「ボス恋」も好スタート TBS「火10」で名作がうまれる特別な理由

「ボス恋」も好スタート TBS「火10」で名作がうまれる特別な理由

上白石萌音

 恋愛ドラマ路線を敷き、数々のヒット作を生んでいるTBS火曜10時台(火10)の新作「オー!マイ・ボス!恋は別冊で」が始まった。12日放送の初回の世帯視聴率は11・4%。好成績だった。ツイッターのトレンド1位も獲得。なぜ火10は強いのか?(視聴率は全て世帯視聴率でビデオリサーチ調べ、関東地区)

 最近の火10はタイトルがやたら長い。ということでTBSは公認の略称を用意している。今回は「ボス恋」だ。
 その主演は昨年1月期の火10「恋はつづくよどこまでも(恋つづ)」と同じ上白石萌音(22)。もっとも両作品のカラーはかなり違う。

「恋つづ」は少女漫画の世界を映像化し、世間の女性をキュンキュンさせることを使命としたラブコメの一丁目一番地だったが、「ボス恋」はコメディ部分を増量。どちらかというと昨年7月期の「私の家政夫ナギサさん(わたナギ)」に近い。

「わたナギ」の全話平均世帯視聴率は15・1%。2016年10月期の大ヒット作「逃げるは恥だが役に立つ(逃げ恥)」の同14・5%より上だったのだから、制作者側が再びその方向に向かうのは不思議ではない。

 その上、「わたナギ」放送時と同じくコロナ禍が続いている。このドラマをTBS編成部で手掛けた松本友香さんは成功の理由についてこう自己分析している。

「『わたナギ』の明るく、悪い人が1人も出てこず、ほっこり平和に家族で楽しんで見られる題材というのが、多くの世代の心理状況にフィットしたのではないかなと思っています」(*)

 「ボス恋」の笑いを多めにした背景にもコロナ禍があるのだろう。

 火10は伝統的に時代の空気を感じ取るのがうまく、それに合わせて作られている。だから古臭さがない。恋愛ドラマの中には昭和を思わせるような作品がいまだにあるが、火10は違う。

 また、主人公を視聴者が応援したくなるのも火10の特徴。「わたナギ」で多部未華子(31)が扮した主人公・メイもそう。制作陣が視聴者に共感してもらえるキャラクターを考え抜いたという。

 それはメイの職場での先輩や後輩との関係性から、ファッションに至るまで細部におよんだ。メイの世界観は事前に詳細に作り上げられていた。

 上白石が演じる「ボス恋」の主人公・奈未も広く共感が得られそうなキャラクターが考えられた。マジメで素朴、何事にも一生懸命であるものの、ドジで天然。近寄りがたいスーパーウーマンではないのは火10の主人公たちの共通項である。スーパーウーマンは共感を得にくい。

 奈未の職場は大手出版社。創刊準備中の新ファッション誌の編集部にいる。厄介な上司やキザな同僚こそ出てくるが、「わたナギ」と同じく悪い人間はいない。だから安心して見られる。不快にならない。

 奈未は大学までは故郷の熊本で過ごし、上京したばかりだ。東京もファッションも知らない。仕事の中身は絶対君主的な編集長のお世話係。雑用全般をやらされている。

 編集長役は奈々緒(32)。凄腕編集者であるものの、毒舌で冷徹。いわゆるドSだ。もっとも、それは仕事用の顔で、本当は繊細らしい。

 上白石のお相手役はKis-My-Ft2の玉森裕太(30)。出版社の前でたまたま出会った。実家は大きな製紙会社を経営している。後になって分かったことだが、姉は奈々緒だった。

 上司と偶然出会った男性は姉弟……。若いOLがそろって華美な生活を送っていたトレンディドラマほどではないが、設定にやや強引なところがあるのも火10の特徴である。「わたナギ」では29歳OLのメイが豪華マンションに住み、高級ファッションを身にまとっていた。「ボス恋」では東京に不慣れな奈未が雑用で都内を駆けずり回るのも不自然である。

 もっとも、それを見る側に受け入れさせてしまうのも火10の脚本のうまさなのだろう。また両作品の場合、コメディ色が強く、現代のおとぎ話とも言えるから、とがめるのは野暮。ただし、シリアスなドラマでこれをやったら、大人の視聴者は逃げる。


■なぜTBSのドラマは強い?


 火10は演出も巧み。例えば「ボス恋」の初回ではこんな場面があった。

 上白石が演じる奈未が大手出版社の備品管理部の採用試験を受けるために上京したところ、羽田空港の自動販売機前で100円玉を落とす。転がった100玉は知り合う前の奈々緒の足下へ。それをスロー再生でじっくりと見せた。

 奈未の人生の分岐点を示す場面だった。奈未は安定第一と考えていた女性で、コツコツと100円玉貯金を続けていたほどだが、備品管理部の採用試験に落ち、奈々緒扮する編集長のお世話係をやる羽目になってしまう。100円玉貯金の日々が、不安定極まりない日常に変わった。

 100円玉1つで奈未のそれまでの歩みと上京後の生活を表現したわけだ。洒落た場面であり、火10演出陣のセンスの良さを感じさせた。

 昨年10月期にはプライムタイムに3本の恋愛ドラマがあったが、その全話平均世帯視聴率でトップだったのも火10の「この恋あたためますか(恋あた)」。

「姉ちゃんの恋人」(フジテレビ系)は約7・6%、「#リモラブ」(日本テレビ)は約7・7%だったが、「恋あた」は約9・5%。最終回では11・3%をマークし、有終の美を飾った。

 火10に限らず、TBSのドラマは強い。どうしてなのか? さまざまな意見がある。

「ジャニーズ所属タレントを使わないから」。玉森はジャニーズだ。そもそも所属事務所で出す、出さないを決めるような局のドラマは面白くならない。

「プロデューサー主導で作っているから」。それはTBSに限った話でなく、全局同じ。第一、プロデューサーを1990年代から前面に押し出し、今も続けているのはフジである。

 そこで内側の人に正解を尋ねると、「マンパワーが他局とは比較にならない」(TBSドラマ制作部スタッフ)そうだ。TBSドラマ制作部とTBSスパークルのドラマ映画部のスタッフが渾然一体となって制作に当たっているからだという。

 TBSスパークルはTBSと同じくTBSホールディングスの子会社。ドラマ制作で名高かったドリマックス・テレビジョン(旧・木下プロダクション)などのTBS系列各社が結集し、2018年に設立された。

「TBSとスパークルの間には垣根も上下関係も一切ない」(前出ドラマ制作部スタッフ)。

 事実、近年の火10の路線を作り上げ、現在は22日スタートの「俺の家の話」(金曜後10時)のチーフプロデューサーを務める磯山晶さん(53)はTBSからTBSスパークルに出向中。映画「罪の声」を撮ったのはTBSの土井裕泰監督(56)であるものの、制作はTBSスパークルだ。

 TBSとスパークルはワンチーム。他局ではこうはいかない。どうしても局の人間が主導権を握るようになるし、そもそも垣根が取り除けない。
 また、企画を練ったり、制作にゴーサインを出したりして、局の中枢部に当たる編成部とドラマ制作部の関係もTBSは緊密。

「他局では編成部の力が強いが、うちは対等。盛んに人事交流が行われ、一緒にドラマを作るという意識が強い」(前出ドラマ制作部スタッフ)

 TBSドラマの強みは組織にあった。となると、他局は簡単には追いつけそうにない。

*創 2021年1月号

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2021年1月19日 掲載

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