少年野球「上手な選手からつぶれていく」現象は一体なぜ起こるのか

「今の時代、子どもたちは、どっぷり野球漬けになるか、いっさい野球に触れないままか、ふたつにひとつなんですよね(笑)」??。

 少年野球をテーマに取材する中で、ある人から聞いた言葉である。

 今は公園でボール遊びが禁じられている時代である。野球めいた遊びをみんなでやって、その中から本格的に進む子がいたような、昭和の流れはもう望めないようだ。

 野球をするにはまずチームに入る! そこで野球にすべてを捧げ、世間の常識から少し(いや、かなり?)離れた世界で厳しい鍛練を積む。こうしてできあがるのが野球漬けの少年たち……ということだろう。

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■少年野球の課題とは


「少年野球のチームに入るためにはある意味、覚悟が必要になってしまいました」

 首都大学野球連盟1部リーグの筑波大学硬式野球部監督の川村卓さんは、「少年野球の課題って何でしょう」と尋ねる筆者にまずそうに語るのだった。

 野球部の指導のみならず、野球を科学的に捉える「野球研究室」を率いる川村さんは、 “パパコーチ”風情が会えるはずもない人である。だが少年野球に向けた提言もしていることもあり、今回取材に応じてもらったのだった。

 少年野球の子どもは土日を練習・試合に費やし、他の習いごとやスポーツとの掛け持ちは至難である。親はお茶当番や各種催事の手伝いのような“しきたり”に順応しないといけない。覚悟なしに入った筆者からすると、「そんなことまでやるんですか?」と感じるしきたりも少なくない。

「野球の入り口に高いハードルがあって、さらに『勝つためにはこうしないと』という理屈で、それぞれのチームの“原則”が増えている気がします。そこに疑問を感じます」(川村さん)

 サッカーのように魅力あるスポーツが普及してきている以上、覚悟をもって少年野球に入る家庭が減っても、まったく不思議はない。この野球人口減少に関わる問題はいずれ考えてみたい。

 さて、取材ではまず、川村さんが考えている、野球の「段階的な指導」について聞いてみた。

■幅を利かせる「習うより慣れろ」式


“パパコーチ”としてグラウンドで練習の手伝いをしながら感じるのは、「キャッチボールは野球の基本」といった古来ある(?)“基本”を除けば、少年野球で子どもが指導されるのは、状況判断に関わることがほとんどじゃないかということである。

「1死二、三塁、ゴロを捕ったセカンドはどこに送球するか」??そんな話である。

 息子はそういう練習を楽しそうにやっているので文句はない。ただ、まだ小学生なのだから「投げる・打つ・捕る」という基本的な能力を高めていく指導がもっとあったらいいなと期待するのである。

 なぜか? 野球らしい動きをまだできていないような低学年の選手に求めるものも、状況判断だからである。

 九九を教える前に、かけ算の応用問題を解かせるようなものかなと思う。

 昔風の「習うより慣れろ」式なのかもしれないが、筆者が違和感を覚えることのひとつなのである。

 ちなみに息子は入部当初、キャッチボールでボールをロクに捕れず、筆者は「何でこんな簡単なことが!」と憤ってしまっていた。

「正面で捕れ」という指導者の声が飛んでくると、親として変に情けなくなったりもした……それができりゃ、苦労はないよ、と。

■逃げる、よける、手に当てる


「野球では、大人でも子どもでも、ほとんど同じ練習をします。これは野球以外のスポーツから見たらすごく奇妙なんです」

 と川村さん。

 ウォーミングアップ、キャッチボール、トスバッティング、フリーバッティング、シートノック……。

 筆者が田舎の高校でやっていたことと同じことを、いま小学生の息子がやっている。

「多くのスポーツで、子どもの発達や世代に応じて、『身に付けやすい技能はこれで、必要な練習内容はこう、こんなことをしたらケガにつながる』といったものが示されています」(川村さん)

 典型的なスポーツのひとつがスキーで、年齢や技術レベルによって指導が体系化されているとのこと。

 そうだ、初心者は必ず「ボーゲン」をさせられるイメージがある。

「でも野球には、そういう体系化された、段階的な指導法がないまま今日に至っている感じです」

 ダメじゃん、野球。

 しかし「キャッチボールは野球の基本」なら、ある。

「でも子どもたちにとって一番むずかしいのがキャッチボールなんですよ」

「低学年だと、キャッチボールのときに親が後ろでボールを拾いまくってますよね」

 キャッチボールが成立しない理由は簡単。捕球ができないからなのだ。

 では、野球研究室が開発した「段階的な指導法」で捕球の技術を向上させるとなると??。

「まずボールから逃げるんです」

 使うのはゴムやスポンジのボールでいいという。

「ボールを自分の方に投げてもらって、子どもは逃げる。意識して逃げるときは、だいたいボールをよく見るものなんです」

 確かに!

“パパコーチ”として観察するところでは、初心者の子どもはこんな感じ。捕ろうとするものの、固いボールが怖いのか、目を半ば背け、グラブを伸ばして体から離れた位置で捕ろうとする。

「最初は体全体で大きく逃げて、小さな動きでよけるように仕向けます。それから『よけずにボールを手に当ててみよう』と変えていきます」

「手に当てる」はもう捕球の形じゃないか!

 筆者の息子が所属するチームでは、体の遠くにグラブをのばして捕球しようとする選手に、監督・コーチが叱声を飛ばす。

「正面で捕れ!」

 でも怖いのだから逃げる格好になっても仕方ない。それならいっそ逃げて、よく見る技術を養う方が良いのだろう。それに「逃げる、よける、手に当てる」ならゲーム性もある。

 うーん、これも「野球研究」の成果であるわけで、「正面で捕れ!」よりは楽しめるはずである。

 こんな感じで、楽しみながら段階的に成長する仕組みが普及しておらず、いきなり大人とほぼ同じの練習で鍛練に入るような世界だから、敬遠され、野球人口の減少を招いているのではなかろうか。筆者は息子が所属するチームを思う(1学年で1チームをつくれないほど人手不足の??)。

■少年野球が「苦行」になっている


 とはいえ、なぜ野球には、段階的な指導方法が存在しなかったのだろう。

「少年野球、中学、高校と、そのカテゴリーごとに頂点を目指すことが至上命題になっているからでしょう」(川村さん)

 頂点を目指して土日の練習と試合でヘトヘトになるまでがんばる。

 がんばり続ける毎日に、「このハードな野球の先に何があるんだろう」と筆者などは思ってしまう。

「皆さん、子どもをプロ野球選手にするためにやっているんですかねえ」と、周囲の親の熱心さに引き気味の“パパコーチ”もいる。

 少なくとも子どもが少年野球をやっている親の多くが「高校まで野球を続けて甲子園をめざしてほしい」と思っているんだろうな、そのために小学校から強いチームで勝たないといけないと考えているのかも。

「でも」と川村さんは言う。

「そういうことと、野球選手としての将来はあまり関係ありません。全国大会の常連的な少年野球のチームを知っていますが、そこの選手たちは中学校ではあまり野球を続けないそうです。小学生でも毎日のように練習があって、頭は全員坊主。そういうチームでやっていると、お腹いっぱいになって、中学校でやろうという気持ちが起こらないのかもしれません」

 能力の高い選手もいるだろうに、野球界にとっての損失である。筆者は「腹六分目」を大事にしているという春日学園少年野球クラブ(つくば市)の岡本嘉一代表の考え方を思い出した。

「損失といえば、上手な選手からつぶれているということです」とも川村さんは言う。

 いいボールを投げる選手はピッチャーに指名されて試合で投げる。公式戦で連戦になったら連投で無理を重ねてケガをする。

「いや、そんなことでつぶれない強靭な子が、やがて一流選手になるんだ」といった意見もあるかもしれない。

 でも、野球のすそ野を維持する意味では、やっぱり損失には違いないのである。

 川村さんは、「少年野球の現場を見ていると、“苦行”になっているようにも感じます」とも言う。「でも長く続けるためには、小学校の段階で野球好きになることが絶対条件です」

 大学までプレーし、プロ野球選手も輩出してきたチームの指導者の言葉だけに、重みを感じる。実際に好きで楽しんでいる選手は、長く続けられるという。

 言い換えれば、親が「やらせる」式のことでは野球を続けることは、無理なのだろう。

 川村さんは「大学の野球部でも楽しそうにプレーしている選手はいますし、小さい頃からハードに野球をしてきた選手の中には、親の期待もあるからと続けている選手もいます」と明かす。

 前者の自分で楽しんでいる選手の方が、幸せだろうなあと筆者は思うのである。

 だからこそ??。

「目先の勝ちに、そんな価値はないことを親御さんたちに理解してもらいたいですね」と川村さんは言う。

 目先の勝利のために野球が苦行になって、野球自体に感じたはずの楽しさを忘れてしまっては意味がない。


■「食トレ」の弊害


 取材の後半、川村さんの大学時代の後輩で、プロに進んだ投手の話題になった。その人は高校時代は控えで公式戦登板も少なかったようである。ところが筑波大学で大幅に成長を遂げ、三振を奪取しまくってドラフト1位でプロに進んだ。

「大学に入りたての頃に見たときは、ボールは130キロそこそこでした」

 昨今130キロは高校生でも珍しくないスピードだろう。しかし、翌年には140キロを超すボールを投げていたらしい。

 指導者としてこんなふうに川村さんは話す。

「私たちの野球研究室では、ボールを速くする方法はいくらでも知っています。急激に上げることもできます。でもスピードが上がった2週間くらいあとで、その選手が『痛い』と言うんです。メカニクス(体の動き)は向上したけれど、体の成長が追いついていないからケガするんですね。“伸びどころ”は、選手ごとに必ずあって、指導者が個々の選手の身体を見て、徐々に上げていくのが良いのです」

 大学生でもそうなのだから、子どもならもっと気をつけないと。身体の成長に見合った段階的な指導が不可欠なのだろう。

 たまに息子のチームを訪ねてくる中学生たちがいる。OBである。上半身はがっちり、下半身もパンパンに膨れ上がっている。硬式のボールを使う「シニア」で野球をやっていて、高校は強豪校に進学する感じである。

 人づてに聞いたところだと、そういう中学生たちがいるチームでは「食トレ」といって、練習の合間の弁当のご飯は3合がマストで、その重さを毎回チェックされるとか。そうやって大量に食べて、体を大きくするらしい。

「“3合飯”みたいな食トレをやってしまうと、身体が早く成長してしまう印象があります」と川村さんは話す。

「成長して、そこで止まってしまう。シニアなら15歳くらい。身長は普通18歳くらいまでは伸びるものなのですが。食トレで急激に大きくなるので、進学先となる高校側から見たら魅力的に見えるのかもしれません」

 しかし大学や社会人、さらにはプロもある以上、野球は高校より先のことも見据えて指導されるべきなんじゃないか。

「僕らは選手の成長を予測して指導します。全体的には24、5歳くらいで花が開くイメージです。心身ともに充実するのがそのあたり。それまではずっと成長です。その前のどこかで伸ばしすぎてしまうと、成長が終わってしまうんです」

 筆者は高校野球のトップレベルあたりを目指しているのだろうか、ハードに練習する少年野球チームのことを思い浮かべた。大会に行くと、そうしたチームがたくさんあることに驚く。午前10時からの試合に備え、6時半くらいから練習をしている感じなのである。

 そして、初心者(たぶん1、2年生)も上級者(5、6年生)も似たような練習をしている。その光景からは、段階的な指導は感じにくい……。

 大人がいかに子どもの成長を我慢強く待てるかということなのかなと思う。頼りなげにキャッチボールをしていた息子も、丁寧に見れば大きな進歩を見せているのである。キャッチボールが普通にできて、バットでボールをとらえて飛ばせるようになって、と。

 子育ては我慢の連続だけれども、「段階的な指導」の考えに接してみて、同じ考えでグラウンドに立ちたいと心底思う“パパコーチ”なのであった。

池谷玄(いけたに・げん)
四十路のライター。趣味はプロ即戦力候補が格安で見られる大学野球の観戦。球歴はソフトボールから少年野球、中学野球部、高校の野球部(硬式)まで。最近好きな選手は福岡ソフトバンクホークスの柳田悠岐選手。

2019年9月21日 掲載

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