玉川徹先輩のこと…「伝説の視聴率男」「愛される悪役」像を後輩が語る

玉川徹先輩のこと…「伝説の視聴率男」「愛される悪役」像を後輩が語る

2004年当時もイケメンだった

■テレビ朝日課長 玉川徹


「悪名は無名に勝る」を地で行くのが、テレビ朝日「モーニングショー」でコメンテーターを務める玉川徹氏だろうか。一介のテレビ局員がなぜここまで注目されるのか。テレビ朝日で同じ番組を担当し、同じ釜の飯を食った後輩のテレビ・プロデューサー、鎮目博道氏が振り返る。

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 テレビ局でディレクターをしていると、視聴率のグラフを見ることから1日が始まる感じです。その時の気分といったらまるで、学期末に先生から渡された通知表を見るときのドキドキ感に似ています。

 恐る恐る視聴率グラフを見る……ああ、僕のVTRはそんなに上げてないな、ガッカリ。でも僕のVTRの横で、ほぼ毎週必ずちょっと異常なくらい急カーブを描いて視聴率が伸びているものがあるのです。「ああ、また玉川先輩か」と僕は半ば呆れながらそのグラフを見つめます。

 僕はかつてテレビ朝日で「スーパーモーニング」という番組のディレクターをしていました。「スーパーモーニング」は今の「モーニングショー」の前身の番組で、曜日ごとに班が分けられているのですが、僕と同じ班にいて「伝説の視聴率男」として恐れられていたのが玉川徹先輩でした。

 当時、玉川先輩はたしか、帯のように茎が幅広くなったタンポポなど「奇形植物」を毎週のように追いかけていました。僕はといえば毎週のように北朝鮮の脱北者の取材をしていたのですが、どう考えても普通なら「北朝鮮ネタ」の方が強そうなのに、毎週絶対、玉川先輩には視聴率で勝つことができなかったのです。しかも視聴率はVTRよりも、玉川先輩が出演しているスタジオの部分で急角度になっています。どう考えてもそんなにイケメンとは思えませんし(スミマセン)、結構苦情の電話もかかってきている様子なのに、玉川先輩はなぜか「数字を持っている」のです。不思議でなりませんでした。

 その頃玉川先輩に唐突にこんなことを言われたことがあります。

「なあ、鎮目くんも只野仁みたいに特命係長になりたいよなあ? 俺は特命係長になりたいんだよ」

 何を突然? とかなり驚いたので今も鮮明に記憶に残っています。でも考えてみれば、玉川先輩は本当に「特命係長」のような人なんだと思います。

 テレビ局員には人事異動がつきものです。僕もいくつもの番組を行ったり来たりしました。しかし、玉川先輩はなんだかずーっと「モーニング」にいます。番組内でも独特な存在で、いろいろな伝説を持っていて少し恐れられています。夕方の「スーパーJチャンネル」というニュース番組から異動して来たばかりの僕が最初に驚いたのは、玉川先輩が「テレビ朝日課長 玉川徹」というネームテロップでスタジオに出演していたことでした。

 正確な経緯はよく知りませんが、その頃ヒソヒソ話で誰かに聞いたのは、玉川さんが『リポーター 玉川徹』というテロップで出演したら、誰か番組の偉い人に怒られた、と。お前がなんでリポーターなんだ? お前は何者だ? とかなんとか言われたのでしょう。確かに玉川先輩は僕たちと同じ一般職採用で、アナウンサー採用などの「出役」ではありません。いってみればまあ本来は「裏方」なのです。

 で、玉川先輩はどうやら、「だったら僕は会社での役職は課長なのだから、何者かと言われれば課長です」的なことで、それ以来「テレビ朝日課長 玉川徹」というネームテロップを自分で発注して出演していたらしいのです(まあ、あくまでその当時そんな話を聞いたかな? という程度なので、真偽のほどは明らかではありませんが…)

 これには、別の番組から来たばかりの僕はかなり面食らいました。局の職級である「課長」などという肩書きでテレビに出演する人なんて、電波少年のT部長ぐらいしか聞いたことがありません。しかも伝説を信じれば、上司へのまあまあの喧嘩の売りっぷりです。すげえ番組だな、不思議な人がいるな、と正直若干ビビりました。


■玉川先輩を撮影するためのもう1台のカメラ


 あと、玉川先輩に驚いたのは、通称「玉川カメラ」です。僕たちが誰かのインタビューに行く時には、普通カメラマンひとり、カメラ1台で行く場合が多いのですが、玉川チームは必ずカメラ2台でインタビューを撮りに行っていました。ああ、なるほど2方向からインタビュー対象者を撮影して、あとで編集しやすくするんだなと最初は思いましたが、どうやらそうではありません。2台のうち1台は、質問する玉川先輩を撮影するためのカメラなのです。

 これも、なかなか我々ディレクターの常識からすると驚きでした。例えば「番組MCが誰かをインタビューしにいく」とか、「有名人が有名人にインタビューする」とかなら、質問者側に1台カメラを向けることもあるのですが、通常だとあまりそういうカメラの使い方はしません。なので、スタッフの間では「玉川カメラ」とひそかに名付けられ、これまた伝説となっていたのです。しかし、編集のあがりを見てみると、たしかに「玉川カメラ」がうまく生かされていて、いい感じになっているから驚きです。さすがだな、と思いました。

 そんな感じで、玉川先輩はとにかく「特別」な人でしたし、なんとなくいつも怒っているか文句を言っているようなイメージがあったので(本当にスミマセン)、近寄り難い印象がありました。当時番組には「玉川番」といって、玉川先輩の指示に従って取材の準備やらロケ・編集・スタジオ周りなど全てを担当するディレクターがいて、比較的若いディレクターが半泣きになりながら頑張っていたりしましたので、そういった意味でも僕はビビっていました。あと、僕も含め普通のディレクターは裏方志向が強いので、「自分が作ったVTRで勝負したい」とか「誰か面白い出演者を見つけてきて評価されたい」と考えがちです。だから自分が出演してガッツリ視聴率を稼ぐ玉川先輩は、「出たがり」などと陰口を叩かれることもあったと思いますし、アンチもそれなりにいたと思います。

 でも、玉川先輩の取材がスゴイのは本当です。一度、玉川先輩が若手ディレクター向けの研修の講師をしたことがあって、それを僕も聴講したのですが、こんな言葉が強く印象に残っています。

「官公庁に取材を申し込む時には、『いついつまでにお願いします』と期限を区切ってはいけない。そうすると、『いま忙しいので対応できません』と断られてしまう。『いつまででも待ちますので、いつでも結構です』と言えば相手は断る口実がなくなってしまう。そうすると意外に早い時期に取材に応じてくれるものだ」

 この話を聞いた時には、僕は「なるほどなあ」と感動しました。一貫して官公庁相手に闘ってきた、経験豊富な玉川先輩だからこそたどり着けた真理なのだなあ、と思ったものです。

 モーニングの曜日班の有志で、職場旅行のようにソウルに行った時のことも印象に残っています。みんなでご飯を食べに街に繰り出して、結構お酒も入り、日頃笑わないと思っていた怖いイメージの玉川先輩が、おどけて大笑いしていたのを見て、なんかホッとしたのを覚えています。先輩はあまりプライベートを他人に見せない人でしたが、寂しがり屋な面もある優しい人なんだなあ、とその時ふと思いました。

 いまや、Yahoo!ニュースなんかを見ると、「玉川徹氏がこう発言」みたいな記事のタイトルが毎日のように並んでいます。いろいろなところで、「玉川さんはズバズバ言うから好き」とか、「あの人は大嫌い」とか、「親が『玉川さんが言ってたから間違いない』と玉川さんを信じきってる」とか、そんな声をちょいちょい聞くようになりました。賛否両論さまざまだとは思いますが、「視聴率男」である玉川先輩は、きっと今日も様々な作戦を練っているのでしょう。

 モーニングOBの人と、時々僕も出くわすことがありますが、そんな時にはいつも決まって玉川先輩との思い出話になります。笑いながら、悪口半分。とても盛り上がります。是非これからも先輩には、「愛される悪役」としてご活躍いただきたいと、僭越ながら願っております。

鎮目博道 しずめ・ひろみち
テレビ・プロデューサー・演出・ライター。92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月14日 掲載

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