三谷幸喜作品に抜擢された柿澤勇人が見せる、「感情フル稼働」の演技

柿澤勇人 撮影/齋藤周造

 三谷幸喜、作・演出の新作舞台『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』が9月1日から東京・世田谷パブリックシアターで上演される。大のシャーロック・ホームズ好きを公言している三谷氏が満を持して手がける今作で主演に抜擢されたのは、数多くのミュージカルで活躍する柿澤勇人さん。名探偵になる前の若き日のシャーロックを演じる。

■■決め手は“孤独に寂しそうに見えたから”

「■役者の大半はそう思っているんじゃないかと思いますけど、いつか三谷作品に出演したいという気持ちは、もちろんありました。でも、三谷さんは基本的に役者にあて書きをして脚本を書かれるというのを聞いていましたし、コイツでコレをやらせてみようって思わない限り、簡単にはキャスティングされないこともわかっていたので、主演することが決まったときは、本当に奇跡のような巡りあわせだなと思いました」

 昨年、ミュージカル『メリー・ポピンズ』に出演していた柿澤さんを見た三谷氏が、■「僕のシャーロック・ホームズがここにいる」と直感で舞台化を決めたということについては、かなり驚いたという。

「スタッフから最初にその話を聞いたときはすごくびっくりしましたよ。バートはWキャストでしたし“大丈夫かな、ホントに俺なのかな?”って(笑)。

 三谷さんは『シャーロック・ホームズ』の舞台でもある19世紀後半のロンドンがすごく好きだそうで、同じく当時のロンドンで生まれた『メリー・ポピンズ』も好きなんだとおっしゃって、東京と大阪にも見に来てくださって。■その日によってキャストの組み合わせも変わるわけですから、“何パターンも見たうえで、なぜ僕をシャーロックにしたんですか?”と聞いたら、“君だけ孤独に寂しそうに見えたから、それがシャーロックと重なった”と言ってくださいました。僕が演じたバートは悲しさを前面に出すような役ではないので、何を見てそう思われたんだろうと思いましたけど、そこはあまり聞きすぎると怖いので、セリフがちゃんと入って、少し余裕が出てきたらいろいろ話してみようかなと思います」

 探偵として有名になる前のシャーロック・ホームズの知られざる物語を描いた台本は「まったく予想もしていなかったような展開」だそうで。

■精神年齢8歳のシャーロック・ホームズ

■「シャーロックは、冒頭から落ち着きなく動き回ってます。人とコミュニケーションがとれない、人の心がわからない、感情の起伏が激しくてコントロールができない。普通の人たちから見ると、常識はずれでかなり風変わりな人物として登場するんですよ。そんなシャーロックを友人のワトソン(佐藤二朗)とワトソン夫人(八木亜希子)、兄のマイクロフト・ホームズ(横田栄司)がなんとかして救おうとする。その設定が意外でしたし、予想を裏切る面白さです。三谷さんからは、精神年齢8歳くらいの感じでずっとうろちょろしててほしい。10秒以上じっとしていないでほしいって言われてます(笑)」

 柿澤さんはじめ、キャスト7人のうち5人が三谷作品初出演。三谷組の稽古場の雰囲気は?

「笑いが絶えないです。雰囲気はすごく和気あいあいというか、あったかいですよ。でも初出演の役者はみんな探り探りです。■特に僕と(佐藤)二朗さんと(横田)栄司さんの男3人は、おどおどしてますね(笑)。とりあえず休憩ですってなったら、3人で喫煙所に行って、ずっと1点を見つめながらタバコ吸って“う〜ん”って感じです。三谷さんはひとつひとつ芝居を決めてくれるのかと思っていたら、“ハイ! どうぞ!”って、最初から細かく言わない方で。だからもう、二朗さんが台本を持って“え〜っと”って、ず〜っとウロウロしてて(笑)。あんなテンパってる二朗さん、初めて見ました(笑)。

 稽古3日目に、三谷さんが“全体図を見たい”とおっしゃって、一幕の半分くらいまで初めてざっくりと立ち稽古をしたんですけど。■稽古が終わって夜7時過ぎに家に着いて、食事前にちょっと一杯飲んだら、気づいたらソファで洗濯物に囲まれて寝落ちしてました(笑)。今までそんなこと1回もなかったのに。言われたことは少しでも10でも5でもいいからやりたいから頑張ってたんでしょうね。一幕のラストのシャーロックはボロボロですよ。もうめった打ちにされるんで、ちょっとかわいそうになるくらいです」

 三谷作品の魅力は、センスのある笑いはもちろん、見る人の心に突き刺さるメッセージが大きい気がすると語る。

「だから見てよかったと思えるし、いつもすごいなって感じます。今作では、みなさんの知っている世界的な名探偵シャーロック・ホームズが誕生する瞬間が見られると思います。それは三谷さんにしか書けない芝居なので、ぜひ目の当たりにしてほしいと思います。■僕は喜怒哀楽の感情全部をフル稼働しないとシャーロックになれないと思うので、1度ボロボロになってからだんだん探偵として成長していく姿を本番で演じながら、僕自身も少しでもシャーロックみたいに試練をかいくぐって、ボロボロになりながらも千秋楽を迎えたいと思っています」

 最近のお気に入り、YouTubeやティックトックの可愛い犬と猫の動画で疲れを癒しつつ、ストレートプレー初主演に挑む。柿澤シャーロック必見です!

■『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』 
 名探偵、シャーロック・ホームズが親友ワトソンと出会ってから、最初の事件に遭遇するまでの数か月間の物語。シャーロキアンを公言する三谷幸喜が、人間としても探偵としても未完成な若き日のシャーロックを描く。出演:柿澤勇人、佐藤二朗、広瀬アリス、八木亜希子、横田栄司、はいだしょうこ、迫田孝也 東京公演:2019年9月1日〜9月29日@世田谷パブリックシアター/大阪公演:10月3日〜10月6日@森ノ宮ピロティホール/福岡公演:10月12日〜13日@久留米シティプラザ ザ・グランドホール【公式HP】horipro-stage.jp/stage/sherlockholmes2019/

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かきざわ・はやと 1987年10月12日生まれ、神奈川県出身。'07年、劇団四季入団。『ライオンキング』ほかに主演。'09年、退団後はミュージカルのほか、ストレートプレー、映画、ドラマなど幅広く活躍。今後は、ミュージカル『フランケンシュタイン』(2020年1月)、ミュージカル『スクール・オブ・ロック』(2020年8月)に主演。

取材・文/井ノ口裕子 スタイリスト/椎名宜光 ヘアメイク/松田蓉子 衣装協力/シャツ(kazuki Nagayama)パンツ¥(mando)ともにSTUDIO FABWORK 電話03-6438-9575 靴 スタイリスト私物

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