猫好きの心をくすぐるテレ東「おじさまと猫」 ぬいぐるみかよ!と最初は思ったけれど

 テレ東(およびBSテレ東)は猫推しのテレビ局だ。スタジオに猫が放してあり、放送中に机上を堂々と横切ることもあった「田勢康弘の週刊ニュース新書」(放送終了)が画期的だったし、猫ドラマも盛んに果敢に制作。が、NHKも猫推しが強く、あらゆるジャンルで高品質な猫番組を作るもんだから、完全に負けとる。負けとるが、決して挫けない。それがテレ東である。

 昨年は松重豊に猫の着ぐるみを着させて意表を突いた「きょうの猫村さん」、小西桜子と前田旺志郎の切ない純愛ドラマ「猫」ときて、次は何かと思っていたら……ぬいぐるみかよ! 「おじさまと猫」である。

 主演は草刈正雄。愛する妻(高橋ひとみ)を1年前に亡くし、生きる気力を失っていたピアニストだ。近所の幼馴染・小林(升毅)が心配して、たびたび訪れるも表情は暗い。配偶者を亡くした喪失感は生きる気力と表情を奪う。生活から色も音も匂いも奪う。すべてが億劫、何もかもが空虚に感じる。亡き妻をふと思い出す瞬間が何度も訪れ、涙する。この脆い年輩の男性を草刈が静謐に体現。憂いの表情は胸に迫るものがある。漫画原作のダンディな容貌も含めて、適役だ。

 草刈は妻が猫を飼いたがっていたことを思い出し、ペットショップへ行ってみる。そこに運命の出会いが待っていた。1歳のエキゾチックショートヘアの不細工な猫、それがふくまるだ。

 これがぬいぐるみなわけよ。猫好きとしては「そこ、どうよ?!」と思う。ただし、声は神木隆之介。ペットショップで売れ残っていじけていたが、草刈が注ぐ愛情に全身で応えていくっつうことで、いい仕事してんだわ、さすが神の子。猫だけに語尾は「にゃ〜」のはずが、微妙に活用して「にょ〜」に。「にょ〜」って!

 しかも、ぬいぐるみの動きがすごい。ボディは関節がないぬいぐるみなので、ふわもこ感が勝るし、肉球も薄い。でも時折、仕草の中にリアルな猫感が浮上してハッと驚く。さらには顔がすごい。感情を表現するまぶたやマズル周辺の繊細な動きはもはや猫じゃなくてヒト、いや神。あれ、どうやって動かしているのかな。人形操演は人形劇団プーク。素晴らしい。ねほりんぱほりんに負けず劣らず。

 ということで「おじさまと神」になっている。一方、升毅の愛犬・茶子はホンモノなので、こっちはこっちで「おじさまと犬」だ。実は猫好きには柴犬好きが多い傾向もあるので(潮調べ)、かゆいところに手が届く設定だなと感心しているのよ。

 コロナでペットを飼う人が増えた一方、無責任な飼い主もいると聞く。犬も猫も今は10年、20年生きる。病気やケガをすれば高額の治療費もかかる。生半可な気持ちではなく、一生添い遂げる覚悟を、という啓発も勝手に読み取ってしまう。己が先立つ可能性が極めて高い年輩の人は、特に、ね。

 猫好きの老婆心を発動させるこのドラマ、実はリアルな猫は少なめ。不満な人は毎年恒例のBSテレ東を。「BSキャッ東」は一日中猫まみれの編成だってさ。どんだけ猫好きだよ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

「週刊新潮」2021年2月25日号 掲載

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