妻夫木、吉高、おディン様らが血で血を洗う相続争い 「危険なビーナス」

■もう二度と共演が叶わないと思うと…


 豪華キャストを揃えた日曜21時からのTBS「危険なビーナス」。この後の展開が全く予測不能だが、主要キャストの魅力について吉田潮氏が綴る。

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 大金持ちのお家騒動って楽しいよね。完全に他人事だから。共感も同感もほぼなくて、あるのはドロドロとした感情の交錯、殺伐とした人間関係、剥き出しの本性。基本、なんでも金で解決できる人々の、血で血を洗う相続争いは、私ら庶民にとっては極上のエンタメとなるわけで。それが「危険なビーナス」(TBS、日曜21時〜)。

「あるある!」「わかるぅ〜!」がひとつもないのに、惹きつけてやまない。

 縁遠くなっていた親戚の遺産相続争いにうっかり巻き込まれる主人公・手島伯朗を演じるのは、連ドラが久しぶりの妻夫木聡。

 どこにでもいそうな容貌だが、よくよく見ると眉目秀麗、底抜けの明るさで人懐っこい笑顔を見せたかと思えば、救いようのない精神的な深爪を負う難役もこなす。ブッキー、久々!

 ここ数年、ブッキーが出演して記憶にある連ドラといえば……。

 平成の大家族を描こうとしたものの、昭和を引きずり過ぎてピンとこなかった「若者たち2014」(2014・フジ)。暑苦しく家族愛を強要する長男役だった。激しい兄弟喧嘩のシーンは時代に合わず、ゆとりもさとりも、ましてや年寄りも反応せず。

 もうひとつは「イノセント・デイズ」(2018・WOWOW)だ。死刑囚となった幼馴染の女性・田中幸乃(竹内結子)が無実であると信じて奔走する主人公・佐々木慎一役。

 関係者に話を聞くと、彼女の凄絶な過去や予想外の真実が見えてくる。

「人は勝手に都合のよい側面だけを見る」ことを思い知らされるという物語だ。実は、竹内結子、芦名星、そして新井浩文も出演していた。もう二度と共演が叶わないと思うと、稀少な作品でもある。

■謎の女性・楓(吉高由里子)が現れてから、生活は一変


 連ドラは4年に一度……五輪かよ! と思いつつも、そんなにブッキー不足に陥らなかったのは、いい映画にたくさん出ていたから。「渇き。」(2014)、「怒り」(2016)、「愚行録」(2017)が特によかったし、「ミュージアム」(2016)はまさかの怪演に心底驚いた(まさかブッキーとは思わなんだ!)。

 連ドラではなく、スペシャルドラマ「乱反射」(2018)もめちゃくちゃ面白かった。

 ブッキーは悲しみと喪失感と憤り、そして悟りへと感情の変化を魅せる主人公を熱演。「妻夫木聡、ここにあり」という作品でもあった。連ドラで姿を見なくても、定期的に見せてくれるブッキー節に満足しちゃっていたのだ。

 考えてみれば、妻夫木は小説原作がよく似合う。特に貫井徳郎や吉田修一の世界観にしっくりくると感じているのは私だけだろうか。

 おいおい、ビーナスはどこ行った? 本線に戻ります。東野圭吾原作「危険なビーナス」である。

 始まりは、のほほんとしたブッキーの語りから始まる。

 獣医であるブッキーは「僕調べ」の恋愛市場情報を披露。都心部で一人暮らし、ペットを飼う女性は余裕のある生活をしているので、そういう女性と出会うには獣医が最適だとかなんとか。

 TBS火曜枠の恋愛ドラマのような始まりだが、謎の女性・楓(吉高由里子)が現れてから、生活は一変。

■「品があるのに性悪」を体現する戸田恵子・麻生祐未・安蘭けい


 吉高はブッキーの異父弟・矢神明人(染谷将太)と結婚したが、行方不明になったので一緒に探してほしいと訴える。

 のほほんと結婚相手を探していたブッキーの目の前に、超どストライクな見た目の吉高が登場したもんだから、やる気スイッチ入っちゃって。ところが、染谷は莫大な遺産の相続人。ブッキーは因縁と憎悪が渦巻く、苛烈な遺産相続争いにどんどこ巻き込まれていく。

 この相続争いのメンバーがまあ濃くて、しかも複雑。え、誰がどれ? 叔母さんってことは母の姉妹? ちょ待て、養子もいるのか! と、多少混乱した方もいるはず。

 私も家系図ないとわからんなと思っていたら、TBSがちゃんとホームページに「相関図」と「家系図」をご用意。そこな! 相関図だけでなく、縦につながる家系図な! 家系図入れようと考えた人に猛烈感謝するわ。

 とにかく意地の悪そうな、もとい、手練れの役者陣を取り揃えました感が満載のキャスティング。

 特に、戸田恵子・麻生祐未・安蘭けいなんて、「品があるのに性悪」を体現する完璧な布陣で、遺産相続争いにぴったり。シルクのガウンと古いお屋敷が似合う池内万作しかり、婿養子感が体からにじみ出とる田口浩正しかり。

 そして、今回最高のキャスティングと思ったのが、おディン様ことディーン・フジオカである。

 矢神家の前当主の養子で、商才と謀略に長けた矢神勇磨役。高級そうなレストランを複数経営するやり手実業家という役どころは、おディン様にぴったり。しかもマジで性格が悪い!

 幼少時からブッキーをいじめていびり続けた天敵であり、相続争いの主導権を狡猾に握ろうとする。同じく養子の麻生祐未と組み、先回りして策を練り、ブッキーと吉高の信頼関係を壊そうとするのだ。


■“塩気”の利いた中村アンのうまさ


 おディン様のあの横顔と細身のスーツ姿には、2億円くらいの保険をかけてもいいと思うくらい美しい。

 昔、よくあったよね。瞳に1億円かけた田中美奈子とか、胸に1億円かけた井上晴美とか。ま、バブル時代の戯言だけど。

 とにかく冷酷非道、優しさとか配慮とか憂いとは無縁、令和のスマートインテリ銭ゲバヤクザをおディン様が好演。「IQ246〜華麗なる事件簿〜」(2016)の執事役を超える適役でもある。

 しかも、ただの遺産相続にあらず。先週は池内万作が早々に殺されかけたし、今後も毎回予想外の展開が期待できる。それとは別で、個人的に3つの些末な着目点を。

 ひとつめは、動物病院の看護師・蔭山元美役(中村アン)の塩対応。妄想しがちで、のび太くんのようなブッキーに、塩っ辛い現実をぶつけるシーンが好き。

 遺産相続というおとぎ話の世界の中で、アンがひとりだけ同じ世界の住人と感じられるから。ふわっと粉かけてくるブッキーに対して一刀両断。「弱ったメスを狙うのは人間のオスだけです」。塩気の利いたアン、うまいよね。

 もうひとつは、ブッキーの「アンチ富裕層魂」だ。母親(斉藤由貴)がたまたま金持ちと結婚したことで、幼少期にはトラウマがてんこもり。

 富裕層特有の特権階級意識に辟易し、「見下す」「いじめる」「排除する」を経験した者としては、心の中に荒ぶる抵抗感がある。貫くのか、変質するのか、いずれにしてもブッキーがどうこの役を調理していくのか。楽しみである。

 最後は、染谷将太である。ええと、日曜の20時台は大河「麒麟がくる」で、童顔になまずヒゲはやして冷酷無比な武将・織田信長をやっとるわけですよ。こっちで登場すれば、20時から21時で早替わり&連打を楽しめるのだ。

 なんて、どうでもいいことしか書かないのは、この後の展開が予測不能で楽しみだから。

 高視聴率の前作と比べられて、「じゃないほうの日曜劇場」なんて呼ばせないよ。私はこっちのほうが断然好き。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月25日 掲載

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