天海祐希「トップナイフ」にヒットの予感 医療ドラマに欠かせない広瀬アリスの役割とは

天海祐希「トップナイフ」にヒットの予感 医療ドラマに欠かせない広瀬アリスの役割とは

天海祐希

 天海祐希(52)が主演している日本テレビの新連続ドラマ「トップナイフ-天才脳外科医の条件-」(土曜午後10時)が出色の出来だ。世帯視聴率も上々で、1月11日に放送された初回は13.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と好調。脚本、キャスト、演出のいずれも良いと、秀作に仕上がるという好例だろう。

「トップナイフ-天才脳外科医の条件-」の出演陣は天海のほか、椎名桔平(55)、永山絢斗(30)、三浦友和(67)。いずれも東都総合病院の脳神経外科に勤務する脳外科医役で、三浦は部長でもある。ちなみにトップナイフとは、超一流の技術を持つ脳外科医に贈られる称号なのだという。

 ドラマも映画も成功させるためには、「一に脚本、二に俳優、三に演出」と、よく言われるが、「トップナイフ」は脚本が秀逸で、出演陣にも主演級が4人そろえられ、演出も実績あるベテランたち。放送前から期待されていたが、それは裏切られなかった。

 天海は仕事が出来る女性を演じさせたら、当代随一だろう。さすがは宝塚時代に初舞台から僅か7年で男役トップスターになった逸材だ。並みの宝塚出身者とは器が違う。天海の強みはシリアスな演技もコミカルな芝居も得意なところだが、このドラマでもそれが存分に発揮されている。

 また、今や椎名ほど怪しい人物を好演する俳優はいない。椎名が出てくるだけで何をやってくれるのか胸が躍る。昨年12月に終了した「同期のサクラ」に続いての日テレ連ドラへの出演。連投は珍しいが、余人をもって代えがたい存在だからだろう。このドラマでもまた謎めいた男だ。

 永山もまた演技巧者なのは知られている通り。さまざまな役をこなすが、特にワイルドな人物を演じると絶妙。今回もそんな役柄だ。

 紫綬褒章も得ている三浦はもはや俳優界の大御所。ドラマでは好人物役が目立つものの、「葛城事件」(2016年)などの映画では荒んだ男の役や悪党も好演している。今回の役は一見好人物だが、ひとクセありそうだ。おそらく昼行灯だろう。

 少子高齢化の現在は中高年以上も見るドラマでないと、世帯視聴率が取れない。だから、幅広い年齢層が見る「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」(テレビ朝日)は20%近い高視聴率を得るが、一方で若年層の間での評判は抜群だった「凪のお暇」(TBS)のような作品は10%前後しか得られない。「トップナイフ」の視聴率好調の背景には天海、三浦ら中高年以上が支持する俳優陣を登場させたことがあるはずだ。

 半面、「トップナイフ」は若年層の支持も得られているのではないか。広瀬アリス(25)を脳神経外科の専門研修医役で登場させたことが大きい。その若さが魅力であるにとどまらず、コメディリリーフ役を果たしている。このドラマには笑える場面がいくつもあるが、その大半は広瀬が絡む。医師としては素人の新人でありながら、「自分は天才である」と信じて疑わないところが面白い。まさに怖い物知らず。広瀬の存在により、硬くて重くなりがちな医療ドラマが、軽やかに仕上がっている。

 広瀬には初回の冒頭から笑わされた。彼女は赴任の挨拶を練習していた。

「脳外科医を選んだ理由ですか? それは最も難しい診療科ですから。医療が進歩したとはいえ、脳はまだまだブラックボックス。だからこそ挑戦しがいがあります。挑戦。それが私の心情。学生時代から常に成績トップに挑み続け、そして今、日本最高峰の脳外科にスカウトされました。出来る者の宿命でしょうね」(劇中の広瀬のセリフ)

 周囲は誰一人として広瀬に期待していないのだから、とんでもない思い上がりである。滑稽だった。また、この場面には脚本の秀逸さも表れていた。見る側を笑わせながら、東都総合病院がどんな存在で、脳神経外科がいかなる診療科であるかをさりげなく説いてくれた。説明と思わせないところが巧みだ。


■テロップのない医療ドラマ


「トップナイフ」には説明のテロップがほんの僅かしか出ない。医療ドラマというと、病名や部位、手術法がテロップで解説されることが多いが、頻繁にテロップが出ると見る側は興ざめしてしまう。ドラマを楽しんでいるのか医療を学んでいるのか分からなくなるのだ。

 そんな説明がこのドラマにはほとんどないので、物語に没頭できる。劇中では敏腕脳外科医役の天海が、運ばれてきた患者を診察し、「脳ヘルニア、頭切ろう」と口にする場面があったが、脳ヘルニアの解説はなかった。ドラマ性を優先させているのだろう。

 ちなみに脳ヘルニアとは、頭蓋内に血腫などが生じ、頭蓋内の圧が高まり、脳が押し出される状態。すると、押し出された脳に脳幹が圧迫され、呼吸や心臓の機能を損ない生命の危険が伴う。天海は即座に頭部を切開し、溜まっていた血液を抜いた。

 原作も脚本も林宏司氏。「医龍」(フジテレビ)、「コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-」(同)などの医療ドラマのほか、「スニッファー 嗅覚捜査官」(NHK)などを書いた練達。今年4月から放送が始まる新連続テレビ小説「エール」(同)を急に交代し、さまざまな憶測を呼んだが、書く作品には安定感がある。

 初回の脚本は、登場人物の紹介をしながら、物語としての面白さも出さなくてはならないので、2話以降より面倒だが、見事としか言いようがなかった。天海には難しい脳腫瘍の手術をさせた(開頭してみたところ、実際には腫瘍ではなく、寄生虫の卵だった)。赴任してきたばかりの世界的名医という設定の椎名には頸椎に生じた外傷性硬膜外血腫の診断と手術をやらせた。この筋書きにより、2人が腕利きであることを見る側に知らしめた。また、「脳腫瘍で性格が変わることもある」という事実を踏まえた上での患者とその家族のドラマも興味深かった。

 やはり腕利きの新任医である永山の登場場面も良かった。天海とのやり取りは、広瀬とは違った形の笑いを生んでいた。

 手術前の天海に対し、永山は「俺が入ってアプローチするよ。滅多にないオペだからな。完璧にお膳立てするよ」。これに天海はまんざらでもない表情だが、すぐに「て、なんでタメ口なのよ。一応、上司なんだけど」と気色ばむ。だが、永山はその言葉の意味を曲解し、「あー、俺なら気にしないから」。2人はいい組み合わせに違いない。

 天海は、椎名と永山、広瀬の3人が病院に招かれたことに不満だが、それを断行したのは部長の三浦。天海に対し三浦は、「変化が必要」「あなたにとっても必要な3人」と説いていたので、おそらく天海を成長させるためなのだろう。天海は三浦を「タヌキおやじ」と評していたが、確かに一筋縄ではいかぬ人物であるようだ。

 チーフ演出家は日テレの系列会社である日テレアックスオン(AX-ON)の大塚恭司氏。天海とは「演歌の女王」「女王の教室」で組んでいるベテラン。演出にこだわるのはもちろん、カメラ割りや編集にも凝る人だ。初回は天海と椎名の手術場面の切り替えなどが巧みだった。

 1月2日にNHKで放送された「新春TV放談2020」の中で、日テレの鈴間広枝プロデューサーが、「凪のお暇」を例に出し、「TBSのドラマはしっかりされています」と讃えた。これに対し、ほかの出演者は日テレのドラマを誉めた。実際、最近の日テレのドラマは「同期のサクラ」「俺の話は長い」「あなたの番です」など秀作や意欲作が目立つ。

 2018年、日テレはプライムタイム(午後7時〜同11時)のドラマで、平均視聴率が2桁に乗った作品が1本もなかった。視聴率ナンバーワンの局でありながら、ドラマがアキレス腱となっていたのだ。しかし今は違う。もともと、弱点を見つけ、それを改善する能力に長けた局だが、ドラマが売り物になっている。

 日テレのドラマ躍進の大きな理由は、同局のドラマ作りを支えているAX-ONの充実した仕事ぶりだろう。NHKとしては異例と言えるくらい反響を呼んだ「これは経費で落ちません!」もAX-ONの制作だった。

「トップナイフ」には目下のところ穴が見当たらない。今後も好調が続きそうだ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年1月18日 掲載

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