映画「鬼滅の刃」ヒットの裏に音楽 「主題歌」「劇伴」の魅力を読み解く

映画「鬼滅の刃」ヒットの裏に音楽 「主題歌」「劇伴」の魅力を読み解く

主題歌「炎」を歌うLiSA

 映画「鬼滅の刃 無限列車編」の快進撃が止まらない。

 公開初日から45日間で動員数2053万2177人、興行収入275億1243万8050円を記録。歴代興行収入ランキングでは「タイタニック」(262億円)を超えて2位となり、「千と千尋の神隠し」(308億円)を超える可能性も出てきた。コロナ禍であると考えれば驚異的な数字といえる。

 ヒットの理由についてはストーリーの魅力、多彩な登場キャラ、国内最高峰のアニメスタジオ「ufotable」の美麗な映像など様々に挙げられるが、音楽も重要なピースだ。

 LiSAの歌う主題歌「炎」は大ヒットし、2020年を象徴する一曲になった。年末の紅白歌合戦で歌われるのは確実で、レコード大賞の有力候補となっている。

 また映画で流れる伴奏音楽「劇伴」の評価も高い。SNSでは観賞後に「音楽が良かった」との感想は後を絶たず、ラッパーで映画評論家として知られるライムスターの宇多丸もラジオの鬼滅評で「劇伴がテレビ版よりもすごい迫力を増していて良かった」と褒めた。

 映画「鬼滅の刃」の空前の人気の火付け役となったのは、2019年4月から放送されたテレビアニメ版「鬼滅の刃」だ。その劇伴を担当したのが梶浦由記、椎名豪の2人だった。テレビアニメ版「鬼滅の刃」では梶浦がメインテーマなど数曲を、椎名がバトルシーンや挿入歌「竈門炭治郎のうた」などを担当。劇場版でも2人の名前が引き続きクレジットされている。

 梶浦はアニメ業界では大御所といえる作曲家。これまで「魔法少女まどか☆マギカ」「Fate/Zero」などの人気作品を担当し、実写でもNHK連続テレビ小説「花子とアン」との音楽も担当した。

 一方、椎名は、以前はナムコに所属し、同社の「テイルズ オブ」シリーズや「アイドルマスター」シリーズなどゲーム音楽を中心に活躍。ナムコ在職中からアニメの音楽も手掛け、2017年には同社を退社しフリーになっている。


■作品における劇伴の重要性


 そもそもアニメ、特に劇場版アニメにとって、劇伴はどれくらい重要なのか。

「ソードアート・オンライン」(以下、SAO)シリーズ、「富豪刑事Balance:UNLIMITED」など数々のテレビ、劇場アニメを手掛けた伊藤智彦監督はこう語る。

「劇伴は観客がどういう気持ちでこの場面を見ればいいかをアシストをしてくれる、エンターテインメント作品では特に重要です。例えば梶浦さんは、かつて『2〜3秒でこういう場面だとわかるように作っている』と言っています。

 テレビアニメに比べ、映画のほうが限定された時間でモチーフを使うことができるのでより重要です。例えば、私の手掛けた『劇場版SAO』では、作中のキャラクター・ユナの歌のメロディをモチーフに、音数が少ない状態から最終的には楽器を多く使った編成の曲にし、キャラクターと共に音楽そのものも成長しているように使いました」

 老若男女問わず、特に子どもからの支持が厚い「鬼滅の刃」だが、劇伴によって作品理解を手伝う効果も発揮しているのだ。

 また梶浦、椎名ともに楽曲のバックに架空の言語を流し、無国籍な雰囲気を出すという共通の特徴がある。劇場版「鬼滅の刃」ではインドネシアの楽器ガムランを使い、異国情緒が足されている。作品は日本のみならず台湾、香港でも大ヒットとなっているが、劇伴の質の高さや無国籍感が、非日本語圏にもわかりやすく作品の良さを伝えているようだ。


■伊藤監督が語る梶浦、LiSAの魅力


 そして映画「鬼滅の刃」で重要なのが、エンディングで流れる、LiSAが歌う主題歌「炎」。作曲、作詞(LiSAと共作)を担当しているのが梶浦で、今回の劇場版では「炎」と、劇中で使われるそのアレンジバージョンを担当している。

「劇場版SAO」「僕だけがいない街」などで梶浦と仕事をした経験のある伊藤監督は、その楽曲の特徴についてこう語る。

「怨念があるというか、どろっとした感じ。何か裏にドラマチックなものを感じさせる音楽です。『魔法少女まどか☆マギカ』エンディング曲の『Magia』や『僕だけがいない街』エンディング曲の『それは小さな光のような』など歌詞がある曲のほうが、より情念が強く、より熱量のあるものになっているのではないかと思います」

 そこに作詞と歌唱を担当するLiSAの力が加わる。「SAO」シリーズで主題歌を歌ったLiSAについて、伊藤監督は作品理解度の高さを挙げる。

「私はなるべく、劇伴作家は元よりオープニングやエンディングの担当者、可能なら歌う本人や作詞家、作曲家と会って、アニメ本編はこんな思いで作っていると説明する機会を用意してもらうようにしています。『SAO』アニメ2期のエンディング曲にLiSA本人が作詞している『シルシ』という曲があるのですが、若くして死んでしまう登場人物の当事者側と、残される側の気分を、こちらが伝えなくても歌詞で表現してくれました」

 伊藤監督は梶浦、LiSAとテレビアニメ版から関わる2人が劇場版『鬼滅の刃」の主題歌を担当したことで、より作品への没入度が高まったのではと推測する。

「歌物は特にエモーショナルな働きをしてくれるので、本編上で聞こえていた楽曲が最終的に主題歌で流れることによって、より感情的に聞こえる。また主題歌と劇伴が似たイメージならば、エンディングで流れる歌が、より統一感を持って聞こえるという作用もあるかと思います。『鬼滅の刃』では、唐突に有名ミュージシャンを主題歌に起用するのではなく、テレビ版から関わる梶浦さんが曲を作ることで、『作品』というパッケージにまとめることができたのではないでしょうか」

 これまで劇場アニメでは、ゲスト声優や作品に合わないミュージシャンの主題歌を起用するなど、ファンが納得しないタイアップが多かった。劇場版『鬼滅の刃』の大ヒットは、そうした忖度なく、素直にテレビ版からアップデートした作品をファンに届けたことが熱狂的な支持を生んだといえそうだ。

徳重龍徳(とくしげ・たつのり)
ライター。グラビア評論家。大学卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。記者として年間100日以上グラビアアイドルを取材。2016年にウェブメディアに移籍し、声優、アイドルなどのインタビューを担当。現在は退社し雑誌、ウェブで記事を執筆。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月1日 掲載

関連記事(外部サイト)