尾上松也、国宝級「顔筋芸」の魔力 「課長バカ一代」は松竹エンタテインメント総力あげての悪ふざけ

尾上松也、国宝級「顔筋芸」の魔力 「課長バカ一代」は松竹エンタテインメント総力あげての悪ふざけ

「課長バカ一代」(BS12、日曜19時〜)(C)吉田潮

 ドラマとして、心躍るほどの構成や仕掛けがあるわけではない。琴線に触れるような内容でもない。莫大な金をかけて、阿漕(あこぎ)に人気俳優をこぞって集めたわけでもない。そして話題沸騰どころか、どこでいつやっているのか知らない人のほうが多い。でも、描かずにいられない絵ヅラの魔力がある。その一点突破で、今期ドラマ一番乗りにあげたいのが「課長バカ一代」だ。

 BS12。誰もトゥエルビとは読んでくれず。都会の片隅で、田舎の畑で、あちこちで可憐に咲くものの、その名を誰も知らぬオオイヌノフグリのような放送局。だいぶ失礼な紹介なのだが、実は最近執拗にチェックしている。70年代の超名作ドラマをしれっと流すし、韓国と中国のドラマも毎日わんさか放送。私の義母も好きな局だし、この局しか観ないという年輩のタクシー運転手もいた(毎日ドラマが進むから話の内容を忘れないそう)。なんつっても、この銭ゲバ時代に無料放送。最高だよ、トゥエルビ。

 そんな、俺たちのトゥエルビが満を持して送る「課長バカ一代」は、課長補佐代理心得という肩書を与えられた純粋なバカが、うっかり活躍していくビジネスコメディ。主演は尾上松也。

 松也は私にとって、絵に描きたい顔ナンバーワン。コマ送りにして観ると、その顔筋芸の実力に戦(おのの)く。口輪筋を一層ずつ動かすような変顔は、ものまねタレント・コロッケのそれと近い。コロッケは顔の筋肉を一層ずつ動かして止めて、コマ送りで見せるスゴ技を持つ。面白さを凝縮した見せ方だ。

 一方、松也の場合、肉眼では見えない、実に微細な変化を重ねたうえで醸し出すおかしさがある。萩原流行と京本政樹と色気づいた甲子園球児のハイブリッドみたいな顔立ちで、実に緻密に、そして人知れず口輪筋を動かしとる。ぜひ一度コマ送りで松也の顔を観てほしい。そこはかとなくおかしいから。国宝級だから。

 さらに、セクシーでもマッチョでもイケメンでもない、分類が難しいタイプだ。こってりみっちり詰まったボディに、今回は真っ白なスーツを着込んでいる。カタギのサラリーマンは決して着ない白のスーツ。それもこれも許される、もう分類としては「マツヤ」である。

 トゥエルビとマツヤの魅力を語るだけで、すでにこんなに紙幅を使っている。つまり、ドラマの中身は書くほどのことがないわけだ。

 でも、あちらこちらに劇画調を施し、70年代の映画やドラマを観ているような懐かしさを覚える。「Gメン'75」オマージュも感じるし、制作に唸るほど金を使えるTBS日曜劇場への嫉妬も垣間見える。清貧万歳。

 松也をライバル視する部下に木村了、厄介な案件を押しつける上司に武野功雄。このふたりも松也に負けず劣らず濃い。顔が。常務には坂東彦三郎、社長には市川左團次と梨園の人々も招集されて、全力で悪ふざけ。つうか松竹エンタテインメント総力あげての悪ふざけ。

 今期、出だしが重いドラマ(殺人犯の娘とか、娘が誘拐されたとか、夫が植物状態とか)が多いので、まずは最軽量作品を前菜に。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

「週刊新潮」2020年1月30日号 掲載

関連記事(外部サイト)