「ハケンの品格」は13年ぶりの復活でもなぜ視聴者にウケるのか

「ハケンの品格」は13年ぶりの復活でもなぜ視聴者にウケるのか

篠原涼子

 13年ぶりに復活した篠原涼子(46)の主演ドラマ「ハケンの品格」(日本テレビ、水曜午後10時)が面白い。6月17日に放送された第1話の世帯視聴率は14・2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と高水準。2話以降も注目が集まりそう。

「ハケンの品格」のフォーマットはヤクザ映画や時代劇と似ている。物語の途中までは強者が弱者を徹底的に踏みにじり、見ている側まで悔しい思いにさせられるが、終盤で大逆転が成し遂げられ、爽快な結末となる。

 第1話の物語はどうだったかというと、前作と同じく、里中賢介(小泉孝太郎、41)や東海林武(大泉洋、47)らが正社員として働く食品商社のS&Fに、派遣社員の大前春子(篠原涼子)が再びやってくる。恐ろしいまでに仕事が出来るスーパーハケンだ。

 春子の能力には磨きがかかり、語学力や船舶免許(6級海技士)などを生かし、社運が賭かったロシアの食品会社との商談を軽くまとめる。ハケンという立場だけで春子を舐めきっていた営業事業部の部長・宇野一平(塚地武雅、48)は毒気を抜かれる。

 スカッとさせてくれたのは、それから。

 ハケンの福岡亜紀(吉谷彩子、28)が、人事部員からセクハラとパワハラを受けたことを、やはりハケンの千葉小夏(山本舞夏、22)が人事部に公益通報したところ、逆に人事部員たちに監禁されてしまう。さらに「こっちが君たちを訴えたいくらいだ」と脅しを受け、告発の撤回を迫られる。体面を気にする一方、正社員を庇おうとしがちな日本型人事部らしい話だ。

 その不正義を知った春子は、2人の監禁場所であるS&Fの保養所の一室へ駆け付ける。カギが閉ざされていると分かるや、エンジン式チェーンソーでドアを破壊。そのド迫力を目の当たりにした人事部員たちは顔色を失い、勝敗は決する。ケンカ上等の春子らしかった。

 新型コロナ禍で放送開始が遅れていた間、代わりに7回流された前作の再放送「春子の物語 ハケンの品格2007 特別編」も10%前後の世帯視聴率を得た。再放送なのだから大健闘にほかならない。

 もっとも、これを冷評する評もあった。もはやハケンがイジメやイビリを受ける時代ではないから、物語が現実に沿っておらず、だから数字が伸びなかったという論法だった。

 本当だろうか? それでは基本的に設定が同じである続編も視聴者は受け入れられないことになってしまうが…。いや、派遣社員を含む非正規社員への冷遇は今も変わっていない。春子が活躍する余地は十二分にある。

 世間の目が厳しくなり、6月1日には大企業にパワハラ防止法が施行された(中小企業は2022年4月施行)こともあって、露骨な嫌がらせこそ13年前より減ったかも知れないが、派遣社員への有形無形のイジメやイビリは現存する。

 2019年に東京都産業労働局が発表した派遣労働に関する実態調査によると、「契約の不当な打ち切り、中途解除はやめてほしい」と訴えた派遣社員は21%もいた。「契約外業務はさせないでほしい」と主張した人も14・7%。「職場のいじめやセクハラをなくしてほしい」と答えた人も6・0%いる。春子が不在の間、ハケンを取り巻く職場環境が劇的に良くなったわけではない。

「人手不足」と言われながら、日本のサラリーマンのうち正社員は6割。残り4割は派遣社員やパート、業務委託などの非正規社員だ。春子は職場の理不尽を押し付けられている4割の人たちと、社員であろうが会社で辛い思いをしている人たちの代弁者なのではないか? だから13年の年月を軽く乗り超え、蘇れた気がする。

 篠原涼子による春子の演技は、前作と同じく人間味を極端なまでに抑えたもので、面白い。

 小泉孝太郎は13年の間に大きく成長した。前作のころは「育ちのいい若者しか演じられない」との評もあったが、今では悪役から包容力のある善良な男まで幅広く演じられる実力派。今回の役柄・営業企画課の課長である里中賢介の場合、ダメな上司の顔も立てながら、ハケンも含めた部下をしっかりと守る。実社会の職場にはそういない好人物だが、小泉が演じると自然に映る。名課長になりそうだ。

 大泉洋が演じる旭川支社長補佐・東海林武は、春子の口げんかの好敵手。今回はどんな丁々発止があるのか。この人がいないと、ややもすると物語がシリアスなお仕事ドラマになってしまうから、名コメディリリーフだ。

 第1話で人事部員からセクハラ、パワハラを受けた福岡亜紀役の吉谷彩子は、転職サイト「ビズリーチ」のCMでおなじみ。洒落っ気のあるキャスティングと言える。やはりOL役が似合う。

 続編で春子に立ち塞がる“ラスボス”は伊東四朗(83)が演じるS&F社長・宮部蓮三。ハケン差別主義者だ。まるで化石のような存在だが、いまだ実社会にも現存するタイプだろう。

 脚本は前作と同じく中園ミホさん(60)。やはり時代劇と通底するテレビ朝日「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」(2012)の生みの親でもある。フリーランスの女性外科医・大門(米倉涼子、44)がプライドの塊である大学病院の医師たちを打ちのめしたり、春子によって正社員のエリート意識を木っ端微塵にしたり、中園さんは権威の否定をドラマ化するのが本当にうまい。

 忘れてはならないのが、プロデューサー陣の1人である山口雅俊氏の存在。元フジテレビのヒットメーカーだ。内容がえげつないのでドラマ化は不可能と思われた「ナニワ金融道」(1996)をSMAPのリーダーだった中居正広(47)主演で放送したり、楳図かずお氏(83)原作のホラー漫画を大胆に脚色し、「ロング・ラブレター〜漂流教室〜」(2002)として常盤貴子(48)と窪塚洋介(41)らによる青春サバイバルドラマに仕立てたり。天才肌の人である。

 2005年にフジを退社した後は、山田孝之(36)を主役に擁し、「闇金ウシジマくんシリーズ」(毎日放送・TBS系、2010〜2016)をドラマと映画で制作。こちらも原作があまりに過激すぎて、ドラマ化は困難とされていた。

 篠原と山口氏はフジの「ナニワ金融道2」(1996)以来の付き合い。盤石の信頼関係がある。春子のキャラクターは、篠原から全権委任を受けた山口氏と中園さんが作り上げたという。この3人の関係は続編でも強固らしい。

 このところ苦戦が続くフジだが、山口氏のみならず2007年にもドラマ部門の逸材に去られた。「ラブジェネレーション」(1997)や「神様、もう少しだけ」(1998)などを大当たりさせた小岩井宏悦(59)=現ワーナー・ブラザース=である。退社後の小岩井氏は佐藤建(31)主演の「るろうに剣心」(2012)などをプロデュースし、成功させた。

 番組を作るのは人材。フジは2人をハケンしてもらいたい気分かも…。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月24日 掲載

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