには、考える力が求められるからだ。特に容姿だけで勝負できなくなる中年期以降は、地頭の良さが俳優の良し悪しを左右すると言っても過言ではない。

 この点でも西南学院高は俳優を生むのに適していると言えるだろう。

 陣内、松重、鈴木は愛校心を隠さない。陣内はクイズ番組などで学校自慢をする。松重と鈴木は今年5月に放送された日本テレビ系の単発番組で母校を笑顔で訪れた。

「松重さんは同窓会に来たこともあります。1人のOBとして。忙しいためか、2次会からの参加でしたけれども」(同・西南学院高の50代OB)

 俳優以外も同校出身者は政治家、官僚、学者、財界人、芸術家などバラエティーに富んでいる。

 もしも4人がスキャンダルを起こしてしまったら、それを取材する人までいる。芸能リポーターの井上公造氏(62)もまたOBなのだ。

高堀冬彦(ライター、エディター)
1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長。2019年4月退社。独立

週刊新潮WEB取材班

2019年9月7日 掲載

関連記事(外部サイト)