驚きの棒読み「吉川晃司」が演じる横溝正史ドラマの見どころ

驚きの棒読み「吉川晃司」が演じる横溝正史ドラマの見どころ

「探偵・由利麟太郎」(フジテレビ系、火曜21時〜)(C)吉田潮

 横溝正史は映画やドラマから入る人が多いと思う。私もそうなのだが、古い文庫本も14冊持っている(たぶん学生時代に古本屋で買い漁った)。角川文庫の黒い背表紙に緑字のタイトルのシリーズで、表紙は杉本一文の妙に極彩色でおどろおどろしい絵だ。おかげで横溝といえば映像だけでなく、杉本画伯の絵もセットで思い出してしまうのである。

 そんな「横溝感」を餌にした新作ドラマが。「探偵・由利麟太郎」(フジ)だ。主演は久しぶりに全身を観た気がする吉川晃司。元・警視庁捜査1課長で今は犯罪心理学者、学生時代にアメリカのロッキー山脈で出会ったハンターから学んだトレース技術に基づく推理……つって横溝感ゼロやないかーい! あまりに華麗なる経歴は、昨今疑われるに限る。名門大学を首席卒業とかヤバイって! それはさておき。吉川晃司である。

 銀色の短髪は通常は実年齢以上に見えるか、鮨屋の大将的な庶民感が出てしまう。ところが吉川はベクトルの違う老け方だ。いい感じで彫りが深くなって、まるでおりがみで折ったような顔。そんでもって角度によっては凛々しくなったり、険が出て威厳も出れば、幼くも見える。すっごい絵に描きにくいタイプである。温水洋一以来の描きにくさ。

 逆三角形の上半身に、細くてひざ下がとてつもなく長い脚。凡人には到底着こなせないロングジャケットをはらりと翻し、どこかぎこちない脚運びで、基本棒立ち。そして、驚きの棒読み。もう手放しで礼賛したい気持ちをはるかに凌駕するツッコミどころ。なんかよくわからない境地に至る。

 でもね、多くを語らない役であり、そのさじ加減がうまくいっているような気もする。以前、WOWOW「黒書院の六兵衛」で主演したときの適合感には劣るけれど。ホントしゃべらなかったからね、最後まで。確かセリフは「世話をかけ申した、許せ」のみ。それでも六兵衛を見事に演じた。江戸城に居座るだけなのに、こんなに美しく気高く威厳のある姿って、そうそう演じられないと感動したっけ。

 で、今回のゆりりんである。ゆりりんと言っている時点で、もう横溝感ゼロ。弓道のシーンはいい。でも先端恐怖症なのに弓道の名手という矛盾。事件概要の解説は、助手の志尊淳が担当するから安心。そして定番のダメ刑事には、ゆるふわおじさんの田辺誠一を配置。古(いにしえ)の空気とおどろおどろしさを少しでも増すためなのか舞台は京都。ゆりりんの下宿先で骨董品屋の店主・どんぐりは、ま、別の意味で横溝感(箱に入ってたら横溝感もぐんとUP)。

 耽美的で猟奇的、禍々(まがまが)しくなまめかしい事件が多いのも横溝作品の特長なのだが、令和においては限界が。

 一点だけ特筆すべきは、吉川自身が歌うエンディングテーマ。ほぼスキャットだが、この歌声が「古き良きモノ」の凝縮に聴こえた。どことなく西部劇、どことなく昭和ムード歌謡。一瞬「黒の舟歌」に聴こえる不思議な歌声だった。あの歌声は好きだ。ドラマは心意気だけ称えておく。引き算が必要だったのかもしれず。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

「週刊新潮」2020年7月16日号 掲載

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