多部未華子の魅力「これは経費で落ちません!」第9話で見せた絶品演技

 若手女優の中で屈指の演技派・多部未華子(30)が主演中のNHKドラマ10「これは経費で落ちません!」(金曜午後10時)が、9月27日に最終回を迎える。多部が石鹸メーカーのアラサー経理部員に扮している話題のオフィスドラマ。最終回では主人公の恋の結末と会社の将来が明らかになる。

 若き演技派女優・多部未華子が、また代表作を増やした。9月27日が最終回の「これは経費で落ちません!」が好評を博した。

 これまでの9回の放送の視聴率は5〜7%台程度(ビデオリサーチ調べ、関東地区)とパッとしない。だが、近年は少子高齢化の影響で、中高年以上が見ない番組は視聴率が伸びにくい。サラリーマン、OLがメーンターゲットと思われるこのドラマへの支持を、視聴率が明瞭に反映しているとは思いづらい。

 事実、オリコンの情報誌「コンフィデンス」のドラマ満足度調査・ドラマバリューでは、7月期ドラマ(7〜9月)で2位。SNSでも話題で、7月26日から9月21日までにツイッターで9回もトレンド入りした。

 ちなみにドラマバリューの1位は同じ時間帯で9月20日まで放送されていた「凪のお暇」(TBS)。7月期のドラマは話題作のドラマが重なった。

 最終回を前にストーリーを簡単に振り返っておこう。多部が扮している主人公は森若沙名子。石鹸メーカー「天天コーポレーション」の経理部員で30歳だ。経理部員というと、堅物のイメージがあるが、沙名子も例外ではない。勤務を終えるや真っ直ぐ帰宅し、あらかじめ決めておいた献立どおりに自炊する日々。30歳になるまで男性との交際経験がなかった。仕事は抜群にできる。数字に滅法強く、伝票のミスはたちどころに見抜く。

「ルールにのっとり、数字を合わせるのが経理の仕事です」(劇中の沙名子の言葉)

 ルール破りの伝票が提出されると、たとえ相手が幹部社員であろうが突き返す。もちろん、架空請求などの不正は決して許さない。それが会社の利益を守ると考えている。ただし、「ウサギを追うな」がモットーでもあり、経理の領分を逸脱するような余計なことまではしない。

 そんな沙名子に変化をもたらしたのが営業部の若手エース・山田太陽(重岡大毅、27)の出現。猛アタックを受け続け、付き合うように。9月20日放送の9話ではついにプロポーズをされた。

「帰ってきたら毎日、沙名子さんがいて、こんなおいしいご飯が食べられたら、俺、幸せだから。沙名子さん、結婚してください!」と、太陽から告げられた。このあとの沙名子の反応が絶品で、多部らしい名演を見せてくれた。

 沙名子は「えっ、えっ?」と訝るばかり。喜ぶわけではないし、驚くのとも違った。喜怒哀楽といった単純な感情表現とは違い、簡単にできる演技ではない。

 その難しい演技を多部がどう行ったかというと、最大のチャームポイントである目を駆使した。多部は「目千両」の女優だ。目だけで喜びや怒り、悲しみから、怯え、驚き、嘆きまで表現できてしまう。その中でも、とくに絶品なのは、相手を睨みつけるときの目だろう。上目遣いで正面を見据え、三白眼のようになる。それが見る側を引き付ける。相手を睨む表情がここまで魅力的な女優はほかに思い浮かばない。

 さて、最終回で沙名子はプロポーズを受けるのだろうか。返事をするとき、どんな表情を見せるのだろう。多部の目に注目だ。最終回では「天天コーポレーション」が同業他社によって買収されてしまうのかどうか、さらに、経理業務の外注化により、経理部が消滅するのかどうかも明らかになる。

 話題作になったことから、この作品で多部が女優開眼したような評が一部にあるが、それは違うだろう。多部の評価は新人時代から一貫して高い。むしろ、多部ほど順調な女優人生を歩んできた人はいないくらいだ。2005年の女優デビュー以来、ブランクもスランプもない。

 05年度にはブルーリボン賞新人賞を獲得。10年度には読売演劇大賞優秀女優賞を獲り、15年度には日本映画批評家大賞の主演女優賞に輝いた。映画監督でもある俳優の奥田瑛二(69)と12年、舞台「サロメ」で共演した際には「彼女は天才。頭の良さ、体の切れ、感性が凄い」と絶賛された。若いころから演技がうまく、天才肌の女優なのだ。

 また、多部はよく童顔と言われるが、顔が小さいだけではないか。とくに顎が小さい。それは本人も認めている。

「顎の成長が遅い。歯も未発達で、左右の犬歯の間に普通は4本あるのに、私は3本しかない」(16年、映画「あやしい彼女」の初日舞台挨拶での多部の言葉)

 だから、役によっては年齢相応の顔を見せる。ときには息を飲むほど艶っぽい。綾野剛(37)と激しいベッドシーンを演じた「ピース オブ ケイク」(15年)のときもそう。生々しいほどの色香を漂わせていた。いろいろな顔を演じ分けられるのだから、本当にうまい女優なのだ。

 生まれも育ちも東京都西東京市。同市から近い名門の東京女子大を卒業した。推薦入学だった。女優をやりながらも高校には極力通い、成績も良かったからだ。ただし、その後は仕事が忙しくなり、大学卒業までには6年かかった。

 地元愛は強く、今年5月には同市の「保谷こもれびホール 小ホール」で本人企画の30歳記念特別公演「MIKAKO30〜多部の素〜」を行った。応援してくれた地元のファンに感謝するためだ。「これは経費で落ちません!」でも共演中の吹越満(54)との2人芝居をやった。そのときのコメントが、現在の多部の心境の一端を表しているのだろう。

「多部未華子は2019年1月25日に30歳を迎えました。15歳からお仕事をはじめ、山あり谷ありでしたが、なんとかここまで運よくやってこれました(中略)後にも先にも、わたし、これやりたいです!と自ら意見を言ったのは、“『探偵!ナイトスクープ』に出たい”と言ったことと“30歳。応援してくださった方に直接お会いしたい”。この2つだけです」(「MIKAKO30〜多部の素〜」公演決定時の多部のコメントより)

 素顔は飾り気のない女性なのだろう。ちなみに大阪・朝日放送の『探偵!ナイトスクープ』に出演する夢のほうは、18年5月に見習い秘書役で登場してかなえた。

 実力がある上、女優らしからぬ個性も魅力的な多部。「これは経費で落ちません!」が終わるのはファンには残念だろうが、今後もスケジュールに空白はない。現在は三浦春馬(29)との共演映画「アイネクライネナハトムジーク」が公開中。等身大の男女の10年愛が描かれている。この作品での多部は美しい大人の女性で、ときに憂いを含んだ表情も見せる。

高堀冬彦(ライター、エディター)
1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長。2019年4月退社。独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年9月27日 掲載

関連記事(外部サイト)