芸能人の相次ぐ独立、「音事協」が明かした原因とは 日本ならではの事情も

 芸能人の独立が相次ぐ事態を“芸能界の元締め”と目される日本音楽事業者協会、通称「音事協」はどう受け止めているのか。“業界を仕切る強面組織”とも呼ばれる背景には、寡黙でメディアにほとんど登場してこなかった経緯がある。

 そこで見解を求めたところ、専務理事の中井秀範氏(61)が初めて取材に応じた。

「長い間、芸能事務所に関しては都市伝説とも言うべき噂が流布されてきました。タレントを奴隷扱いする、意に沿わないタレントを干すようさまざまな圧力をかける、といったものです」

 とは中井氏。果たしてこの弁は本当なのか。元SMAPの稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾の3人は“干された”との見方が一般的だが。

「ジャニーズ事務所に公正取引委員会が調査に入り、注意を行ったことは事実ですが、圧力や嫌がらせの事実を認定したわけではありません。キャスティングされる機会が減ったのは、偏(ひとえ)に『SMAP』『ジャニーズ』という金看板が外れたからだと思います」

 確かにそうかもしれない。ただ、テレビ局や広告代理店が事務所に気を使い、独立した芸能人の起用に二の足を踏むことはないのか。

「放送局や代理店は、常にリスクやトラブルの回避を意識します。あくまで一般論ですが、独立したタレントが元の事務所から円満に退社したのではない場合、そこには紛争の可能性や、不法行為などで損害賠償問題が起こった時の支払い能力の有無など、潜在的なリスクが存在すると判断してキャスティングを避けることはあると思うんです」

 その明文化されない“リスクを共有する空気感”こそが芸能界の怖さではないかとも思えるが、中井氏は、

「実際、日本ならではのビジネス形態がもたらす影響はあるのでしょうね」

 と指摘する。

「事務所と所属タレントは力を合わせ、いわば二人三脚でお互いの価値と利益を最大化させることを目標とします。決して精神論で申し上げているのではなく、これをマネージメント契約と言います。個人事業主であるタレントと事務所が対等な立場で専属契約を結び、事務所はタレントと相談しながら高みを目指すために宣伝や出演交渉を担います。新人ならボイストレーニングや演技指導、時には住宅の手配など生活一切まで面倒をみます。両者はチーム、家族なんですね」

■厳しい現実


 他方、よく比較対象にされるアメリカでは、

「エージェント契約と言いまして、仕事を取ってくる代理人に10%程度のフィーを払った後に、タレントが自分ですべてのスタッフを雇う手法が主です。日本では所属事務所が担う業務のすべてを、自分が雇い入れたスタッフに委託するという形です。法律顧問に広報担当などなど、彼らの人件費はじめ、諸経費はすべて、タレントが自身の取り分の中で賄います」

 ですから、と続けて、

「日本ではアメリカほどドライではない分、事務所への信頼感で仕事が発注される面があるんです。だから、タレントがチームから外れたら、その仕事に加われなくなってしまうケースは出てきます。厳しい言い方になりますが、個々のタレントは輝いていても、冷徹に見れば“余人をもって代えがたい”ほどの存在って、そうそういるわけではないんです」

 中井氏は、かつてある情報番組のMCが口にしたコメントを引き合いに出した。

「“タレントなんて売れれば自分の力、売れなきゃ事務所のせいにする”って言われたんですけど、ある意味、至言ですよね。タレントになる人はそのくらい自意識が高いわけですが、それだけ両者は不可分のチームということなんですよ」

 チームを支えるスタッフ側、つまり事務所の仕事は近年増え続けているという。

「これまでは、タレントを自宅に送り届けたらマネージャーの仕事は終わりでした。それが、最近はSNSに不用意な投稿をしたりしていないかチェックするのも大切な業務。これもなかなか大変なんですよ」

 今年、大手事務所を離れた有名芸能人は30人以上。女優の米倉涼子、柴咲コウ、栗山千明、タレントの田中みな実……。いまやSNSを活用している例が大多数だが、中井氏が続けて曰く、

「こうした流れは続くと思います。成長した子どもが親元を離れていくように、タレントが独り立ちを希望することはあって当然です。ただ、日本はハリウッドと違って、億単位の巨額のギャラが支払われるようなビジネスモデルはほとんどありませんし、事務所を去るのは公私ともに自分を守ってくれる防波堤を失うことでもあるんです。薬物や金銭、異性関係などを巡って問題が生じた時、賠償やマスコミ対応など全部を自力で解決しなければなりません。悲観的に聞こえるかもしれませんが、これだって厳しい現実ですよ。芸能人が自身の力を過信してはならないことは、サラリーマンなど一般的な社会人となんら違いはありません」

 独立イコール自由でバラ色の世界への切符、というわけではないのだ。

「週刊新潮」2020年10月22日号 掲載

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