中井貴一、鈴木京香、斎藤工…ことごとく共演ダメな人たちを集めた「共演NG」

■テレビ局とふたりの所属事務所の謀によって共演することに


 昔は恋人同士だったが、破局。25年間共演NGだった俳優の2人が再びドラマで出会う。脇を固める役者陣も、ことごとく共演NGな人々ばかりを集めた、厄介極まりない現場となっている……という物語がドラマ「共演NG」である。

 今の世の中、周囲に気配りできる人は賞賛される。でも、時々ふっと思うことがある。

「あれ? 今この人うまいこと言ったけれど、保身のためじゃない?」

 考えや真意を聞いているのに、おくびにも出さないどころか、周囲への気遣いの言葉に勝手に変換する。

 回答どころか会話にもなっていないのに、ふわっと善人ヅラするのがうまい。結果、聞いた方がゲスい・幼い・至らない、と印象付けられてしまう。心がザラつく瞬間…。

 そんな口の中が苦くなる感覚を思い出したのが、テレ東肝煎りドラマ「共演NG」である。

 肝煎りというか、一か八かの賭けに出た感。確か、月曜22時はビジネス系のドラマを放送する「ドラマBiz」なる枠だったのに。

 こっそり幕を閉じ、しれっとなかったことにして、鳴り物入りで新規枠を喧伝する面の皮が厚いテレ東。そういうところ、好き。

 俳優・遠山英二(中井貴一)と女優・大園瞳(鈴木京香)をW主演に迎えて、新ドラマ(しかも不倫モノ)を制作する「テレビ東洋」が舞台。

 実はこのふたり、昔は恋人同士だったが、中井の二股が発覚して破局。京香は世の同情を一身に集める破局会見を行い、中井はしばらく干された過去がある。

 つまり、このふたりは25年間共演NG、という設定だ。

 陰ではお互いを「うんこ野郎」「クソ女」と罵り合う犬猿の仲のふたりが、テレビ東洋とふたりの所属事務所の謀によって共演するハメに。

 実は、主演のふたりだけではない。脇を固める役者陣も、ことごとく共演NGな人々ばかりを集めた、厄介極まりない現場となっている…という物語なのだ。

■ブラックコメディであり、ちゃんと大人の恋愛ドラマでもある


 心のザラつきを思い出したのは、京香のセリフだった。

 第一話、波乱の幕開けであるドラマの制作発表の場で、過去をほじくり返すスポーツ紙記者の質問に対して、常に視聴者やスタッフへの気遣いの言葉に変えて乗り切った京香。

 ところが会見終了直後、これ見よがしに優しく声をかけてきた中井に向かって「人を気遣うフリをして、自分に火の粉がかからないようにするのね」と罵り、舞台裏では大喧嘩に。

 中井も京香も、保身と印象操作が上手なズルい大人で、相手の心をザラつかせてきたことがよくわかる。

 案外似た者同士なのだ。発想や思考回路も相通ずるものがあり、実は最高の相性ではないかと視聴者に思わせる構図に。一見、犬猿の仲に見えるふたりの心理戦が思った以上に深い。

 恋愛ドラマによくある大喧嘩とは意味合いが違う。年輪とともに培ってきた狡猾さが滲み出ている。

 もちろん、これはコメディだ。二枚目気取りで三の線に貶められている中井と、しっとりと強欲を兼備した京香が、性善説に基づかずに確実に笑わせてくれるので、業界の裏話を暴露するブラックコメディではある。

 でもその一方で、ちゃんと大人の恋愛ドラマとして成立している。

 また、登場する役者陣の設定が実に細かくて、「いかにも」と思わせる。

 中井は「若いときスターになったが、今はスペシャルドラマでたまに見る人」、京香は「シリーズで女検事役をずっとやってる人(シーズン12では総理大臣まで起訴しちゃった)」という。

 なんとなく実在の俳優を思い浮かべちゃう…。

■Netflixでドラマが大ヒットし、押しも押されもせぬ人気クリエイターになった設定


 時代劇出身の大御所俳優(里見浩太朗)と、その元付き人でニューヨークで研鑽を積んだ個性派俳優(堀部圭亮)。

 里見は大きな声と大袈裟な芝居で外連味たっぷり、堀部はニューヨーク帰りで雰囲気芝居にこうるさい。

 元は師弟関係だが決裂した設定だ。ふたりのいがみ合いには、役者論の温度差とジェネレーションギャップを盛り込んでいる。

 同じアイドルグループに所属していたが、犬猿の仲のふたり(小野花梨と若月佑美)。

 先輩後輩の関係だが、かたやアイドル、かたや女優業へ。反りが合わずことごとくぶつかる。

 さらに、同じイケメン俳優でも、戦隊モノ出身(細田善彦)と2・5次元出身(小澤廉)がライバル意識を燃やす(ここはちょっとよくわからない。戦隊と2・5次元って仲悪いのか?)。

 さもありなんと思いながらも、敵意剥き出しがあからさますぎて、やや騒々しい印象も(本当はもっと陰湿な手口で嫌がらせするんだよ、たぶん)。

 この「共演NGアベンジャーズ」の皆さんを一堂に集めたのが、実はテレビ東洋が依頼したショーランナーなる人物。脚本家でありながら、企画・キャスティング・宣伝も手掛ける市原龍(斎藤工)だ。

 Netflixでドラマが大ヒットし、押しも押されもせぬ人気クリエイターになったという設定。これもまた、さもありなん。

 斎藤工が、というか、その手の華やかでにわかな人物に丸投げするしかない、テレビ局の断末魔状態が。

 しかし、情報量がえげつなく多いドラマだ。舞台や人物設定が緻密なだけに、さらっと簡潔に見どころを伝えるのが難しい。

「共演NGっつったって、結局は架空の話で、本当のタブーにはつっこまないんでしょ?」と思っている人もいるかもしれない。

 そんな意地の悪い人は、ぜひ劇中の出役ではなく、裏方の人々のちょっとしたシーンに耳を澄ませてほしい。

 そこにテレ東の本音(というか真実)がさらっと込められているからな。


■テレビ東洋の話だが、テレビ東京の話にしか聞こえない


 まず、報道局から異動してきたばかりの新人助監督(森永悠希)だ。

 ドラマや役者に対するリスペクトがほぼゼロ。中井と京香が昔出演し、最終回の視聴率が36・8%を記録した名作恋愛ドラマ「愛より深く」も知らないと平気で口にする。

 そうそう、テレビ局の人ってドラマを案外観ていなかったりするんだよね。そこ、リアル。しかも、森永は「テレ東ドラマ、深夜はアリだけど、ぶっちゃけ数字もそんなに取れてないし」と痛い現実を突く。そこな。

 さらに、ドラマ部長(岩谷健司)とプロデューサー(迫田孝也)のやりとりも生々しい。

「次のドラマがコケたら、テレ東唯一のドラマ枠は営業部にとられる」「領地没収だよ。テレ東からドラマ消滅。上層部はコスパのいい番組を求めてる」「身の丈に合わないこんな新社屋を建てるからだよ…」「悪魔(ショーランナー)に魂売るしかない」。

 テレビ東洋の話だが、テレビ東京の話にしか聞こえない。

「ドラマBiz」の消滅といい、新社屋といい、この自虐っぷり! テレ東のそういうところ、好き。そして、悪魔というのはつまり秋元康のことか、と妙に納得もいくわけで。

 医者・刑事・弁護士モノという定番ドラマに飽き飽きしている人には、この分類不能な「自虐珍味ドラマ」をぜひ味わってほしい。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月9日 掲載

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