矢沢永吉が歌手生活で初の公演中止 ファンが証言“70歳ロッカー”の知られざる肉体

矢沢永吉が歌手生活で初の公演中止 ファンが証言“70歳ロッカー”の知られざる肉体

矢沢永吉

 喉がちぎれてもいいからやりたい――。そんな悲痛な思いが、矢沢永吉公式ホームページに掲載された。11月16日からスタートしたコンサートツアー『ROCK MUST GO ON』全13公演のうち、24日の福岡公演と27日の浜松公演が立て続けに中止となったのだ。「喉の不調」によりドクターストップがかかったそうだが、彼が公演を中止したのは、47年間の歌手生活で初のこと。70歳現役ロックスターの身に今何が起きているのか? ライターの浅野暁氏が迫った。

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 拙著『1億2000万人の矢沢永吉論』(双葉社)では、熱狂的な矢沢ファン18名にインタビューした。その多くが50代のファンであり、「永ちゃんがいつまで歌い続けられるか」が、彼らにとって一番の心配事であることが印象深かった。中には矢沢が引退する日を想像しただけで、目に涙を浮かべる人もいたほどだ。彼らに共通する思いとしては、矢沢が自ら引退宣言することは絶対にないにせよ、年齢的に今までのように音楽活動ができなくなるのではないか……ということ。実際に2017年のツアーが26公演だったのに対し、2018年は5公演のみと大幅に本数が減ったこともある。

 しかし、そんな杞憂を蹴飛ばすように、矢沢は7年ぶりとなるニューアルバム「いつか、その日が来る日まで…」を9月に発表し、創作意欲がまだまだ衰えていないことを見せた。この新譜もオリコン週間ランキングで初登場1位に輝き、小田和正の68歳時の最年長首位記録を矢沢は70歳に更新した。これを引っさげ、70歳現役ロックスターとして挑んだ全国ツアーだったが、まさか47年間の歌手生活で初めての公演中止になるとは……。さすがの永ちゃんも年には勝てないのか?

 11月24日・27日の2公演が中止された後、30日の仙台公演が開催されるか否かに注目が集まった。もし仙台公演も中止ということになると、残りの公演の開催も危ぶまれ、さらには声帯ポリープや喉頭がんなど手術が必要な病状の可能性も出てくるからだ。しかし、結果は30日・1日の両日ともに仙台公演は開催され、ファンはほっと胸を撫でおろした。

 これまで矢沢のライブを400本以上観てきたというファン歴43年になる男性ファン氏は、初日の富山公演を観た後、仙台公演以降の8公演すべてを観るつもりだったが、矢沢の復活を信じながら、やはり不安な気持ちもあったという。なぜなら長年のファンとして、矢沢の喉の調子が万全でないことを感じていたからだ。

「初日の富山公演を観たとき、正直なところ、声が出てないな……って思ったんです。たまに永ちゃんの声が嗄れているときもあるけど、それにしても声が伸びないし、声量が小さくて迫力に欠ける感じでした。でも、70歳の今も元気に動き回っていたから、それほど気にしなかったんです。ところが、ツアー4日目の福岡公演が中止になって、永ちゃんが喉の不調で休むなんて、よほどのことなんだろうなと思いましたね。行く予定だった浜松公演が中止になったときは、それこそ、『いつか、その日が来る日まで…』じゃないですけど、ついに“その日”が来たかと一瞬思いましたよ。仙台公演が開催されて、ひとまず良かったなと(笑)」


■仙台公演で矢沢が完全復活!


 実は、ツアー前に矢沢は『Rolling Stone Japan vol.08』のインタビューで、「喉も筋肉ですから、確実に衰えてきますよね」と語っていた。それまで出ていたキーが出なくなり、声が伸びなくなってきたことを自分でも感じていたらしいのだ。そして、70歳を過ぎて現役を続けることは、「大変っていうより面白い」と話した。さすがに70歳という年齢は、矢沢にとっても何が起こるかわからない未知の領域なのだろう。

 今のところ風邪やインフルエンザ、喉の病気といった情報はない。やはり、長年酷使してきた声帯が年齢とともに衰え、回復力が弱まっていることが考えられる。6日間の休養をとって開催された仙台公演では、矢沢の喉の調子はどうだっただろう? 男性ファン氏に仙台公演の模様を聞いた。

「絶好調のときに比べると本調子ではないかもしれないけど、初日の富山公演よりはだんぜん良かったです。ただ、仙台公演はいつもより曲数が少なくて、オープニングの2曲も激しい曲ではなく、ミディアムナンバーに変えていました。アンコールも『止まらないHa〜Ha〜』の1曲だけだったので、できるだけ喉の負担を少なくしたんだと思います。ファンの間では、永ちゃんが入院したという噂や、いろんな憶測が飛び交ってましたから、仙台公演が開催されてファンはみんな安心したと思います。我々も50代になって体の無理が利かなくなってますけど、永ちゃんは70歳ですから回復力が弱くなっても仕方がないですよ」

 70歳にして初の公演中止を経験し、本人が誰よりもショックを受けていたようだ。MCもこの話題が中心だったという。

「永ちゃんは登場した瞬間から涙ぐんでいるように見えました。やっとステージに戻ってこれたという安堵感と、ファンの声援がうれしかったんでしょうね。よく涙ぐむ人ではあるけど、仙台公演では、始終、目に光るものが見えましたね。MCでは、ポール・マッカートニーやミック・ジャガーの名を挙げて、みんな同じようなことがあったと思うんだよね、と話してました。この6日間、俺、どうなっちゃうんだろう? ってすごくビビっていたそうです。これまで会場拒否や、去年の台風被害で公演延期になったことはあったけど、自分から公演に穴を空けたことが一度もなかったわけだから、不安になるのもわかりますよね」


■47年間一度も休まなかったプロ根性


 今回の公演中止によって、むしろ男性ファン氏は、47年間一度も休まずライブをやり続けてきたことが、驚異的なことだったと気付かされたと話す。何しろ30代の頃の矢沢は、110日間で80本ものライブをこなすほどで、これまでのライブ本数は2000回を超える。武道館公演142回という最多公演記録で知られる矢沢だが、そうした大きな会場の記録だけでなく、どんな小さな会場でも一度も休まず続けてきたライブ皆勤賞こそ、実は彼のキャリアの中で一番スゴイことかもしれない。

 古参のファンには、矢沢のツアーを追いかけるように年に何十本もライブを観てきたという人が多い。どんなに過酷なスケジュールでも汗だくで歌い続ける矢沢の姿に彼らは惚れ込んだのだ。前述の男性ファン氏もまた35年間にわたって矢沢を追っかけ続け、ライブ中だけでなく、さまざまな場面でプライベートの矢沢を見てきた。若き日の矢沢は、かなり体への負担が大きい生活を送っていたようだが……。

「20代の頃の永ちゃんは、ライブが終わってから朝まで飲んだくれてましたね。それがロックだっていうノリで、体のことなんて気にも止めていなかったと思います。だけど、それまでヘビースモーカーだったのが、30歳くらいで禁煙したんです。おそらくアメリカに行ったことでヴォーカリストとしてのプロ意識に目覚めて、喉に良くないタバコを止めためたんでしょうね」

 矢沢が60歳のときに語った話では、30歳の頃にハワイの占い師に「このままタバコを吸い続けると死ぬ」と言われ、その日の夜にスパッとタバコを止めたという。そして矢沢はそのとき言われた「死」の意味をこう語った。
〈今考えたら、生きる死ぬではなくて、歌手として死ぬと言ったんじゃないかと思う。これ以上、伸びないということ〉

 つまり、今後の歌手生命のことを考えて矢沢は禁煙したのだ。一方、お酒のほうはどうだろう? 矢沢は大の酒好きとして知られ、オフのときの自分を「ただの酔っ払いのおじさん」だと言うし、これまでの人生で何度もお酒に助けられてきたと語っている。男性ファン氏も酔っ払った矢沢の姿をたびたび見かけたそうだ。

「20代の頃の永ちゃんはそれほど飲めなくて、ビールをちびちび飲む程度だったと聞いています。それが30代からはライブの打ち上げで朝まで飲むようになった。永ちゃんが40〜50代の頃は、ツアー中にべろんべろんに酔っ払っている姿をしばしば見かけましたね(笑)。今も大酒飲みだと思いますが、60代以降はあまり外で飲まなくなったようですね。最近のツアーではトレーナーが同行しているんですが、ライブ後、部屋でマッサージを受けて、そのまま部屋で食事をとることが多いみたいです。今回の喉の不調に関しては、寒暖差が激しい季節もあって、酒で喉がヤラれたんじゃないかって噂する人もいましたが、プロ意識の高い永ちゃんに限って、それはないと私は思いますね」


■満身創痍でも気力で歌い続ける


 酒好きな人は腹が出ていることが多いが、矢沢は70歳になっても裸にシャツという姿がさまになるスリムなボディを維持している。健康対策については、「年相応に努力している」といった言い方をすることが多い矢沢だが、40代からはスポーツジムに通い、早朝からランニングをするなど、2時間半のステージをやり切る体力維持に努めているはずだ。男性ファン氏の話では、40代前半の頃の矢沢は、ツアーにランニングマシンを持ち運び、ホテルの部屋の向かいにトレーニング用の部屋をとっていたそうだ。

 しかし、いくら健康維持に努めても、いかんともしがたい持病や突然の病気に見舞われることは誰しもある。矢沢とて例外ではなく、かつては風邪をひきながらライブを敢行し、ステージ袖でうがいをしながら歌い続けたこともあった。

 しかも、矢沢は腰痛と坐骨神経痛という持病を持っている。キャロル時代に背中を痛めてから、長時間歌い続けると背中と腰が痛むのだという。2015年放映のNHK「SONGS」では、矢沢が整形外科を受診した際のレントゲン写真が映し出されたこともあった。それを思うと、矢沢の代名詞であるマイクターンもかなり無理をしているのではないか。それでも矢沢は、ファンの期待に応えようと華麗にマイクターンをキメるのだ。

 また、これまでに帯状疱疹を4回患い、痛め止めを服用しながら武道館5Daysをやり通したこともあれば、60歳の還暦ライブでは、あばら骨を疲労骨折しながら東京ドーム公演をやり切ったこともあった。ステージでは超人的にすら見える矢沢だが、実は満身創痍の身でありながら苦しい表情は一切見せず、いつも気力で乗り切ってきたのだ。

 今回の公演中止で、矢沢が「喉がちぎれてもいいからやりたい」と言ったのも、これまで幾多の困難を気力で乗り切ってきたという自負あってのことだろう。お金を払って自分を観に来てくれるファンを絶対に裏切りたくない――。このプロ意識が、常に彼を奮い立たせてきたのだ。

 仙台の2公演に続き、12月4日の横浜アリーナ公演も無事開催され、ひとまず喉の状態は快方に向かっているようだ。しかし、歌手にとって喉は命――。来年、再来年の活動も含めてまだまだ予断を許さない。男性ファン氏も「来年はライブの本数を減らしてもいいから、喉のケアを最優先にしてほしい」と矢沢の喉を気遣った。ファンにとっては今日明日のことよりも、永ちゃんがいつまでも元気で歌い続けてくれることが、何よりの願いなのだ。

浅野暁(あさの・あきら)
週刊求人誌、月刊カルチャー誌の編集を経て、2000年よりフリーランスのライター・編集者として活動。雑誌、書籍、WEBメディアなどでインタビューや取材記事、書評などを執筆。カルチャー系からビジネス系までフィールドは多岐に渡り、その他、生き方ものや旅行記など幅広く手掛ける。Webメディア『tayorini』にて「老後もファンです。(https://kaigo.homes.co.jp/tayorini/fan/)」連載中。著書に矢沢ファンを取材した『1億2000万人の矢沢永吉論』(双葉社)がある。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年12月8日 掲載

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