逮捕されない徳井、逮捕された青汁王子……“脱税”における刑事事件化の基準とは

逮捕されない徳井、逮捕された青汁王子……“脱税”における刑事事件化の基準とは

チュートリアルの徳井義実

 東京国税庁に約1億2000万円の申告漏れ等を指摘されたお笑いコンビ、チュートリアルの徳井義実(44)。この問題で、番組降板などの社会的制裁を受けているものの、逮捕や起訴はされていない。

 青汁王子ら、過去に脱税で逮捕された面々と何が違うのか。専門家の意見を聞いてみた。

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 徳井の申告漏れが明らかになったのは、10月23日のこと。2016年から18年までの3年間、吉本興業から徳井の個人事務所「チューリップ」に支払われた出演料など約1億1800万円が申告されていなかったという。さらに12年から15年までの4年間は個人的な洋服代や旅費を会社経費として計上したことを、約2000万円の所得隠しと指摘された。個人事務所「チューリップ」設立以来、一度も期限内に会社の所得を税務申告していなかったという話もある。

 これだけのことをしておきながら、なぜ徳井は逮捕されないのか。脱税事件に詳しい、霞ヶ関総合法律事務所の古橋将弁護士に話を聞いた。

「刑事告発されるには一定の基準を満たすことが必要とされていますが、報道を見聞きする限り今回は、それに達していません。それが大きな原因だと思われます」(古橋弁護士)

 脱税で逮捕される場合、ある一定の手続きがある。租税犯罪の調査を専門に行う国税局査察部による調査を経て、検察に告発があれば、脱税として刑事事件に発展。必要に応じて逮捕・起訴されることになる。今回の場合、徳井が経営する個人事務所「チューリップ」に査察部の調査が入ったという情報はない。したがって、その先の手続きとなる告発や、検察による捜査、逮捕、起訴などもないのだろう。

 では、査察部の調査が入る基準とは、どのようなものなのだろうか。

「法律で決まっているわけではありませんが、査察部が取り扱う案件は『所得隠し』が1億円を超えるものといわれています」(古橋弁護士)

 混同しがちだが、一般的に使われている「申告漏れ」と「所得隠し」とでは意味合いが異なる。
 「申告漏れ」は所得のうち必要な申告がされていない部分があること、「所得隠し」は申告漏れのうち仮装又は隠ぺいに基づいているとして重加算税が課された部分があることをさす。

 徳井の「申告漏れ」は約1億2000万円あるが、「所得隠し」は約2000万円とされているため、上記基準に達していない。だから徳井の件で査察部は動いていないのだ。

 ではなぜ、「所得隠し」でないと査察部は動かず、告発もされないのだろうか。

「租税犯罪の場合、脱税の故意(税金の支払いを免れる意図)が必要です。単純な申告漏れでは、ミスだった可能性や後から支払うつもりだったという可能性を排斥できず、裁判で故意が認定されない可能性があるため、査察部や検察は仮装又は隠ぺいを伴う『所得隠し』を取り扱うのです」

 査察部や検察は、証拠に基づいて罪を追求する必要があるため、脱税の故意を認定しやすい「所得隠し」を事件として取り扱う傾向にあるようなのだ。

「吉本興業の発表によれば、徳井氏の所属するチューリップ社は、2012年から2015年までの経費のうち否認された約2000万円に対しては重加算税が課されています。2000万円では基準に届きません。また、2016年から2018年の3年分の申告漏れ金額約1億1800万円については無申告加算税が課されているのみで、重加算税は課されていません。国税局は、無申告分については、仮装又は隠ぺいを認めることができず、脱税の故意を立証することもできないと考えたのでしょう」(古橋弁護士)

 会見で徳井は「自らの怠慢」「ルーズだった」と主張したが、何度も通達を受けておきながら、何年にもわたって申告しないことは「悪質性が高い」と判断されないのだろうか。

「脱税は、発覚を防ぐために何らかの工作をすることが通常です。その代表的な例としては売上を減らす、架空経費を計上する、経費を水増しする等が挙げられます。そういった積極的な工作をすると、脱税の故意が認められやすくなります。税金を全く支払わない無申告はもちろん悪質です。そのため過少申告よりも高い加算税が課されます。

 しかし、今回のように積極的な工作行為を伴わない無申告の場合、発覚しないことは通常考え難いため、『税金の支払いを免れようとは考えていなかったが、ルーズで支払いを怠っていただけ』という徳井氏の主張を排斥して、脱税の故意を認定することが難しかったのだと考えます。

 何度も通達を受けながら申告しないのですから、脱税の故意があったと捉える方も多いでしょうが、査察部や検察官は犯罪を証明しなければならないので、どうしても慎重になりがちです」(古橋弁護士)


■1億円を超えなければ“セーフ”?


 この点、今年2月に逮捕・起訴された青汁王子こと健康食品会社「メディアハーツ」元社長の三崎優太(30)の脱税額は約1億8000万円。架空の広告宣伝費を計上するなどの工作を行い、2年間で約5億1300万円の所得を隠し、約1億4000万円の法人税と約4000万円の消費税の支払いを不正に免れた。古橋弁護士のいう所得隠しが1億円という基準以上であることは間違いない。その後の裁判では、懲役2年、執行猶予4年の有罪判決が下っている。

 では、所得隠しが1億という基準を満たさなければ、告発されない……脱税事件化はされない、と考えてよいのか。

「法律で決まっていることではないので、絶対に告発されないとは言い切れません。脱税に対しては年々厳しい姿勢が取られています。以前は脱税の公訴時効は5年間で、調査に1〜2年かかることから3年間で1億円というのが1つの基準と言われていました。しかし、法改正により、『偽りその他不正な行為』を用いた過少申告ほ脱罪の公訴時効は7年間と延長されました。今後、基準が下がることもあるかもしれません」(古橋弁護士)

 徳井は修正申告し、追徴課税や重加算税約3700万円を支払った。これで、今回の問題は解決となるのか。

「吉本興業の発表によれば、本件では国税局及び税務署の指示にしたがった結果大部分を申告漏れとして済ませているとのことですので、脱税として刑事事件になる確率は低いでしょう。ただし、脱税とされなくとも単純な無申告自体が刑事罰を受ける対象です。また、査察制度は、脱税に対し厳しく当たることで、納税を適切に行わせることを目的の一つとしています。徳井氏のような影響の大きい著名人は特に油断できません。仮に徳井氏がまた無申告を繰り返したり、他の不正が発覚したりした場合には刑事事件となることもあり得ます。国税局としても、脱税に甘い態度を取っていると非難されるのは避けたいはずです」(古橋弁護士)

 今回の件で多くの仕事を失った徳井。再び税務調査のターゲットになるほどの収入を得ることができるのかは、彼自身の努力次第というところだろう。

森下なつ/ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2019年11月17日 掲載

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