ノブコブ徳井が語る「千鳥はなぜ革命なのか」 ノブの“覚醒”、大悟の“可愛らしさ”

 平成ノブシコブシ・徳井健太がお笑いについて熱く分析する連載「逆転満塁バラエティ」。

 第3回目は「千鳥」について。

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■ダウンタウン以来の偉業


 今回はのっけから断言をしたい。千鳥は天下を獲る。僕はそう思っている。

 ダウンタウン以来なされなかった偉業、形も答えも分からない「天下」という何か。漫画「ワンピース」の海賊王がグランドライン(偉大なる航路)に置いてきたお宝と似ている。何かは分からないけれど、とにかくめちゃくちゃすごいもの。それが「天下」であり「ワンピース」だ。遂に歴史の動く時が、この目で見られるかも知れない。とてもワクワクしている。

 千鳥の面白さは独創的で弱点が見当たらない。千鳥を嫌っている関係者も見たことがない。では、そんな千鳥は最初から無敵だったのだろうか?

■ノブの「努力」と大悟の「自信」


 岡山県出身で高校の同級生コンビ。強面の大悟と柔和な印象のノブ。2000年にコンビを結成して以降、二人は互いを信頼し、いろんな困難にも打ち勝ってきた。芸人の憧れM-1グランプリの決勝にも、結成からたった3年で進出し、その後4回もM-1決勝のステージに立つことになる。

 大阪ではロケの王様と称され、年間200本のロケをこなしていたらしい。しかもロケの合間には漫才やそれ以外のテレビ仕事をしていたから、目が飛び出すほどの忙しさだったろう。2012年に東京進出を果たした、切れ味鋭いツッコミのノブさんと、嘘がない誰からも愛されるキャラクターの大悟さん。

 あっという間にお茶の間から愛されていく。

 なんてクソみたいな記事を書くくらいなら僕はこのコラムを辞める。そんな簡単な話じゃなかったはずだ。

 千鳥さんの凄さは一言で言うならば、ノブさんの努力と大悟さんの自信だ。


■「大悟は一人でやった方がええんちゃうか?」


 大悟さんは千鳥結成以前、元々は一人で芸人をやっていたらしい。吉本とは別のインディーズのお笑い団体が大阪にあったらしく、そこのリーダーがなんと「笑い飯」さん。さすがの大悟さんは最初からその才能をメキメキと発揮し、笑いも取れる人気者になっていった。

 だが突然に、同級生を連れてきてコンビを組むと言い出す。その同級生というのがノブさんだ。

 ここからすぐに千鳥の快進撃が始まるのかというと、そうではない。今まで舞台に出れば爆笑をかっさらい、人気もあった大悟さんが、あろうことかノブさんと漫才をした途端、うけなくなってしまった。周囲は驚き焦ったが、大悟さんは何とも思わなかったらしい。

「大丈夫、俺らはおもろい」

 そう信じて疑わない大悟さんの隣で、ノブさんの胸中が穏やかであろうはずがない。
今まで面白いと評判だった大悟が、そうではなくなってしまった。これは、俺に原因があるのではないか。

 すぐに笑い飯さんに相談に行くと、「大悟は一人でやった方がええんちゃうか?」「ノブおもろないなぁ」と、容赦ない言葉を浴びせられる。令和になって、やたら、何たらハラスメントみたいなものが空前のブームだが、我々の若い頃はそういった愛情ゆえの「かわいがり」が日常茶飯事だった。

■「大悟のために面白くなりたかった」


 僕ならきっとすぐに辞めている。もしくは、そのインディーズライブからすぐに抜ける。
 恥ずかしいし、相方に面目ないし、とにかく惨めだ。

 ただ、ノブさんは違った。

 真逆を行った。

「おもんない」「辞めろ」と何度言われても、笑い飯さんにつきまとった。それはノブさんが鋼のメンタルの持ち主だったからではないと思う。

 ノブさんに当時の心境を聞くと

「大悟がおもろないわけないんやから、俺が面白くなるしかない。あいつの顔に泥を塗るわけにはいかない。プライドとか、恥ずかしさとか、そんなもんより俺は面白くなりたかった」

 そんなことを言っていた。

 これが40代の人間ならまだ分かる。でもまだ10代、自信満々でやってきた若者が飛び込むにはあまりにも灼熱の業火だろう。軽い火傷で済むような状態ではない。でも、そこに飛び込むことを、二人がそれぞれに迷いなく選んだ時点で、千鳥が売れることはもう決まっていたのだと僕は思う。


■現代のアウトレイジ


 ここからは千鳥のすごいところをひたすら書いていく。

 千鳥は二人とも先輩からも後輩からも好かれている。これは地味なことだけれど結構すごいことだ。

 例えば平成ノブシコブシの場合、相方の吉村は先輩、僕は後輩から好かれる傾向にある。という具合に、どちらか一方から好かれることの方が普通だ。

 これは芸人に限ったことではなく、一般社会でもそうなのかもしれない。どちらからも好かれるなんてことは、ほぼほぼ不可能だ。

 だが、千鳥は二人ともどちらかも好かれている。

 特に大悟さんにはとても可愛がっている後輩がいる。後に「大悟組」などと呼ばれるそのメンバーは、南海キャンディーズの山ちゃん、とろサーモンの久保田、中山功太、ネゴシックスなどが主で、毎日のように酒を飲み交わし、笑い合っていたそうだ。

 吉本には飲み会ではその場にいる一番先輩がお会計を支払わなければならない、という決まりがある。いや、別に決まっているわけではないのだけれど、そんな伝統がある。当然、大悟組で飲めば全て大悟さんが払うことになる。

 だが、先ほど述べたメンバーと大悟さんとは実は芸歴が1、2年しか変わらない。しかも正確に言うと、NSCと呼ばれる吉本の養成所を出ていない千鳥さんは、コンビ結成年で言えば僕と同期。山ちゃんと僕はNSCの同期だから、つまり、ほぼほぼ同期のメンバーのお会計を毎夜毎夜出していたことになる。

 ところが捨てる神いれば拾う神ありではないが、「若手芸人からの金なんかいらん!」と言ってくれる粋な居酒屋が大阪にはあった。「たこしげ」という居酒屋さんで千原ジュニアさんが若手の頃からお世話になっているような、吉本芸人御用達の老舗。

 そこに毎夜のように飲みにいっていた大悟さんは、ある日お会計で10万円をトレイに置く。

「こんなんじゃ足りないと思うんですけど、いつもご馳走様です」

 現代のアウトレイジ、正に大悟組の組長、千鳥・大悟だ。


■ボケるノブ、ツッコむ大悟


 芸のことで言えば、ボケとツッコミをきっちり分けていないところもすごい。

 いやいや、大悟さんがボケでノブさんがツッコミでしょ?と反論される方も多くいらっしゃるだろう。けれど千鳥は両ボケ両ツッコミだ。

 元々NSCが出来る前まで、師匠と呼ばれる、毎日舞台で勝負しているような芸人さんは この両ボケ両ツッコミのコンビが普通だった。前半は一人がボケて、もう片方がツッコむ。後半はそれが入れ替わる。笑い飯さんのスタイルほどボケとツッコミの役割が目まぐるしくは変わらないが、それが昔はスタンダードな形だった。

 それを、お笑い界の革命児・ダウンタウンが一新する。ボケの松本人志さんと、ツッコミの浜田雅功さん。キッチリと色分けをした。

 以降のお笑い界は呪いのように、ボケはどっちでツッコミはどっちだ、ボケなのにツッコむな、ツッコミなんだからしっかりしろ。そんなふうに言われるようになる。

 だが、初期のダウンタウンさんを見て欲しい。両ボケ両ツッコミの最高峰だ。二人とも、どちらの才能にも満ち溢れている。ただ仕事として分かりやすく色分けしているだけで、ツッコミが真面目な必要もないし、ボケが仕切ったっていい。

 二人が偉大すぎたため、ご本人たちの意思とはまったく離れたところで、僕らダウンタウン世代はボケとツッコミの洗脳に悩まされてきた。その呪いが原因で解散したコンビもたくさん見てきた。

 面白ければ、いい。本来すごく単純なことだ。

 ボケだろうとツッコミだろうと、面白いに越したことはない。空気を読めなければ人を笑わせることなんて、できっこない。


■“仲良しの友達”だからこそ作れる笑い


 それに気付いているのかいないのか、千鳥は両ボケ両ツッコミのネオスタンダード。まさに革命返しだ。

 僕が若手の頃に一番耳にした一番つまらない言葉が「ツッコミのくせに、ボケより笑いをとるな」だった。ボケだったら、そのくらいのハードル越えろよと、何度も思った。

 ダウンタウンさんだって、「ごっつええ感じ」のコントで、松本さんが登場する前に浜田さんが女性のおっぱいを揉もうとするボケの芝居をすることがあった。当然笑いが起きる。そこに松本さんがやってきて、さらに大きな笑いを生み出して……。笑いの掛け算だ。

 千鳥さんも同じだ。

 ノブさんは、どんな時でも大悟さんの前の段階でひと笑いを起こそうとする。そしてそのハードルを、大悟さんがさまざまな角度から越えていく。大悟さんはノブさんのボケや天然で起きた笑いに対して、嫉妬なんて絶対しない。「そんなハードル、わしが越えたる」という気持ちで楽しそうにノブさんを見て笑っている。

 こんなふうに二人で一緒になって笑いと戯れていられるコンビは、そうそういない。お互いを信頼しているのはもちろん、同級生だった時代から変わらない”仲良しの友達“という気持ちが今も根底にあるのだろう。


■千鳥の「上品さ」


 それに二人はすこぶる素敵だ。

 瀬戸内海の北木島で育った大悟さんと自然に囲まれたド田舎育ちのノブさん。それなのにどうしてあんなに二人とも上品なのだろうかといつも疑問だ。売れるために、ウケるために人を蹴落としてやろう!! そういう姿を見たことがない。

 どんな状況でも待って、相手の技を受けてから自分の技を繰り出す。自分が前に出ていきなり飛び道具を使ったり、肩透かししたりもしない、しっかりと組み合ってくれる。

 正に横綱相撲。

 ここまで真正面から闘ってくれるなら、こちらが負けたとしても清々しい。

 人に話をふる時だって、とても上品だ。自分がふりました、この笑いは自分のものですとアピールするような、そんな下品なふり方はしない。例えば女優さんやモデルさんに話をふる時、聞こえるか聞こえないかくらいの声でふる。自分の声を編集でカットしてもらってもいいくらいの小さな声でふり、彼女たちが自発的に発言したかのようにすることがある。

 なんて素敵なんだ。


■関西で無双になり、東京へ


 そんなふうに、千鳥らしく大阪時代を過ごしていると、いつの間にか関西地区では無双状態になり、その名を全国へ轟かすために東京に進出した。すぐに「ピカルの定理」という、僕らやピース、渡辺直美にハライチ、モンスターエンジンというメンバーでやっていたコント番組に合流することとなる。

 それまであまり千鳥さんと絡んだことのなかった僕は、会った初日の収録で千鳥というコンビのカラクリを知ることとなった。

「ピカルの定理」でやっていたコントは、ディレクターさんや放送作家さんが台本を書いてくれ、それを芸人が好きなように演じ、皆であーだこーだ言いながら作り上げていくスタイルだった。

 しかしその日の1本目、大悟さんが出るコントの収録はいつまで経っても始まらなかった。会議室で5時間くらいが経過し、結局大悟さんの出る予定だったコントの収録は中止されることになった。


■千鳥最大の武器は「大悟の可愛らしさ」


 スタッフ陣と大悟さんの笑いの折り合いがつかなかったらしい。なんて尖っているんだ、さすが千鳥。怖いなー、こだわり強いなー、僕が内心そう思っていると、ようこそ千鳥的なトークブロックだけを撮影することになった。

 収録が始まっても、なかなか大悟さんは喋り出さなかった。周りを睨みながら腕を組んでいるだけ。

 鬼だ。

 北木島からフェリーで江戸に鬼がやってきた。

 僕はそう思った。

 トークのラスト、ようやく大悟さんが口を開く。

 が、その声はとても小さくて何を言っているのか分からない。しかも、噛み噛みでもはや鬼の片鱗などない。

 スタジオは爆笑に包まれていた。あんなに怖い顔をしていたのに、まさか緊張していただけだのか……。

 本番中だったが僕はなるほど、と膝を打つ。

 千鳥のカラクリ。

 それは、大悟さんのボケ力、ノブさんのツッコミ力、ネタの面白さ、二人の仲の良さ。

 もちろんそれらもある、けれど千鳥の一番の武器は大悟さんの可愛らしさなのだな、と思った。

 どうして千鳥さんが関西のおばちゃん方に猛烈に可愛がられ愛されているのか、たったの数分で知れた。

 この人は、とても可愛い。それなのに、可愛らしさを売りにしていない。人間を剥き出しにして、ちゃんと笑いと向き合っている。でもどうしたって可愛い。そりゃ売れるわ!


■「ノブさんが今朝倒れた」


 その後、どちらかというとノブさんの方と仲良くなっていった僕は、何度か飲みに行かせてもらえるようになった。

 朝まで飲んだ次の日も「ピカル」の収録があった。けれどノブさんは楽屋に来なかった。寝坊したのか、とメンバーは盛り上がったが違った。スタッフさんからノブさんが今朝倒れたと聞かされた。

 それ以前にもノブさんは脳の血管が切れたか何かで、一度病院に運ばれたことがあった。薄れゆく意識の中、タクシーの中で横たわりながら携帯で奥さんと大悟さんにメッセージを送ろうとしていたらしい。


■「俺が死んだら他の奴とコンビ組んでええからな」


「こんな奴と結婚してくれてありがとう」と奥さんへ、「俺が死んだらすぐに他の奴とコンビ組んでええからな」と大悟さんへ。

 オチとして「そんなメールを送らないで本当に良かった。信じられないくらい恥ずかしい思いをするとこだった」と言っていたが僕は心底感嘆した。命の危険を感じているなか、僕が相方の吉村に感謝のメールを送ることは絶対ないだろう。

 そんなノブさんがまた倒れてしまった。詳しい状況は分からないが、この前の症状が関係しないわけがないと思った。脳の血管にとって、刺激は大敵。酒や激しい運動など毒にしかならないだろう。少し考えれば分かることなのに、僕は酒も止めずに朝までノブさん付き合わせてしまった。

 これでもし本当にノブさんに何かあったらそれはもう僕のせいだ。どうしよう、ノブさんの奥さんと子供たち、大悟さんになんて謝罪したらいいんだ。頼むノブさん、僕のためにも息を吹き返してくれ。ノブさんのいない「ピカル」の収録中、僕はひそかに願い続けていた。

 結果、翌週の収録には無事ノブさんがやってきてくれた。

「大丈夫やけど、しばらくはアルコールと激しい運動、刺激になるようなことは控えるように」とのことだった。

 本当によかった。あの時ノブさんに何かあったら、僕はノブさんのご家族や大悟さん、それにすべてのお笑いファンから恨まれることになっただろう。のちの千鳥の大躍進はなかったかもしれないのだから。


■麒麟川島「ノブが覚醒した」


 その後ゴールデンに上がってから「ピカルの定理」はすぐに終わってしまった。レギュラーメンバーはバラバラになった。

 たった3年という短い年月で、なかでも千鳥さんとは1年というさらに短い月日を共にしただけであったが、フジテレビのコント番組でお互い切磋琢磨して戦い合った者同士、その絆は簡単に消えない。

 それぞれ個々の仕事が多くなり、ピースの又吉くんは芥川賞を獲り、綾部はニューヨークに行き、渡辺直美はインスタ女王になり、吉村やハライチ澤部はテレビで見ない日はないくらいに忙しくなっていった。

 そんな中、千鳥もみるみる売れていった。

 深夜やゴールデン、スタジオにロケ。ひな壇MCから地方番組まで、目覚ましい活躍をみせていく。

 最近、麒麟の川島さんに会った時、売れた千鳥さんについて尋ねると、

「ノブが覚醒したんやろな、大悟は何にも変わらずずっとおもろい」

 と言っていた。

 ノブさんの進化し続け変化を恐れない努力と、大悟さんの揺るがない面白さと自信。老若男女に好かれる二人の人柄。そして可愛らしさ。

 遂に、時代が変わる時がやってきた。ほぼ同期として、ひとりのお笑いファンとして、千鳥が天下をとる様を見届けたい。

YouTube「徳井の考察」でも千鳥について語っている
https://m.youtube.com/watch?v=vdSikdFsVPM

徳井健太(とくい・けんた)
1980年北海道出身。2000年、東京NSCの同期生だった吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。バラエティを観るのも大好きで、最近では、お笑い番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集めている。趣味は麻雀、競艇など。有料携帯サイト「ライブよしもと」でコラム「ブラックホールロックンロール」を10年以上連載している。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw

2020年10月31日 掲載

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